片割れ chap.12 #4









______C.side______





「ぇ……」

「戦略としてな。来年はユノとチャンミンにはそれぞれ違うフィールドでTOHOSINKIをアピールしていって欲しい」

「、、なるほど…」


当然と言えば当然の。


「まあ、あれだよ。お前達今まで24時間ずっと一緒にいたろ?これからは個々の力を発揮すべき時期にきてるんだ。パフォーマンスはもちろん二人揃わないとできないが、一人ずつ別々に活動すればその分大衆との接点は2倍になる」

「ですよね……」


反論するべき点が見当たらない。
マネヒョンの言う内容をすでに承諾済みなんだろう、隣のユノヒョンは顔も上げずに書類チェックをしている。
僕はただヒョンの横顔を盗み見るだけ。


「……」


ユノヒョンは僕の視線に気付かない。
ユノヒョンがまた、遠くなる。
ユノヒョンを振り向かせるのは僕じゃなくマネヒョンの呼びかけだった。


「あとユノ。ミュージカル決まった」

「あ、本当?」

「ソウルコンサート後のオフ削ってそこに入れるから、2日間。公演場所は日本だが韓国語でやるし、韓国を代表する有名なミュージカルだから遣り甲斐あるぞ」

「へえ♪できたらもっとやりたいけどなっ」

「年明けにも上演日入る予定だ。で、…やはり稽古はコンサートリハでほぼ参加できない」

「うん。そこは何とかする」

「ソウルコンの翌日に日本入りして2日間でミュージカル4公演、一旦戻ってチャンミンと合流してからすぐシンガポール。分かったな?」

「了解」

「信じてるぞ、ユノ」

「オッケー、任せて」


マネヒョンとユノヒョンの会話がまるで、僕なんか居ないようにするする進んでキャッチボールを繰り返してて、


「……」


僕ここに居る意味あるのかなぁ、とか。
考えてしまう。


(…っ、いやいやいやっ。意味あるだろ、僕だってTOHOSINKIなんだから)


「ヒョン、頑張ろう」


もっと肩の力を抜いたらと言っても抜かない人だから忠告は諦める。諦めるというと言葉は悪いけど、それはユノヒョンというメンバーを信じてるからで。
ありきたりなことしか言えない自分が歯痒いけど、差し出した拳にこつんとヒョンの拳が返ってきてホッとした。

この関係は切れないから。

うん。
良いのか悪いのか分からないけれど、どれだけユノヒョンが飛び回っても強靭な紐で僕たちは繋がってるから、これだけは。
グループがある限りメンバーとして頼り合えて、それでいつか訪れるユノヒョンの幸せも祝福する。
心の底からそうは思えなくても、ユノヒョンから見える僕はそうでありたい。


「ユノヒョン、練習はどうするんですか?僕も手伝おうか?」

「いや、お前はいい。自分のこと頑張って」

「……そう」

「うん」


ユノヒョンの頼りになるように。

ユノヒョンの助けになるように。
















______Y.side______






お疲れ様と周りで飛び交っても終わりたくない。あれもこれも次々にアイデアは閃いて、濁流みたい。早く人に伝えたい。今日という日を無駄にしたくない。


「ちょっと待って、やっぱりここの曲順チェンジした方がいいと思う。あと2集のアルバムからもう一曲入れられたらいいなぁと思う」


解散しかけてたライブスタッフ達を引き留めて公演のセットリストの変更を提案すると再度検討する方向で話が纏まる。ついさっき決定した議題だったけど、やっぱり言って良かったと安心した。そして楽しい。
席に戻ると隣のチャンミンが確認してきた。


「もう1曲足します?」

「うん。全部で~…。26曲かな。あ、25曲?」

「海外公演はそうだけど初っぱなのソウル公演だと31曲になりますよ」

「できるだろ?5年ぶりなんだからこれくらいやらなきゃ」

「4年ぶりね」

「そうそう、4年ぶりのツアー」

「韓国での単独ライブがね」


そんなやり取りを二人でしていると、正面に座る舞台監督に「ユノ、1つも合ってない…」と何故か笑われ、向かいのジェウォニヒョンからは「まだ増やすの?往年の曲を各集から入れるにしても、もう二人しかいないんだよ。大丈夫か?」と心配された。


「いけるよ、日本ツアーもできたんだからやらなきゃ。何より待っててくれた人達に感謝の気持ちを返したいし、二人で活動してぐんと実力も伸びたと思う。これをやり遂げた後は勉強にもなるし、またさらにいい形で伸びていくはずだから」

「チャンミンは?どうなの?」


俺からチャンミンの方へ向き直ったジェウォニヒョンの声が急に甘ったるくなったような気がして気に入らない。
前からチャンミン贔屓だったジェウォニヒョン。


(……まさか、)


ジェウォニヒョンがチャンミンの、男……?


「っ、」


ぐあっと。突然頭に血が登って沸騰する。
途端に焼け爛(ただ)れるような胸糞悪さまでも競り上がってきて、そんな自分の体の反応に焦る。
いや違う。兄として、兄として。
兄として弟がふしだらなのは見過ごせないから。こんな身近な仕事仲間でそんな甘える関係でいられたら馴れ合いが生じてしまうから。

チャンミンがジェウォニヒョンに助けを求めたら怒鳴ってしまってたかもしれない。でもチャンミンは俺へ同調した。


「これ以上何を言うことがあるでしょう、僕もユノヒョンと同じ意見です」


気分がいい。とても。
一握りの余裕が苛立たしさを治める。


「でも本当にできますかね?年を考えるとちょっと無謀じゃないですかね?ヒョン」

「は、いやできるって。俺まだ27だしっ」

「僕はもう一曲目で疲れますよ、きっと」

「、ふはは。こいつっ」

「ふふっ。すいません、冗談です♪」


チャンミンやスタッフと話し合って意見が相違するところは納得するまで言い合ったりしたけど、どうしても決まらない時は多数決を取ったりジャンケンで決めたり色んな方法で細かい議論を決めていった。
チャンミンは終始とにかく楽しそうに笑ってて。いたずらっ子にひらひら舞うから皆感化されて。笑い声が湧き上がって空気が開く。
そんな感じ。
舞台監督もそんな弟に発破をかける。


「そう言ってチャンミンはなんだかんだやるんだから大丈夫だろ♪」

「はぁい。ヒョンについていくしかないので仕方なくぅ」


柔らかくしなやかに。
周りを盛り立てる隣の男が脅威的。

チャンミンってこんな弟だった?
攻撃的だと思えば酷く落ち込んだり、自分を扱い切れない人間だったはずなのに。


「だはは!!チャンミンはもうユノなしじゃ生きていけないねっ!」

「ええ、物凄く」



「、」

息がとまる程。
ドキッとして。嬉しくて。
凍った牙城が溶けだす、ような。


「ぁ…と…っ、」


でも聞き慣れないから恥ずかしくて。
咄嗟に『よく言うよ。普段はこんなこと全然言ってくれないんですよ』って言おうとチャンミンを指差して舞台監督に向き直ると、彼は額を抱えて爆笑してた。


「本っ当おもしろいっ!この二人!!」

「…あ、、、」

(、、冗談かよ……)


そこでやっと、際限なく緩んでる自分の顔に気付いて下へ向いて隠した。俯くと気持ちも頬も落ちて正常に戻れる。

何喜んでるんだ、俺……
そもそも『普段は』って何なんだ、男同士なんだから当たり前だろ。

自分の挙動が虚しくて、居たたまれない。
俺の方が公私混同してる。
何を?何の公私混同?しっかり把握できない。でも捕らわれてる。……何に?


「……よし、撮影行くぞ。チャンミナ、支度」

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい」


俺の所に来ないで。
俺に近付かないで。

見たくもないけど俺たちはメンバーでチャンミンは必要だから。仕方ない。
急いでテーブルの上を片付ける後ろ姿をただの無機質な岩に見立てて、その場へ置き去りにした。


「先行ってる」


やることは沢山。考えたいことも沢山。
夜はベッドでコンサートの構想を天井に描きながら朝まで過ごして、昼はきっちりスケジュールをこなして颯爽とする。充足した足並み。
今日もむくんでしまってる顔を解消するため、廊下を歩きながらジャンプしたり体を捻ったり。腕もぐるぐる回せばすぐさっぱりだから。






「オッパ?」


ちょっと気になることといえば、


「ユノオッパ?どうしたの?」





ユノって名前が


他人の名前みたいに聞こえるくらいで





「……ん?」

「?終わったよ?撮影」

「へ……」


あとは少しの、ぼーっとする小さなミスがあるくらいで。
でもそれだって翳(かざ)された照明の眩しさのせいだったりするから、大したことない。


「ユノオッパ、何か疲れてない?顔色悪いよ?」

「…いや、そんなことない。だって俺最近やる気満々だから!あははっ。アラ、心配してくれてありがとう」


免税店の広告モデルにTOHOSINKIと一緒に起用されたアラは最後に会った夏前よりもさらに魅力ある女性になっていて、その成長ぶりにほっこりする。初めて会ったのは彼女が小学6年生の時だから、もう10年くらいの付き合いになる。


「アラは笑った顔が可愛いな」

「えーっ。ふふ、ありがとうオッパ♪でもユノオッパもチャンミンオッパもすごく格好良くなった!」


アラの後ろから「ありがとう」と喜んで含み笑いをしてるチャンミンが許せない。腹立たしい。

……何故?

二人の会話はこれでもかと続く。


「でも僕はそんなに代わり映えしないから…」

「そんな事ないよー、チャンミンオッパ!何て言うか、凄く綺麗になった!その髪型も良い感じよ、格好いいのに可愛らしい!でも髪を上げると男らしくて。雰囲気がスタイリングで全然変わるからドキドキするっ」

「えぇ~、そんなそんなっ。ふふふふふふ、」

「……」


(何だこれ……)


熱気がどすんと足下に落ちて、内臓から肌寒い感じ。
この感情が分からない。
自分のことが分からない。
無作為の言葉を吐き出すと意外にも普通な会話文だから、ほら。
俺はこのままで生きていける。


「アラ、これから予定ある?良かったらご飯食べに行かないか?」

「え?でも今からなんて皆集まれないかもよ?」

「いいよ、アラがいてくれたら。二人で行こう」

「チャンミンオッパも行こうよ♪」
 
「あ、…じゃあ、僕も」


チャンミンなんかいらない。
チャンミンなんか目障りだ。

そんな事思ったことない感情が芽吹くのは、これが本当の自分?俺の本性?
分からない。
分からないけどそう思うんだ、何故か。


「チャンミナ、折角朝までフリーなんだから。デートくらいしてこいよ、彼女と」

「え?チャンミンオッパ彼女いるの!?」

「うん、最近できたんだって。なかなか会えないんなら尚更今夜くらい連絡してみろよ」

「………ですよねっ♪…そう、します……」


何でさ?そんな笑いながら傷付いたって顔するわけ?こっちが泣きたいんだよ。
って、……なんで俺?
よく分からない。
自分が。チャンミンが。


「あー、、アラが綺麗だから浮気心が出たんだろ?気が多いのは駄目だぞ、チャンミナ」

「ちょっと、ユノオッパぁ~!そんなわけないでしょ?あははっ」


悲しそうなチャンミンが、理解できない。


「……はい♪ちょっと僕も一緒に過ごしたいなって…♪」


分からないものは気持ち悪い。
近寄りたくない。
一刻も早く逃げ出したい。


「チャンミナ今日は遠慮してよ。俺もアラに話があるし。アラ、早く着替えて行こう?」


アラを促そうと腰に腕を回せば、その細さに驚いた。


「ぅわ、腰ほそっ」


女性特有の、華奢で壊れそうで、俺が守ってらなきゃって思わせられる、そんな。


「ユノオッパ?」

「……」


そう。

恋ってきっと、そういうもの。


「アラ、すごく女性らしくなったね。本当に綺麗だ」

「わぁ!オッパありがとう。嬉しいっ」


溢れる笑顔が華やかに輝く女の子たち。
もっと見たいと思う。


「何食べたい?どこでも連れてってあげる」

「本当!?嬉しいーっ。じゃあね~…」


甘い密みたいなアラの跳ねる声に誘われて、チャンミンをまた置き去りにできた。


















______Manager.side______






渾身のカムバックMVのネット配信が開始された。再生回数は三日目にして好調だ。労いの電話をスマン会長直々に頂いて、その旨を二人に教えてやろうと控え室に足早で戻ったのに、いたのはスマホを弄ってるチャンミンだけだった。


「あれ?ユノは?」

「もう帰りました。アラとご飯行くって」

「そっか、遅かったかぁ」


長い足を組んで座るチャンミンに近付いたところで、「どう思いますか?」と向けられたスマホの画面にはちょうど今話題にしたかった二人のカムバックMVの動画が映し出されてる。


「うん!凄くいい!!今な、スマン先生からこのMVの評判がすごく良いってわざわざお褒めの連絡を頂いたところだったんだ」

「おおおお~♪」


足を交互にパタパタ動かして嬉しさを現す姿がとても幼く見える。


「チャンミン、頑張ったもんな!」

「はい。死に物狂いでやりました。ヒョンと対で踊るのは並大抵のことじゃなかったんで」


にこにこ、にこにこ。本当に嬉しそうで。
俺まで嬉しくなってくる。


「明日は日本で『I Know』のMV撮影だからな、この調子で頑張ってくれよ♪」

「ネ~♪」


支度を済ませてスタジオを後にする帰り道でもチャンミンはずっとスマホでMVを見続けてた。廊下や出入口で警備スタッフを見つけてはその度、声を掛けてゆくから中々進まない。


「すいません、ちょっといいですか?」

「あーチャンミンさん♪お疲れ様ですっ」

「これ1回観てもらっていいですか?どう思いますか?」

「え。え?」

「今回カムバックした新曲のMVなんですけど。どうですか?」

「はあ…。お、格好いいですね」

「本当ですか!?」

「はい、力強くてすごく格好いいと思います。ダンスが凄いですね」

「うおぉ、、やったあ♪♪♪」


スマホを強引に押し付けてほとんど話したこともない人々から感想を聞き出しては、はしゃぐ。くるくる回って、スマホを掲げて見上げる様子は金メダルの獲得者さながら。


「ぷっ。あはははっ!チャンミン可愛いっ」


可愛いくて可愛いくて。個性を持った金髪のヘアカットもここまでされると坊っちゃん刈りに見えてくる。マンネという概念よりももっと幼い園児のような、気儘で純粋な喜び方が珍しい。慣れてない人間の前ではあまり心を出せないコだから、チャンミンは。


「まるで子どもが喜んでみたいだぞっ。ふはは♪」

「はぁい♪もうユノヒョンとは、これでしか繋がってないから」

「え……?」

「いいMVが撮れて本当に嬉しいんです♪」


にこにこ、ニコニコ。クルクル回りながら。長身のいい歳した美青年が。


馬鹿みたいに、純粋に。


「ヒョンが幸せだったら、それでいい」


自分に言い聞かせるように、ただ笑ってた。













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コメント

  • 2017/07/15 (Sat) 11:29
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  • 2017/07/15 (Sat) 15:46
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  • 2017/07/15 (Sat) 16:45
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