片割れ chap.12 #1










僕たち


同じ夢をみる者同志の


戦いが始まる












______Y.side______






チャンミンのマンションに泊まった次の日から、何かに呼ばれるような焦燥めいた感情が無くなった。俺を名前を呼ぶ声もなくなった。


すこぶる調子がいい


何をやってたの、俺は。
こんなことなら、
早くチャンミンを忘れてたら良かった。





「ヒョジェ~、お疲れさまーっ☆」

「ぅお!!っと、っと、ユノ危ない!!」


久しぶりにアガリが一緒になって迎えに来てくれたヒョジェの背中へ乗り上げると、ヒョジェの体は暫く踏ん張りを見せたものの、その後くたくたと少しずつ少しずつ崩れていった。ヒョジェはプロダンサーだけど背が低いから、さすがに痩せても俺の体は耐えきれないらしい。


「っ無理!重いわぁ~、、」

「あはは」


撮影スタジオの控室で。フロアに転がって笑っていると、上から呆れて見下ろしてくるヒョジェとクマちゃん。


「ユノヤ、あんまり無理しないで…」

「してないって。心配してくれなくても俺はもう大丈夫っ♪」


上体を起こすと2人が服の汚れを払って引っ張り上げてくれた。


「……本当?じゃあとりあえず…、何か食べに行くか?」

「お、いいね。クマちゃんも行こうよ」

「え、僕もいいの?」

「うんうん♪2人には色々心配させちゃったし、行こっ!」


今度は俺が2人の腕を両手に組んで歩き出すと、ちょうどドアの出口でチャンミンと鉢合わせた。会うも何もここは俺たちの部屋なんだから仕方ないんだけど。


「…」「…」「…」「…」


4人の間に微妙な空気が立ち上る。
本当止めて欲しい。
俺はもう本当に大丈夫だから。






そもそも、

チャンミンを好きになったことなんてない





「チャンミナお疲れ」

「ヒョン、あの…もしかして熱ありません……?」

「え」「え」


一気に集まる視線が面倒くさい。


「別に大丈夫、微熱だしすぐ引くって。心配するな、このくらい」

「あと、ここ」

「痛っ、」


チャンミンに揉まれる左腕に鈍い痛みが走って思わず声が出た。


「さっき捻ったよね。気を付けて下さいよ」

「え、ユノどこ!?」

「いや、忘れてたくらい大したことないから。チャンミナに言われて今思い出した」

「今倒れたらどうにもなんないっすよ、ユノヒョン。自覚して」


俯いてぶっきらぼうに呟いた横顔は、きっと俺の方がチャンミンを避けてるってバレてるから。
大事なカムバック時期に弟を避けるヒョンなんてあり得ないのに。色んな不安があるだろうに。なんか今は。
今はチャンミンの傍に居たくない。

呪文が解けそうで……


「分かった分かった。悪い、気を付けるから」


ヒョジェがコールドスプレーを探しだしてしまったから大人しく冷たい噴射を浴びて、ようやく目線を落としたままのチャンミンを通り過ごした。


「じゃあな、お疲れ」

「お疲れ様です」


悪いと思うけどチャンミンはスタッフに囲まれてちゃんと笑ってるし、周りともコミュニケーションをちゃんと取ってよくやってる。
扉が締まると俺の調子が自然と上がった。


「よーし、3人でどこ行くぅ?あ、チャンミナの話はナシね!テンション下がるし喋ることもないし。二人ともオッケ~??」

「分かったって!」「ユノヤがいいなら…」


おどけて言った頼みごとをしっかり受け取ってくれる昔からの仲間が有難い。本当に癒される。気分は上々。
ヒョジェやマネヒョンから事情を聞いてるであろうクマちゃんがスタジオを出る時労ってくれたけど、全く気にならなかった。


「ユノヤ一言だけ。……大変だったね」

「忘れたっ☆これけっこう本気で。もう前だけ向いてたいし、前だけ見て進むから俺は」

「そっか」

「うん。クマちゃんこれからも宜しくね。もちろんチャンミナのことも」

「それは必ず」

「にゃはは♪」


相変わらずご飯は食べれないけど、微熱が出てしょっちゅう熱っぽいけど、俺は全然大丈夫だった。むしろ無駄な贅肉がなくなってダンスは思うがままに体を動かせるし、熱なんて現場へ着けば毎日一瞬で忘れる。







今まで以上に高く飛べる





そんな気がする

















______C.side______






空っぽになってしまった僕に、残されたのは思い出だけだから。剥ぎ取った痛みで底冷えする僕を麻痺させてくれるのもやはり、思い出だけなんだろう。


「…あ、……蝉の声」

「本当ですね、もう九月なのに。まだ生きてるんですね~あー、ウルサーイっ!」


事務所を出てすぐ鼓膜に飛び込んできたその助け船を拾いたくて。数匹の、ジャージャー繁って鳴く声の方角にスマホを向ける。スタッフさんがさも不思議そうに話し掛けてくるけど、今は邪魔しないで欲しい。
すがれるものは掻き集めて、それで僕は生きてゆかねばならないんだから。


「チャンミンさん、どの木にいるか分かったんですか?」

「いえ、録音してるだけ」

「へ?」

「蝉の鳴き声を、録音してるんです」

「はあ……、?」

「……」


ヒョンとは仕事以外で会うことが無くなった。と言ってもカムバック期間中でほとんどの時間を一緒に過ごしているけれど、それはユノヒョンで僕のユノはどこにも居なかった。
朝「今日もよろしくな」から始まって、夜の未明「お疲れ」で去って行く。仲が悪いわけじゃない。ただ収録の合間や休憩中、お互いスタッフさんやダンサーさんと話して隣に居ることはほぼない。ユノヒョンのプライベートも全く分からなくなった。
それだけ。ただ、それだけ。


「ふぅ、、そうだ。洗濯しないと」


マンションに帰ってくればやることはたくさん。もう家政婦さんはいないから、好きな時に家事をやればいいってもんじゃない。
少し溜まった下着類を洗濯機に放り込めば、くらりと僕の手を引くユノの影。


「…こんなトコで、、恥ず…っ」


衝動的に絡み合った僕たちの幻影がそこに居て、一人で突っ立って赤くなる。頬が熱い。耳も熱い。思い出すだけでよくあんなことができたなって頭が沸騰する。
そしてそれが今の僕を生かしてる。
今のユノの事は、何してるのかも知らないのに。


「……ご飯作らなきゃ……」


沸いた熱が急速に冷めて洗面所を後にしてもやることはあるから大丈夫。深夜だけど腹は減ってる。大鍋にインスタントラーメンと刻んだ野菜を煮詰めていつもの夜食を作って食べた。
人としての必要最低限の生活を終え、そして僕は心置きなく真夜中の沼に嵌まる。


「ビールビール…」


欠かすのが怖くて何十本もストックしてあるビールの一缶を取り出してプルタブを開けて。最高に上手い一口目をぐびぐび飲んで咥内の後味を楽しみながらスマホをタップする。最大音量に再生するのは採取してきた蝉の鳴き声。


『ジャージャー』『メーンメンメンメンメン』『ジジジ』『ジャージャージャー』

「………いい声……」


夏の始めに。まだ宿舎に居た時。
ユノのためにご飯を作りたくて、初めて一人でスーパーへ買い物に行った。豆腐を買って、苺も買った。
今年一番の蝉が鳴いて、暑くて。汗が吹き出て。人目を気にせず歩いてみて。


「幸せ……」


込み上げる幸福が涙に変わって溢れて出てきた瞬間の声を聴きながら大好きなビールを遠慮なく飲んでいくと、気分はふわふわ。
あの時に戻ったよう。


「ふふっ、幸せ……本当に幸せだった」


ひとつひとつの思い出を丁寧に掘り起こして細部まで辿って、なくなったらまた始めに戻って思い返すとさっきまで忘れてた思い出がさらに起き上がってきて楽しくなる。
同じように録音した蝉の声も繰り返し再生しながらビールを流しこみ続け、ずっとこの沼に浸っていれば痛くも寒くもない。むしろずっとずっと幸せを感じてられる。
思い出は繰り返すほど美化されて錆びない。


「あー幸せっ」


あのユノが僕のことを好きになってくれた。
まるで宝物のように大事にされた。
喧嘩してもいつもユノが折れてくれたし、小言を言いまくっても僕の顔色を窺って直そうとしてるユノが愛しくて仕方なかった。またすぐに忘れるところも最後は呆れて笑えた。
でもユノが他人にけなされると冗談でもユノが笑い飛ばしても無性に腹に立って、逆に称賛されるとユノは謙遜しても僕の方が嬉しくて堪らなかった。

何度も愛し合って、満ちた。


「ビールも美味し…」




ずっとここに居たい
一人でずっと、思い出と暮らしていたい




お~い、開けろー!!

「……」


でも僕の男がそれを許さない、今夜も。玄関からくぐもった声とドンドン叩く音が飛んできた。


「はあ、、」


重い腰を上げてドアを開けると勝手にリビングまで入ってくる。僕も気にしないけど。


「うお、うるさっ。何お前、まだ聴いてんの、これ」

「いいじゃん。蝉っていい声だろ?」

「ヤバい…チャンミニの闇がマジで深い…ヤバい…ヤバい怖い…」

「う~る~せぇ~。キュヒョナ、ビールでいい?」

「……うん」


蝉の声を録音したのは何日前だったっけ?そういえば今日じゃない。……よく、思い出せない。

スマホを止めて冷蔵庫から変に口ごもるキュヒョナへビールを持ってきて乾杯すると、また俺の男は勝手に決めだす。


「近いうちに俺の実家泊まりに来てよ、チャンミニに会いたいって母さんも言ってるし。ミノも誘ってさ。来週あたりなら予定つくだろ?」

「お、お、お?随分急じゃん。僕今カムバック中だから忙しくて予定見えないかも……」


なんだか部屋から出たくない。仕事が終わったらすぐに帰って今は部屋に一人でいたい。なのにキュヒョナはしょっちゅうウチにくる。
何をするわけでもないから気楽でいいけど、できたら一人で居たい。


「一泊くらいどうにかなるって。てかカトクもなかなか返してこないし、お前」

「だから忙しくて…」

「嘘つけ。……チャンミニ、本当に結局、なんでユノヒョンと別れたの?」

「それは、、、」


色んなことがありすぎて口が開かない。言いたくない。その思い出はなぞりたくない。


「いいんだよ、もう…。全部終わった」

「全然良くないだろ。話せよ、聴くから。チャンミニはもしかしたら同性だからとかって気を使ってユノヒョンとのこと今までほとんど話さなかったのかもしれないけど、俺は別にそういうとこ何とも感じてないから。とにかく話せ。もう蝉の鳴き声ばっかり永遠と聴いてる時点でアウトだぞ?鬱(うつ)病一歩手前だから、チャンミニ」

「そんなことない……ホントに幸せ感じるだけ」

「蝉より俺のキャラメルマキアートな美声を聴けよ」

「だはははははっ、確かにっ!キュヒョナの歌声は最高だからっ」

「とにかくっ!お前ちょっと部屋出てさ、いつもと違う場所でギュラインでさ、のんびりしよ。来週で月曜と火曜ならどっちが早くスケジュール終わる?」

「えーっと、、月曜、かな?」

「じゃあ月曜。はい決定。ここ集合して車で移動。じゃあな」


毎回じっと岩のように黙り居座ってゲームしてたキュヒョナが、今日は嵐のように現れて嵐のように帰っていった。


「ったく、キュヒョナめっ。はは」


病気とは何だ、失礼な。
仕事に身が入らない訳じゃないし、毎日適度な緊張感の中で撮影できてる。
真剣に取り組んでる。
笑えてる。
話せてる。
ユノヒョンをヒョンとして接してる。


何本か空いたビール缶を抱えてシンクに置くと、足下のゴミ袋を踏んでガラガラと中身が少し出た。たぶん昨日飲んだ分のビール缶。


「あれ、僕いつの間にこんなに飲んだっけ……」


落ちた缶を納めて見上げると、同じ容量の大袋がいくつも並んで積み上がってる。コンロの辺りとシンク前にしか足の踏み場がない。


「…………」





キッチンは、ビール缶で埋まってた。





「……ま、いいや。明日まとめて出そう」


ゴミはこのマンションの特権でいつ何を出しても処理してくれるし。そう思うととても都合の良いマンションだなぁと感心しながら気付くと手にはキンキンに冷えたビール缶。
気持ち良く眠りたい。今夜も。

ちょっとわくわくしながらスマホを取って蝉の声を再生して。


「……あー、」


喉に通るだけのビールを、ぐいっと胃へ注いでやればたちまちやってくる。


「幸せぇー♪」























幻想と思い出





 


また始めました。良かったらまた宜しくお願いします!
あとクマちゃんのお名前を教えてくれた方がいらっしゃって悩んだ結果、ちゃん付けする区切りが分からかったのでそのままクマちゃんでいきたいと思います。教えて頂いてありがとうございました!嬉しかったです♪

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コメント

  • 2017/06/23 (Fri) 21:07
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  • 2017/06/23 (Fri) 22:23
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  • 2017/06/23 (Fri) 23:17
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  • 2017/06/23 (Fri) 23:35
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  • 2017/06/23 (Fri) 23:49
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  • 2017/06/24 (Sat) 07:27
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  • 2017/06/24 (Sat) 10:48
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