後悔なんてしない~ユノ編~ chap.4








結局その日はドンへの家にまで場所を変えて3人で作戦を練った。だけどこれという方法も見つからないまま、何か気が付いたことはお互い報告しようという取り纏めのない結論だけ無理やり出して、そのまま泊まって出勤することにした。

かなり早めに部屋を出たのに日差しは朝からすでに照りつけるように強い。


「悪い、先行ってて。俺カフェに寄ってから行くわ」

「オッケー。じゃあユノまた後で」

「あ、ユノ。シムの事はここだけの話にしとけよ。シム自身、何も訴えてこないって事は詮索されたくないかもしれないし。なのに俺らが奔走してるって分かったら、下手するとコンプライアンスに引っかかるぞ」

「分かってるって。ドンへ、ありがとう」


2人に手を振りながら、歩く人の流れと違う横手の脇道へ。突き抜けたところの交差点で信号待ちをしながら、向かい側に「TVXQ」と赤い文字が踊るガラス張りの目的地を確認する。昨日は気付かなかったけど、なんとその斜向かいには昨日行った店も見えた。
チャンミンを今日あそこへ誘ってみるんだったことを思い出す。


「そうだそうだ。会ったら忘れないようにすぐ言おう♪」


絶対喜ぶだろうな、なんて考えながら横断歩道を渡ってTVXQのドアを開ければ空調の効いた店内が心地いい。
お目当てのアイスチョコを注文していると、背中から「ユノヒョン?」と静かな声が聞こえた。


「おー、チャンミンっ」


振り返ると、淡い青色の上質そうなスーツを上下共パリッと着こなしたチャンミンがいた。暑さを感じさせない涼しげな色が気持ちいい。


「おはようございま…」

「サムギョプサル!」

「……は。え…??」

「そこ!そこ見えるだろ?あそこ行こう、今夜」

「あ、え……も、もしかして覚えててくれ…」

「あ!悪い。俺の思ってたことが先走っちゃったわ。笑
今日何か予定あったか?」


言い忘れないようにと捲し立てて、やっとチャンミンがいつもと雰囲気の違う格好をしてる事に気付いた。
俺は人より極端に発汗しないから着用するけど、うちの社員は記念日の特別なデートでもない限り、真夏にスーツの上着なんてまず着ない。規定はあるけど至って皆ラフ。
なのに今日のチャンミンは、スーツどころか腕時計もカフスもネクタイもピンまでも一工夫あるものを付け、それでいて髪型はふんわりパーマで堅苦しさを感じさせない、絶妙なバランスを操っている。


「いえいえっ。あの、…今日できたらユノヒョンとご飯でも食べに行けたらって思ってたんで……す、すごく嬉しいです…っ!」


チャンミンが何か言い掛けてたような気もするけど、とにかく誘って嬉しいって言ってくれて俺も嬉しくなって、半ば強引にチャンミンにも追加注文させて一緒に席へ着いた。どうやら俺より先にここへ来てすでに寛いでたらしい。


「すいません、いつも奢ってもらって」

「いいよ、先輩なんだから当たり前だし。俺がそうしたいの」

「アイスチョコも好きなんですか?普段苺系の飲み物飲まれてたイメージなんですけど」

「そうそう、アイスチョコも好きっ。男らしくないかな、はは。笑」

「へぇ。。覚えとこ…」

「ん?」

「いえいえ。さっき何となく外を見てたら、ユノヒョンが歩いてやって来るのが見えて。朝からなんてラッキーなんだって思ったらもう…」

「ん?ラ?」


チャンミンには声が小さくなる癖がいつからかできてしまって、最後まで聞き取れないことが多々あった。
そこに俺はいつも探求心が生まれる。
ちゃんと聞きたいって思うのに、なかなかそれを繰り返してくれない。
もっと知りたくなる。
何て言ったの?チャンミン?


「あ、ぃや!あの、ユノヒョンがすっごいニヤケて跳ねるように歩いてたので。笑
何があったんだろう?って思わず声掛けさせて頂きましたっ。笑」

「あ、ホント?ちょっと恥ずかしいな。笑
お前のこと考えてたから」

「え……」

「昨日行ったそこの店が美味しくてな?酒も豊富だったし。これはもう今日にでもチャンミン連れて行きたいって考えてたんだ」

「……き、昨日の今日でまた同じお店とか。僕は行ってみたいですけど、ユノヒョンは飽きません?」

「あー?……あ、そっか!チャンミンに食べさせたくて自分のこと忘れてたわ。笑」


自分でも呆れる天然加減に、爆笑されるかな、と思ったけど。
チャンミンは意外にも下唇をきゅっと噛んで『嬉しい』を押し込めるように、目と頬っぺただけを持ち上げて笑った。

チャンミンって本当に面白い。
嬉しい、申し訳ない、どうしよう、恥ずかしい。様々な感情がそっくりそのまま顔に浮き上がって、表情がくるくる変わってゆく。
単純には語れない、複雑な人の心そのものをこの目で見てるよう。


「じゃあサムギョプサルはまた他の日に行くことにして、今日は別の店にしようか。お前も何だか一段と洒落てるし♪」

「ぁ、ぅ……似合わないですよね……」

「ううん、すごく似合ってる。格好いいし、可愛いし。綺麗だ」


一瞬シュンとした眉が次にはハッとしたように上がる。そしてまた、半月形に弛む。
もっと見たいと思う。
その鮮やかな色とりどりの変化。


「…なのに皆、何を勘違いしてるんだろうな?」

「ぇ、え…?」


まごうことなきイケメン。笑った顔が最大級に可愛くて、仕事馬鹿ででも誘えば飲みにも休日遊びにもつきあってくれる。

こんな奴、普通モテまくるだろ?いや実際モテてるんだろうけど。
俺が女だったら絶対狙うし離さない。なのに結婚まで考えてたっていう前の彼女とはあっさり別れたみたいだし。ましてや変な噂やイジメまであるなんて信じられない。


チャンミンの隣には今日も存在感のある巨大なナップサックが鎮座してる。


「……お前、何か欲しいものでもある?」

「突然ですね……」

「あ、いや。何だろ、突然おっさん気分になっちゃったわ!何でだろ、あはははは!」


誓って言えるけど、女運や仕事運がなくて可哀想だなとか、そういう憐れみの気持ちじゃない。

もっとこう、柔らかい気持ち。
なんて言うか、ちやほやしてやりたい。
モテさせたいし、仕事もうまくいかせてやりたいし、美味しい食べ物を食べさせてやりたい。


チャンミンの喜ぶ顔が見たい


そう思って聞いたのに、答える声のトーンは一変して暗くなった。


「ありますよ。絶対無理ですけど」

「…へー。でも無理な事なんてないよ、要は自分の気持ち次第だろ?」

「だってユノヒョン……昨日…、どこかに泊まりましたよね……?」

「、、え?」


僅かばかりの間、一からしっかり作ってあるチョコの風味にチューチューとカップの底へ夢中になっていた事と、今までと全然違う方向から飛んできた突拍子な話で、理解するのに数秒かかった。

見上げると一瞬だけ。
ほんの一瞬だったけど、チャンミンは激痛が走ったのか顔を歪め、そしてすぐ不穏な空気の中へと表情を紛れ込ませていった。


「…スーツも靴も昨日と同じですね」

「あー、昨日はその、」


ドンへの所に泊まってチャンミンのことを話し合ってた。そこまで言いそうになって漸くドンへの『ここだけの話に』という言葉を思い出して、また数秒を費やして軌道修正する。


「、、友達のところに泊まってそのまま来たからな。楽しかったわ♪」

「……良かったですね。でも今夜は、、僕とデ、デートですからね♪笑
今日は誰の所にも行かないで下さいねっ。笑」

「あはーはーはーっ♪了解了解。笑
絶対忘れないからな?」

「はい。笑」


冗談で言うこともいじらしい可愛さがあって、また俺の見たい笑顔が返り咲いて。
もうその花を翳らせたくない一心で、「チャンミンの指名ならいくらだって俺の予定は空けるから」、なんて頭を撫でながらナップサックを背負う手伝いをして席を立った。
俺たちのフロアに入る頃には今日行く店が決まって、指切りをして約束を押すとチャンミンが本当に喜んでいてやっぱり俺は嬉しくなる。


「ユノヒョン、今日も頑張ります!!」


運動会の開会宣言をする子どものように少々大袈裟な打ち出しでフロアを突き抜けて、次に見た時のチャンミンの横顔はすでに仕事モード、真剣そのものだった。
そんな所も可愛い。


チャンミンは、『可愛い』でいっぱい。













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コメント

  • 2017/08/16 (Wed) 22:00
    No title

    チャンミンが口の中でブツブツ言ってる感を出すの上手いねぇ。

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