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片割れ chap.12 #16

(注意)全羅道の方言を広島弁に置き換えています。ユノのイメージに合わないと思われる方、大変申し訳ありません。お気をつけ下さい。











______Y.side______







この感情は、何だろう





不安な時や機嫌が悪い時、なんで落ち込んでるの?どうしたの?って聞かれるよりも、チャンミンと冗談を言いながらテンションを取り直した方が元気になっちゃう、みたいな。

またはチャンミンが何も言わなくとも、隣でニコッと笑ってくれたら俺の機嫌は治っちゃう、みたいな。


良くない胸の内はいつの間に、









嬉しい







なんか、幸せ。





「じゃ、お疲れ様です」


帰り支度を終えてジェウォニヒョンと談笑していると、練習室に顔だけひょっこり出したチャンミンが反射する鏡に映って、心臓が飛び跳ねた。何年経っても飽きない。いつも格好いいけど、さっきからなんだか特に特に格好良く見える。特に。


「チャンミナ!ご飯一緒に食べないか?」

「えっ」

「せっかくだしヒョンと食べよう?すっっごい美味い料理、食べさせてやるから♪腹減ったろ?」

「、、、減った…。笑」


目玉が飛び出しそうなほど見開いた大きな瞳がふにゃりと緩まって、分厚い涙袋に乗った。口角を上げた唇からは白い歯がばらっと見えて、胸がまた高鳴る。ギュッ、て鳴る。

足は自動で歩みを始めて、出入口でまだ覗いたままの格好でいるチャンミンの元へ。ドアを引いたらチャンミンの全身が現れた。着替えたトレーナー姿はシンプルでやっぱり格好いい。手に手を絡めたそれは後から気付いた。それより真正面のダイヤモンドに吸い込まれそうで。その綺麗な輝きの瞳に囚われて。
時さえスローモーションに鈍る。そらせない。ずっと見てたい。
なのにあちらから逃げてゆくようにするりと、艶やかな睫毛を伏せて隠れるからじれったい。
恥ずかしがらないで。見せて。もっと見たいから、呼ぶ。繋いだ手すら揺すって、懇願して甘えた声が体の中から沸き上がる。


「チャンミィン」


そうして再び現れた秘宝に、ドキッ。











この感情の名前は?




「行くなら早く行くぞ…」


横からマネヒョンの押し殺した声がしてチャンミンを掴んでた手は取られた。今度はマネヒョンに連れられる格好で進む俺の横に、チャンミンがちゃんとついてくる。
これ。この安心感。


「いいの?お金を騙し取られた惨めな僕にどんなご馳走で慰めてくれるんです?笑」

「チャンミナは騙されてない、大丈夫だからっ。でも世界一美味いの、奢る。笑」

「お~♪りゃ~♪」


あったかいのがじんわり、幸福を感じる。


「どこ行くんです?」

「秘密っ☆ふはは!」

「くくくくくくっ」


笑い声でじゃれ合う、この幸福の別名は?


マネヒョンにだけ行先を耳打ちして、「いや、ユノ…」って何故か困惑顔のマネヒョンを「いいから、いいから」とあしらった。だって何も悪いことなんてないんだから。

こんなに心が浄化され満たされる、この綺麗な感情に悪いものなんてひとつも無い。


「♪ヒントやろうか?」

「へ……、」

「へ?」

「へっ…ぶしゅん!!…。ふははははは♪笑」

「おいっ!なんで今クシャミなんかするんだよ!ふははははは!笑」



もっとチャンミンの隣に居たい。




















______His mother.side______





ある日の夕方、
マネージャーさんから一本のお電話を頂いた。


『できたらお母様、しばらくの間でもユノ君の宿舎へ来て頂けませんか?』

「え、、…ユノがどうかしたんですか!?」

『いえいえっ。ただ一人で少し…、、サポートが必要かなと。……あの、大変申し上げにくいのですが、二人からチョン家のご両親は事情をご存じだと伺っておりますのでお伝えすると、その……この夏、チャンミンが宿舎を出まして。その……』

「あ、ああ…そうなんですか……」


焦るのが目に見えるように、あやふやに捲くし立てるマネージャーさんの早口で気を使ってくれているのが分かった。いつも冷静で、でもユーモアも粋もある普段の彼とはかけ離れていて、胸が痛い。何に対して、誰に対してなのかも分からず、私達は謝りあった。とにかく謝るだけ許されるような気がして。


『申し訳ありません…!』

「そんな…こちらこそ申し訳ありません…」


チャンミン君が宿舎を出たことは知っていた。秋口にチャンミン君のお母様がわざわざ、光州まで挨拶に来て下さったから。お互いどこまで息子達のことを知っているのか、事務所もどこまで分かっているのか、具体的な話まではできなかったけれども。


『その…本人は大丈夫だと言ってるんですが。夏バテなのか、最近一向に食が細くなってしまいまして……お母様の手料理ならユノ君も食が進むと思うんです。これからさらに忙しい時期ですし、不躾かと思いますが是非お母様にはサポートをお願いするべきだと提案がありまして』


二人が別れたのね、とは察した。


「分かりました。家族と話してできる限り早く行きます」


毎朝早く起きてユノのためにお祈りをしていた夫に話すと、とにかくすぐ行くよう促してくれた。娘のジヘは、「オッパがチャンミンさんを諦められるわけがない」と、チャンミン君のお母様がいらっしゃったことを伝えた時と同じ言葉を強気で繰り返してた。パートで働いている工場へはすぐ連絡して二週間を二回、合わせて一ヶ月のお休みをもらった。
全羅道で集められる地元の食材をこれでもかと買い漁ってソウルのユノの宿舎へ向かうと、マネージャーさんが思い出したように忠告をくれた。


「そうだ。わざわざお越し頂いて恐縮なんですが…、あくまでチャンミンとのことや体調のことを心配する素振りをユノ君には見せずに、何気なく接してあげて下さいと、」

「?親は子を何時でも気にかけるものです。私はそのために呼ばれたのでは?」

「それが、なかったことになっているみたいなんです…。ユノ君の中では……」

「……。は?」

「その、、チャンミンと、恋愛…関係になっていたことだけ、、忘れてしまっているようで……でも一緒に活動したり生活したりしたことははっきりと覚えていますし、いわゆる記憶喪失とも違う。変な感じなんです。本当によく分からないんです」

「、、、、、」


良いことなのか、悪いことなのか。この時の私の気持ちは私にも表せない。
でも母親の私と同じくらい、もしかしたらもっと奥の深い所でマネージャーさんもさ迷っていた。だから私はとにかくユノに会いたいと思った。


「母さん、突然どしたん?」

「…。そ、れがね~、勤めとる工場で製品の入れ替えがあるらしゅうてね。しばらくラインも稼働せんらしいけぇ、ユノの顔見に来てしもーたわ。笑」


夜遅く帰宅した息子は、日本の東京へ招いてくれた時よりはるかに痩せこけていた。なのに頬だけはやけに浮腫み、薄く笑った三日月型の瞳は血走っていて、思わず涙が出そうになった。苦笑いがばれやしないか一瞬で緊張が走る。キッチンで包丁を扱っていた手が震えて、堪えるのにやっとだった。


「おお、トトリムク(ドングリの澱粉を固めた寒天状食品)?懐かしい」

「じゃろう?手間暇かけたんじゃけ、全部食べんさいよっ」

「もちろん」


口調の穏やかなユノにまずは安心した。この子は大丈夫、この子はまた立ち直れると希望が湧いて腕を振るえた。

始めは品数を多く量をごく少なく、韓定食をこれくらいなら食べられるんじゃないかと息子の胃袋と睨めっこしながら食事を出して食べさせた。ユノがこれから一人でも作れるように、オリタン(鴨鍋)やさらに簡単な鍋料理も教えていった。食器や家具は新しいものばかりで私も楽しみながら家事をしたけれど、何気なくその感謝を伝えたマネージャーさんから、「チャンミンが出て行った時ユノ君が暴れて、部屋のもの全部滅茶苦茶にしたんです…」と言われて。
さすがに泣いた。

ご飯はなんとか食べてもらえるようになった、食べられる量も増えた。でも今度はユノの生活スタイルが気になった。いつも仕事から直帰して明け方の五時頃までリビングや自室で一人、ミュージカルの舞台の練習をしたりツアーの構想を練っていたり。一、二時間ソファーで気を失うように寝てまた出勤。まともに寝ないから微熱も下がらない。まるで引きこもっていた。


「ユノは友達が多いじゃろう。忙しゅうても前はよお電話で話したり遊んどったのに。母さんに気を使わんでもたまには外で食べてきてもいいんよ?」

「いや、母さんが来る前から何かあんまり話したいとか外出る気もなくなっとって」

「そう……、じゃあインテリアとか興味持ったら?部屋の雰囲気、ガラッと変わるんよ?」

「うん。それ、いいな」


部屋を荒らしたなんて嘘みたいに大人しい息子。穏やかになったんじゃない。穏やかさを装っただけの。味気ないガム。炭酸の抜けたソーダ。牙を抜かれた虎。そのようなものを連想させた。


それでも朝はきちんと起きていた。だから大目に見たけれど、シャワーの時間が長かったり、すぐ物をなくしたり、服の着方をいきなりアレンジし直しだしたりして、出る直前はだいたいドタバタ大騒ぎ。手伝う私は汗まみれ。やっと支度が間に合ったと思うと同時に、玄関に並べられた靴を踏み散らかして、迎えに来たマネージャーさんの横をあたふたと不格好にすり抜けてゆく。


「もう、本当にあの子は。いつもすいません、マネージャーさんも毎朝大変だったでしょう?」

「いえ、仕事はいつでも変わらず真面目にやってくれてますし支障ありません。それに前まではけっこう余裕を持って、颯爽と格好良く出かけてましたよ。その……チャンミンが居たので……」

「……」

「すいません、では失礼します」

「はい。今日も皆さんが頑張れるよう、お祈りします……」




ユノにとって、チャンミン君とは何なんだろう?




誰も居なくなった朝日の差し込む部屋を見渡しながら、ここで二人がどうやって生活していたのか、想像してみる。これは私の一年前からの習慣でもある。新羅ホテルで、二人から関係を告白された時からずっと。
考えている。


『ヒョン!早く!お願いします!』

『分かった、分かったっ』

『全然分かってないじゃん!まだ着替えてないし!』

『これは、歯磨きしてる間にちゃんと今日のコーディネート考えてて』

『今日朝一で衣装合わせでしょ?意味ないじゃん』

『!そうだった!』

『はいっ、行くよ行くよー』


ユノはトボケる所もあるから、しっかりしたチャンミン君ならそうやってずばりとユノを急かしてくれたのかもしれない、と思うとクスッと笑える。そんな慌ただしい朝だってあっただろう。


「さーて。掃除でもしようかね、もうすぐお昼になる」


でもずっと一緒に居た二人だから、お互い無言でも気兼ねなく過ごす日中だってあっただろう。ユノはきっとTVに気を取られながらアイスを立ったまま食べてて、チャンミン君は勉強をしたり読書をしたり。一言二言会話して、またそれぞれの世界へ戻ったり。貴重な休日の、一人だけど一人じゃない、そんなリラックスできる空間だったろう。

今雑巾掛けしているこの真新しい机や棚には、そんな思い出ひとつないのだろうけど。


「……。トロフィーは無事だったんじゃね……良かった……」


ユノの自室、横に長い本棚の一角に、ユノの歴史を見つけた。金やクリスタルの記念品に日付とグループ名、賞名が刻まれて光る。ユノのこのどれも全ての段落に、チャンミン君が存在している。世界に、たった一人だけ。


「…ふふっ。親の私らも、こればっかりは無理じゃけぇね。笑」


夕方から少しずつ色んなナムルを仕込んだポリパプ(麦ご飯)の味見を確認して時計を見ると、すでに日付が変わりそうな時刻だった。チクタク、チクタク、秒針の音さえ響くひっそりとした宿舎。


「……」


夜。嬉しい時も悲しい時も過ぎた最後の時間に、愛を囁く日もあっただろう。


『今日もありがとう、チャンミン。愛してるよ』


どこまで本気だったのか。
どんな想いでチャンミン君を見つめていたのか。


「どれほど大切だったんじゃろうか……」


子は親の分身ではない。
どんなに考えてもユノ本人でない私には分からないけれど。


「……ん?……帰ってきたかね…?」


でも子どもの声なら分かる。玄関の向こうからでも、弾けた笑い声を拾える。

生き生きと泳ぐように活発で、楽しげで、可笑しそうで。永遠に聴いていたい息子の鮮やかな発声に引き寄せられるように玄関へ向かった。鍵を開けると同時に扉が外からガバッと力強く開けられて、我が子の明るさ満天の笑顔が広がる。


「母さん!」


そう、この一年間ずっと考えていた。
だってこれが親の絶対的信念じゃないか。






私は子どもに幸せであって欲しい。


ユノにとっての幸福をただ祈る。





「チャンドリ連れて帰ってきたわ♪母さんの料理、ご馳走してあげてぇや!」


ユノに引っ張られて中へ入ってきた彼は、私の顔を見て驚愕したまま固まってしまったけれども、綺麗な瞳は相変わらず煌めいて素晴らしい。

礼儀正しくて聡明で、優しくて、どんな時もずっとユノの隣に居てくれた人。どんなに恨もうと努力しても感謝と愛情しか抱けない、美しい生き方をユノと貫いてくれた青年。


そうよ、きっと────


「チャンミン君……」

「ぁ…………ぁ、の…………」

「母さん、チャンミナ久しぶりじゃろ!?少し見ないだけでいい男になったろ?ふふふふ♪」



ユノをユノたらしめてたのは、














チャンミン君なんよ






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コメント

  • 2018/08/14 (Tue) 19:26
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  • 2018/08/14 (Tue) 20:10
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  • 2018/08/14 (Tue) 20:37
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  • 2018/08/15 (Wed) 18:00
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  • 2018/08/16 (Thu) 04:25
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