片割れ chap.12 #6







______C.side______





結局一睡もできなかった。
「目を瞑って深呼吸するだけでも睡眠効果がある」なんていつかに得た豆知識を布団の中で実行してみたけど、寝られないとやはり瞼の重みを感じる。空港で待ち合わせたユノヒョンの前でも欠伸が止まらない。


「ふあぁ~あ…」

「……」

「……」

「……」


だからと言って。
ユノヒョンから何か声を掛けられるわけでもなく、搭乗時間になるまでの僅かな時をロビーで過ごしながら、向かい合わせに座るヒョンを観察した。
スマホをいじって別段いつもと変わらない雰囲気が逆に、昨日のデートの行方を知りたくなる。


「ああ、…眠いです。ヒョン」

「んー?頑張れ、大丈夫だよ」


話の続かない会話を続けようとするのは疲れる。知りたい内容もいい事はない。
でも聞いた方がいい。
普通の弟になるためには避けて通れない。


「っ、…ユノヒョンはっ?眠くない?昨日はアラと食べに行って…どうでした……?」


自分の気持ちが表れるように、声の大きさもテンションも尻すぼみになってしまって恥ずかしい。


「まあ普通。一緒に店出て帰って。いつも通り寝ずにしたけど眠いってことはないな」

「え…何。どういうこと……」


だけどユノヒョンの情事を匂わせる回答に、殊勝な面持ちが剥げ落ちた。


「やりたいことなんて沢山あるだろ?思い付くと止まらなくて」


一瞬にして


「、、、」


頭を鈍器で殴られたような衝撃に痺れて声がついていかない。意味深な言葉を簿かして要点だけを処理したい。理解したら最後。吐きそうで。
すでに胃はひくつき出した。


「……ユノヒョン。。ア、ラと…」

「うん?」


ユノヒョンがいつか誰かと、すぐにでもアラと付き合うことになったと言われても。
笑って弟として祝福しようと、羨ましがってさえ見せようと思ってたのに。
ちゃんと身構えてたのに。


「僕聞いてませんけど。え、っ、いつから?」


まさかとっくにアラと付き合ってたなんて考えてもみなかった。それどころか男女の営みをさらりと報告されて具体的なアホ自慢もされて。

こんな復讐劇ってある?
予想を超えた状況に笑顔が貼り直せない。


「大丈夫。最近朝までずっとそんな感じだし」 

「、はっ。別に朝まで何してようとどうでもいいんですけど」

「そうかよ……。じゃあ、話しかけんなよ」

「質問くらい答えろよ。ねえ、いつからなの」


問い詰め口調が加速する。また喧嘩になりそう。次こそ僕はこんな公衆の面前で張り倒されるんだろうか。
でもユノヒョンはもはや僕なんて眼中にない、そんなつまらなそうな態度で。


「日にちなんて覚えてないわ」

「…っ、」


幸せを願う。なんて綺麗事並べながら


「教えてくれたっていいじゃないですか…!」


本当は、過信してた







お互い想い続けてさえいれば





いつかまた


ジェットコースターみたいな展開と

ドラマチックな感動が僕たちを待っていて






ユノと戻れる日が来るんじゃないかって






「はあ…、、お前のマンション行った後くらいからっ」
 


でも夢物語の裏側は




「……う…嘘でしょ……」



こんなにも脆くて呆気ない


ヒョンは簡単にアッチへ戻った




「何で、ぇ……っ、」



僕たちはあんなに完璧だったのに



「なんでって。俺、朝にスッキリしたって言ったろ。それから寝なくてもなんか調子いいのが続いてて。だから夜はずっとカムバックの事とかコンサートの事とかの構想してる」

「……え?」

「え?」


目の前の怪訝な顔をしたユノヒョンと、きっと同じ顔を僕もしてる。ちぐはぐが一周回って同じ喜劇を興してる。
そこでようやく、


「……本当に、睡眠時間をとってないって話ですか…?」

「……今その話題だろ…?」


自分の早とちりに気付いた。


「ちなみに昨日、……アラとはどこで別れたんです?」

「だからあ、言ったじゃんっ。一緒に店出た後だって。結局後から合流した仲間もけっこういて皆で一斉解散した」

「……。そんな言い方してなかったっすよっ。……全然、してなかった…」

「?そうだっけ?」


僕の脱力感が伝わったのか、攻撃体制を解いてぽわんと隙だらけになった虎が首で傾げて盛大に笑う。


「おいっ。なんで俺たちこんなに噛み合ってないんだよ!?」

「… 。はっ。それはあんたがねぇ…っ」


怒鳴り散らすために息を深く吸い込んで、次にはもう、


「、」


どうしようもなく抱きつきたい衝動を抑えるために、大きな息を吐く。
ユノヒョンをまともに見れなくて、俯いて右手で両目を覆った。


「……気持ちは分かるけど…ちゃんと寝なきゃ、後が辛いですよ…。ご飯は?もう食欲は戻りました?」



この人から離れることない僕の傲慢さを

誰か僕ごと消してくれない?


TOHOSINKIのチャンミンの部分だけ残して



「あー…、まあ。うん、大丈夫……」

「ご飯もなるべく食べて、栄養あるもの摂取して…。ね?」

「、おう……」


音だけの世界で聴くヒョンの声は明らかにまだ食欲がないと拒んでる。


「食べれなくてもいいんで、東京に行ったら何か気持ちだけでも食べたいものありません?」

「うーん、、、ら、ラーメンかな…」

「それは駄目だ。栄養ねえよ」

「ええーっ。チャンミナひどいぞっ」


この甘やかしてくれる感じ


「ぶっ、ふふふふふふっ」



大好きだ



「チャンミナだって好きだろ?」


その声も以前の、柔らかに深く、透き通るように貫いてくる大好きな音程で。毎日会ってるはずのに久しぶりに聞けた気がして、やっぱり僕は顔が上げれないまま。


「じゃあ鍋とかどうです?シメにラーメン入れて食べれるやつとか」

「お、それいいな」


その瞬間をひっそりと噛み締めた。




その後、機内で隣の座席へ座ったユノヒョンは宣言とは裏腹に、離陸する前に爆睡へと落ちていった。
本当に不思議な人。


「あれ、ユノもう寝たのか。早いな」

「ですよねぇ…」


もう片方の隣からかけられるマネヒョンの話を上の空に飛ばしながら、僕は考えてる。


「今日MV撮る曲は年明けの発売予定だから。それであと来年の会報向けにミッショ…  

「なるほど…」






どこまで干渉していいんだろう。


どこまでがメンバーで

どこまでが家族で

どこまでが男同士の境界線なんだろう



もう分からなくなってしまってる。





「……マネヒョン」

「何だ」


例えばこれは?


「……ヒョンが、、東京で鍋食べるって…」

「おっ、食べたいって?ユノが言ったのか?いいな!よし。夏バテしてた分、スタミナある鍋に」

「いやできるだけ栄養摂れるやつにして下さいよ。後シメに麺入れて食べれるもので」

「う~ん、、店探しとかいとなぁ。日本のスタッフに聞いてみようか」

「お願いします。……すいません、僕変ですか?」

「え?」


分からないんだ


「ヒョンの健康を心配するのって変ですか?」

「……?変?何でだ?」

「正直に言って下さい。世間ではこういうの、ちょっとおかしいとか、いきすぎてる感覚なんですか?」

「チャンミン……?」


分からないんだ


「カメラ回ってる時は大丈夫ですかね?ユノヒョンと会話しても。もしかして変ですか?」

「……」

「夢で逢いたいって願うのは弟としての気持ちに許容されますよね?、、あれ……」

「……」
 

正しい答えが分からない


「ステージでいつも格好いいって、ヒョンのこと感じるのは僕だけじゃないですよね?これは?……僕おかしいですか?」

「………お…まぇ……、、」


正解が欲しいのにマネヒョンは1つも教えてくれなかった。まるで答えなんてない答えを聞かれてるように着陸までただ困りきってた。


分からないんだ


「……ユノヒョン、起きて。着きましたよ」

「ん…んん?うぅーーーーん、、」


声を掛けるのは、アリですか?
手に手で触れるは?
目と目を合わすのは?


マニュアルを入手することができれば、僕は確実に暗記する自信があるのに。



正しさの周波数が合わない















______Y.side______






チャンミンの起こしてくれる声がして、投げ出してた手の甲に体温を感じて。大河に流されるような安らぎに導かれながら瞼を開くと、俺が捜してたその通りの瞳が飛び込んできた。


「…」

「着きましたって」


だけどすぐ反らされてしまったから、そこにはもう残像しかない。まるで蜃気楼のように朧気で。心許ない。
俺も逃げるように窓へ目をやって長い滑走路を眺めた。

触れて確かめたい気持ちを隠したのは、その目の持ち主がチャンミンだったから。

きっとあれだ、飛行機に乗る前チャンミンと話した時。何だか懐かしい空気に包まれて、それが俺を夢か現実か錯乱させたんだ。


「……チャンミナ、ありがとう」


振り返って礼を伝えたチャンミンは、コクンと一度だけ頷いてマネヒョンと今日の予定を確認し出した。それに比べて、馬鹿みたいな夢の続きを現実にまで持ち込もうとしてる自分が情けない。


だってあれは夢で、夢の中の出来事で、
在るわけない。

男なのにおかしい。オカシイ。おかしいから。
アルワケナイ。


呪文に呪文を唱え重ねれば現実をきちんと呼び出せるから。
うん、大丈夫。
なのにさっきから続く余韻にまだ酔ってるせいなのか、あんなに避けてたチャンミンと話したくなった。
何かもっと、もっともう少し話したくて。


「はぁ~。久しぶりによく寝たわあ」

「……」

「チャンミナ」

「……。あ、はい?」

「久しぶりに熟睡できた、俺」

「あー、一人言かと思いました……」

「なんかチャンミナの横に座って落ち着いたら、物凄い眠気に襲われた」

「ふーん」

「すごくない?何か。少しも眠いって感じなかったのに」

「はあ」


これっぽっちの興味もなさそうな声音と安っぽい相槌に悲しくなるのは、何の意味もない。まだ半分夢の中。寝ぼけてるだけ。


「チャンミナは?昨日何してた?」

「ヒョン、降りよう」


立ち上げってマネヒョンの後へ続くチャンミンが正しい。俺の胸が痛むのは、俺がただ寝ぼけてるから。







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コメント

  • 2017/07/29 (Sat) 23:29
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