片割れ chap.12 #7







フィッティングで決まった深いワインレッドのスーツが自分でも似合うと思った。飛行機の中で数時間でもしっかり眠れたおかげで、今日は始めからシャープな顎のラインが現れてる。


「ユノさん、入りまーす!」

「よろしくお願いします」


スタジオにいるスタッフ全員と挨拶した後、本題のMV撮影のためディレクターから全体の大まかな流れを聞く。


「最初はこのセットの真ん中の椅子に二人座ってもらって部屋の中のシーン。次は合成用、最後は一人ずつリップ、の順で撮影していきますので」

「はい」


説明を聞きながら、目は無意識に出入口へ。
チャンミンを待ってる。
東京に着いてからマネヒョンにオーダーするチャンミンの内容が引っ掛かったから。





『無理かもしれないけど僕の言動がおかしい時はできる限り教えて下さい』

『チャンミン…っ、』


寄り掛かる背中を無言で力強くさするマネヒョンの腕まで震えていて、2人の歩く後ろ姿が危ういほど奇妙だったから。


『……チャンミナ?………具合でも悪くなったのか……?』


俺の声はちゃんと届いたんだろうか。
チャンミンが立ち止まってふいに俺の方へ振り向いたかと思うと、額に差し伸びてきた指先。露骨に歪む眉。


『熱も、まだ続いてるんですか?』


いつも聡明で真っ直ぐな瞳が揺れてる。


『……まあ。…かな……?』


俺はお前のこと聞いてるのに、お前は俺のことを聞いてくる。
なあ、ちゃんと聞こえてる?
まるで悪い時の俺みたい。
でもそんな調子外れの気遣いなのに胸がざわつく。無性にくすぐったい。ずっと労って欲しい、なんて。…思っちゃったりして。

柔く伸びるチャンミンの腕を手で抑え外したマネヒョンがもどかしいとさえ感じた。


『チャンミン』

『ぁ……。くそっ、…駄目だ……っ』


駄目なことなんて1つもないのにチャンミンはそう言った。すがるようにマネヒョンに謝る。


『すいません、勢いづいてしまって……』

『、つい?』

『…ふっ。……血迷った犬のように、、、』

『……そう、か。……そうか……』


俺に解けない暗号で会話する2人。寂しそうに自嘲するチャンミンも、その撫で肩をさらに掻き抱くマネヒョンも、俺から遠退くように早足で歩き出す。前へ。俺を置いて。体はすでに俺の数歩前へ。

何かに落ち込むチャンミンの役に立たない俺は、金魚のフンみたいにただ2人に付いて進むしかなかった。
チャンミンを支えるマネヒョンと、マネヒョンに頼りきってるチャンミン。


(俺がTOHOSINKIなのに……)


チャンミンの助けにならない。
それが酷く落ち着かない。





「チャンミンさん、入りまーす!」

「宜しくお願いしますっ、宜しくお願いしますっ♪」


右手を戸口に掛けて軽快に現れたチャンミンは、さっきとはうって変わって溌剌としてた。
俺の着てるものと同じ色、でも少し違うデザインのスーツに袖を通した佇まいで、大人びていて格好いい。


「チャンミナ。こっち」

「はいはい」

「先に部屋のシーン撮るって」

「なるほど」


至って普通のチャンミン。
じゃあさっきのチャンミンは?なんで、どうして。どうにも理解できない。でも元気になったらそれでいいのか。
身体の異変とは反比例に冴えた脳は必然的にディレクターの言葉へ集中が戻ってゆく。


「セットは二人にハケてもらった後、シャンデリアを落としたり棚や花瓶や窓もだんだん壊していって。最終的に部屋の中が滅茶苦茶に荒廃した画(え)を撮ります。この歌の主人公の心情を表現するような感じで」 


洗練された品のある、でも居心地の良さそうな洋室のセットを壊したくないと感じて言葉が漏れる。


「あー…、、ちょっと残念、かな。勿体ないね。こんなに綺麗な部屋なのに……」

「はい、歌詞の内容が叶わない恋の叫びなので。片想いじゃなく、お互い好意があるようなのにその二人では幸せにならない。溺れて愛し合いたいのに、本当は現実を分かってる。そんなどうにもならない気持ちが葛藤する激しさを、家具を破壊することで表現しようかなと」

「切ない歌ですね」

「そう。この部屋のセットが、心の中そのものなんですよ」

「…本当に切ないなぁ。なあ?チャンミナ?」


俺はやっぱりチャンミンに受け皿を求めてまたチャンミンの方を見た。歌詞と音符の並んだプリントを眺める痛そうにしかめた顔が、「切ないですね……」と鸚鵡返しを寄越した。


「…」


俺はそのチャンミンの姿こそ、『切ない』。
そんな気がして。
何とかしてやりたい。
そう思うのに今まで距離をとってたせいか、うまい言葉が思い浮かばない。


「っ、…なあ?本当に切ないよなあ?」

「…ねー、切ないですよね」

「いや~本っ当にこれ切ないわあ!」 

「ですよねえ。切ないですよね~」

「切ないなあ、うん。切ない!」

「確かに切ないですよねえっ!」


『セツナイ』を繰り返すことしかできなくて。声のボリュームと周りの笑い声しか上げられなくて。
でも何とかしてやりたい。目障りだと思ってたチャンミンにいざ元気がなくなると、今度は気になって仕方ない。
頼られたい、チャンミンに。
俺が。


「チャンミナ、やっぱり今日ラーメン食べに行こうか?」



ナンデモシテアゲタイ



「何でですかー!?せっかく鍋のお店調べてもらってるのにっ」

「……あ、そうなの?」

「そうっすよ。早く今日の撮影終わらせて食べに行きましょう♪」

「あ、うん」

「ああ~早く終わりたい!」


でもチャンミンのテンションはあっという間に戻ってきた。ちょっと高すぎてこっちがたじろぐくらい。待ち時間も笑い過ぎて椅子から転げ落ちたり、少し諭せば愛嬌を見せてきたり。


「……はは、何だよ。全然大丈夫じゃん」


肩透かしを食らった。


撮影は順調に進んでモニターチェックも滞りなくオッケーが出る。


「チャンミンさん、すごく感情が籠ってる感じですねっ」


女性スタッフがミネラルウォーターを持って来てくれて、俺が見てたモニター越しのチャンミンを褒めてくれた。MV撮影はこのチャンミンのリップの撮影で終了。予定より早めに終わって次のスケジュールまで時間が余りそう。


「でも私は実はユノさんの大ファンなんですっ♪」

「あはーはーっ♪ありがとうございます。チャンミンは本当、凄いんですよ。やる時はやる、格好いいんですよ」

「まあ確かに格好いいし女性より綺麗ですよね。明るい髪の色もすごく似合うし。高飛車な所もクールで、まあ好きな人は好きですよね」

「?チャンミンは明るいですよ?」

「えー、…でもチャンミンさんってたまに嫌味っていうか、大げさな言い方しません?オレ頑張った!とか、スジュが羨ましいとかすぐ言っちゃうし。ユノさん大変だろうなって見てるこっちがハラハラする時けっこうありますよ?」

「……」


人から見れば短所だと思われるところも、


「…チャンミナが自分で頑張ったって言う時は、本当に本気で楽しみながら全力で取り組んで納得した時ですよ。他のグループもTOHOSINKIとは別の良いところがたくさんあります。それを素直に認めて出してるだけなんです、チャンミナは。良いことですよ、これは」


それがチャンミンのスタイルだしって思える。


「ぁ…、そうですか……」


直して欲しいところとか、全くない。


「そうですよ。それに全然高飛車なんかじゃないですよ。ボクの両親に、ボクをたててくれながらとても礼儀正しく挨拶してくれますし。嘘も絶対つかない、つけない男です」


だからこそ、なかったことにした記憶が……

俺の心は11月のまま……

止まって……


「…すいません、てっきり仲違いでチャンミンさんが勝手に宿舎を出られたのかと思っ…」

「え?」

「ぃえ…っ、、」


荒立った問い返しになってしまったかもしれない。それでも怯えた彼女はとてもか細い毒を吐く。


「ぃや、あの………韓国の宿舎、チャンミンさんって出て行かれたんですよね…?日本でも噂になってるから、てっきり……。ぇ、じゃあ、あの、何で……?」


チャンミンが宿舎を出ていったのは、チャンミンに大切な彼女ができたから。もっと彼女といる時間を作りたかったから、だけど。。


「……いや、」


カチンときた。


「日本では一緒に住んでますし!」

「「「「ぇ……!?」」」」


周囲の低空などよめきにはっとして。いつの間に注目されてたのかと焦って辺りを見回した。


「チャンミン君、すごいね……」

「うん、スゴい……」


でもそうじゃなかった。


「え、チャンミナ…??」


皆が釘付けに凝視する先は俺じゃなく、小さなモニターの中のセツナゲな麗人。リップシンクを奏でながら。


「チャンミンさん、右目から涙流してる……」
















チャンミンが綺麗に泣いてた。





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コメント

  • 2017/08/08 (Tue) 21:04
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  • 2017/08/08 (Tue) 21:31
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  • 2017/08/08 (Tue) 22:41
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  • 2017/08/09 (Wed) 13:30
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