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片割れ chap.12 #13











僕はまだ、

 

  




人の形を保っているだろうか









一日スケジュールを終える度、確かめずにはいられない。明日も立たなければ。TOHOSINKIでいられない。


「お疲れ様、チャンミン君。着いたよ、明日は八時に迎えに来るから」


眼球だけ動かして車の前方を見ると、運転席に座るアシスタントマネージャーさんが目頭を揉んで、眼球疲労を少しでもと和らげてる。サイドボードの液晶には〈3:21〉の時刻が浮かんでる。


「狎鴎亭に別宅があるなんて羨ましいなぁ。広津区のマンションにもこの前引っ越したばかりなのに」


厳密には違うけど『ここはチャンミンの好きに使っていい』って言われたし。現にスペアキーも持たせてもらってるから誰も不振に思わない。広津区のマンションはスジュや誰かしら芸能人のペンにとっては周知されてる建物で、一人で静かに落ち着ける誰にも知られない場所を他にも用意しておきたいと言ったら、マネヒョンは即答で了解してくれた。まるで僕に負い目でもあるように。


「シウォンさんの紹介なら賃料も安くしてもらってるの?隣の、向かいのマンションの棟はチェ財閥の本家なんだよね?はぁ~、毎日見ても豪華だなぁ…!」


シウォニヒョンがご家族と住んでいる、インテリアの改装工事を終えたばかりの建物は確かに恐ろしいほど豪奢な造り。韓国で最も高級な繁華街地区に。桁が違う。
僕が今後どれほど稼いでもあそこに気軽には住めないだろう。もちろんこの、スペアキーを貰っている方のマンション、シウォニヒョンのものだった部屋も。


「…改装工事の期間中だけ住むためにこっちのマンション買われたそうなんで、今は特に必要ないんですって」


声が出た。まだ人間らしい部分が残ってて一安心。
でもそれなら、尚更早く崩れたい。ただ一人では戻ってこれなくなるから。シウォニヒョンが命綱。


「それだけで!?一棟まるごと!?」

「じゃあ明日も宜しくお願いします」


いつの間にか活気を取り戻したアシスタントマネージャーさんを尻目に車を降りる。深夜組のコンシェルジュさんに軽く会釈すると深いお辞儀が返ってくる。そのまま何基かある、粋なデザインが施されたエレベーターの一つへ。目的階で降りてすぐ目の前の重厚な扉を解錠。ここの鍵はほぼ毎日使ってる。


シウォニヒョンにジムで助けてもらった日から、


「……あれ。まだ帰ってきてない……?」











僕はシウォニヒョンのものになった。









「僕の方が遅いと思ったのに……」


暗い空間に吸い込まれるように靴を脱いで上がれば、歩行は飲んでもないのに千鳥足。今日一日分の燃料は尽きた。わざと壁に当たりながら進む肩の痛みが心地いい。
笑って、はしゃいで、何も迷いのない振りをして夢に向かって。その度に傷を負っていったずたぼろの感情に似ていく気がして。

長い廊下とだだっ広いリビングを抜けて奥の寝室へ入ると、キングサイズのベッドに行き着く手前で足がもつれて倒れた。もう今日は動けない。崩壊した。人じゃない。もう。ユノヒョンに忘れられた僕は、人間の形を形成できない。


「チャンミン、おまたせ」


闇の中からほんのり声がして、天井を仰いだかと思ったら横抱きに宙へ抱え上げられた。


「ここもいいけどベッドの方が気持ちいいかもしれないぞ?試しにベッドに寝てみよう?」


僕を軽々、余裕たっぷりにお姫様抱っこした腕を伸ばして羽毛布団に優しく預けてくれる。この最高に顔の整ったジェントルマンに、僕は毎晩救われている。


「それにチャンミンはもう俺のものなんだから。心も身体も大切にしてくれなくちゃ。約束したろ?」

「……そうでした…」

「勝手に傷いちゃいけない。誰にも触らせちゃいけない。俺が許可しない」

「……」


シウォニヒョンに所有されている。


「俺のところにいて、他へは行くな。どんな時でも呼んでくれれば必ず、俺が誰よりも一番に駆けつけるから。裏切りは許さないよ、チャンミン」

「はぃ……」


一人で立てなくても。シウォニヒョンが支えてくれる。どろどろになった液状の自分がまた形を持ってゆく。

真剣に僕の顔を見つめてたシウォニヒョンがゆるっと優しく微笑んだ。


「着替え、出すよ。今日はもう寝る?」

「…ちょっと、飲みたい、かも……」

「俺もチャンミンと飲みたくて、少しいいワイン持って帰ってきたんだ♪着替えたらリビングにおいで」


目の前にニンジンをぶら下げられて、着替えてリビングに行くくらいまでの力ならまだ残ってるかもしれない、と現金な自分がぽこっと起きる。後を追って寝室を出た時には、シウォニヒョンも着替えてワイングラスを用意してくれている所だった。窓の外は朝が近付いていた。
そこでようやく、人間らしい心も取り戻す。


「シウォニヒョンも忙しいんでしょ…?今まで仕事?」

「うん。今ドラマの撮影でなかなかね」

「すいません……」

「なんで謝るの。あっ、俺のドラマなんて観る気さらさらない?トップスター役だから、格好良く写ってるんだぞ?演技も最近上手くなったって評価されてるのに…。涙」

「ぃ、違います違いますっ。もちろん観ます!けど、、ご迷惑かけて、すいません……」

「付き合ってるのに迷惑も何もないよ。俺はチャンミンの彼氏なんだから」


さらっと言う。さすがにドキッとする。


「むしろもっとワガママ見せて欲しい。今すぐ会いたいとか、連れて行けとか、話聴けとか、これ買ってとか。チャンミンになら何言われても可愛いと思うな♪」

「っ、いやいや…、そんな、」

「おいで」


ごく自然に。当たり前のように超高級ブランドのソファーにエスコートされて、僕の手の中にグラスを。グラスの中にロマネ・コンティを。


「ロマ……」


その銘柄に、シウォニヒョンの本気を見た。



「比較的若いけど、当たり年だよ」






どこまでも見守り続けてくれる友やじっと慰めてくれる家族、自分に好意を持ってくれてそうな女の子はこんな僕にさえいたけれど、






その頃僕が渇望したのは


圧倒的な恋愛表現だった





思い出の空洞を埋めるためにはそれ以外なかった。心も身体も、朝、TOHOSINKIのチャンミンとして奮い立てれば誰のものになっても良かった。


「愛してるよ、チャンミン」


男でも構わない


「今すぐじゃなくて。ゆっくりチャンミンと、理想的な愛の形で結ばれたらいいな、とは思ってる。できれば、ね?」

「……そんな事言って。何もしないのに愛の形なんて分かりますかね?僕を抱くなら今がチャンスですよ……」


グラス越しのフランス最高級ワインは複雑なルビー色。時間と歴史が絡み合い、香りがふうわり僕に手招きする。見てるだけで涎が出そう。


「分かるよ、精神が通じ合えば。それに会う度、…朝まで抱いてるだろ…?」


声を潜めてまたシウォニヒョンが色気めいた言い方でわざわざ耳元に囁くから、僕はやっぱりおかしくて笑ってしまう。


「だからっ…ふふっ、その言い方っ。あれはただ本当にぎゅーっとしてくれてるだけじゃないですか。笑」


今の僕は、シウォニヒョンによって形成されている。
毎夜燃料切れで無気力に液状化してしまう僕を、シウォニヒョンが夜、一晩中抱き締めて朝までに固めてくれる。抱き締められる力強さで自分の形が分かってすごく安心できる。だれどそれだけで、キスも扱きもフェラもセックスも要求されない。

シウォニヒョンに押されて流れるまま付き合うことになったけど、『プラトニックこそチャンミンに求める究極の愛だよ』と説いて、僕を拍子抜けさせた。


「俺はクリスチャンだし、残念だけど俺の通ってる教会では同性同士の性行為を認めてないんだ。ユノもクリスチャンだから、てっきり二人はプラトニックな関係だと思ってたんだけど、もしかしてユノとは……そういう関係だったのか…?」

「、、、」


しまったと、思った。
完全に墓穴を掘った。

こちらはてっきり知られてると思ってた。から。訝しげな表情のシウォニヒョンに何と言えば適切か。今まで潤ってた喉が一瞬に干上がって、冷や汗が浮き出す。

どうしよう。誤魔化さないとユノヒョンが。
彼の大事な信仰から迫害を受ける。きっとシウォニヒョンからも軽蔑される。
どうしよう。まずい。でも絶対嫌だ。どうしよう。


「どう?少しはいい演技、するだろ?」

「…………ぇ、、、」


シウォニヒョンが突然ニコッと笑った。何で笑ってるのか全然理解できなくて、さらに微動だにできない。ただ僕は懇願するしかない。


「ユ…ノヒョンは、、違うんです。僕がまだ若いから、あのぉ…っ、何て言うか…ちょっと、興味があって……。だからユノヒョンは何も悪くないですよ」

「……お前達って、本当に…同じこと言うんだな。笑」

「シウォニヒョン、違うんです…!本当に…っ」

「ごめん、ごめん。そうじゃなくて。感心しただけ。笑」

「……は、…?」

「それよりチャンミン、ごめん。さっきのは…俺が悪ふざけし過ぎた……頼むから怯えないで。ああ言えば恥ずかしがるかなと思って、お前の照れた顔が見たくて、つい。あぁ、申し訳ない…、」

「、…?、、、」


何が何だか分からない。
でも、注がれたグラスを持ったまま硬直してる僕をすぐさまシウォニヒョンが文字通り抱き締めてくれて、ホッとした。伝わってくる体温。力強さ。微かなシウォニヒョンの香水の香り。呼吸が楽になる。


「…嫌がることしないって約束したのに、この調子だと返す時ボコボコにされそうだな…。くくくっ。笑」

「……すいません、何のことを言ってるのか。。さっきから全く分かりませんよ……」

「チャンミンは何も心配しないで。……行為は、俺は求めないけど、非難もしない。それも愛に近付く一つの方法だよ」


シウォニヒョンは少しして体を離すと、僕の肩を抱いたまま隣に座り直した。そこは今までユノヒョンの場所だったのに。ふと思えば、ただ虚しい。だから止めた。


「ロマネ・コンティ、飲んでみていい…?」

「もちろん。チャンミンのためのワインだよ」

「…、…、んー…!……凄い……!感動的だ…!」


豊潤な香りが咥内に充満する。美味しいというよりは、時間を飲む、という贅沢。


「俺は、独占欲は強いけど。損はさせないから。とにかくチャンミンには俺のところから離れないで欲しい。そうしないことには精神的な繋がりなんて、期待さえできないだろ?」

「こんな素晴らしいものまで飲ませてもらって…当たり前でしょう。僕はシウォニヒョンのもの」

「嬉しいよ、チャンミン」


シウォニヒョンだけ見てればいい。

夜崩れて、朝立てればそれでいい。










一日が終わるまでは、人間でいられる









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コメント

  • 2018/03/10 (Sat) 00:55
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  • 2018/05/06 (Sun) 10:19
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  • 2018/07/18 (Wed) 22:53
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