片割れ chap.11 #1











俺たちは


正常で


在らねばならない













______Y.side______






眠い…

飛行機の中で少しは寝ないと…


早朝の金浦空港で前を歩くチャンミンの後頭部を見ながらそんなことをぼおっと思ってた。
専用出国審査ゲートに進んでパスポートをかざして。たまに鳴ることもあったエラー音にさほど焦らず何回かやり直した。でも自動ゲートは一向に開かない。


「あれ、」

「大丈夫ですか?やりましょうか?」

「あ、すいません。お願いします」


空港職員のセキュリティが気を利かせてくれて任せることにした。それでもゲートは開かない。


「おかしいな……、貴方このパスポートは本物ですか?」

「はい?ええ、そうですが」

「しかし磁気が認証されない。…偽造の可能性があります」

「??いえ、そんな訳ないです」


だっていつも使ってるパスポートだし。


「おい、ユノ?大丈夫か?」

「来ないで下さい!ゲートを通過された方は近付かないで!」


俺の方へ戻って来てくれたマネヒョンとそれを制止するセキュリティ。そして少し離れた後ろから苛立ちを隠さず怪訝な顔をしてるチャンミン。何事があったのかと心配して出国を見守ってくれているペンの壁。
偽造も何もしてない。磁気で通れないなら審査官に提示すればいい。


「マネヒョン、大丈夫だから。待ってて」

「貴方。貴方ひとまずこちらへ」


脇の隣接された部屋へ促されて、でも変わらずそんなに俺は焦ってなかった。
こんなのよく聞く話だし、何だかんだフライトできないって事はないんだから。

だから俺のパスポートを見て顔をしかめた出国審査官の表情なんて気にしてなかった。


「残存期間が足りません。出国は許可できません」

「……。は?、?有効期限なら大丈夫です」


ようやくちゃんと向かい合って見た男性の顔は、至って真面目に俺を見返す。


「いえ、ですから。パスポートの残存期間が足りません」

「……え、…今までそういったことで出国できなかった事はないですが。それにもう明日には韓国へ戻ります」

「私の判断です。出国はできません」

「……ま…待って下さい。私を見て下さいっ。皆さんご存知のチョン・ユノです。私は今日日本で行われる、サマーフェスティバルに出場しなけらばなりません。大トリなんです」

「しかしパスポートに不備があります。ICチップで通過できない場合は出国審査官である私に判断を委ねられます。出国は許可できません」

「…無理です。私は行かなければなりません」

「……マネージャーの方を呼びましょうか?」

「お願いします!」


一気に目が覚めて、でも頭が回らない。
マネヒョンが呼ばれて状況を説明されながら、「日本で最大規模の音楽フェスティバルなんですよ!」「韓国の国益に関わりますよ!」とか「緊急発券を請求します!」とか物凄い勢いで捲し立ててる。


「……」


加勢するべきなのに、俺は弱ってしまっているだけで。不甲斐ないなと思いながらも動けない。

昨日は事務所のソウル公演で夜も遅かったから、今は脱け殻のように身体が脱力してる。生きてる感覚がもう舞台にしか感じられなくて、舞台に全てを置いてきてしまう。

公演は楽しかった。
チャンミンも楽しそうにステージへ立ってて、嬉しいなって素直に思った。
スジュのメンバーともよく絡んでて、マンション暮らしはうまくいっているみたい。


「おい、ユノ!」

「え…」


マネヒョンが事務室の電話コードを伸ばして俺に寄越してた。


「電話!エーベックスの現地責任者と本人確認と出演確認をここでしろだと。あとは…、出演要請書と事務所の出張命令書があればいいんですね?」

「念のため現地のスケジュール表など確認できるものはお持ち下さい」


出国の糸口が見つかって脱力してたはずの身体がさらに脱力して、ようやく手に汗握っていた事に気付く。
電話で確認を済ませて、改めてマネヒョンに感謝した。


「マネヒョンありがとう。はぁ、、助かったぁぁ~」

「いや別に俺の力じゃない、今のTOHOSINKIの力だ。そこにいる偏屈過ぎる審査官に当たっても、お前達がペンから膨大な愛を与えられているから今回みたいな特別措置が取れるんだ。ほとんどのアーティストは出国拒否でアウトだ、さすがTOHOSINKIのユノ・ユノだよ」

「そっかぁ…。本当に皆さんに感謝しないと」


俺の夢はステージで。
そこには観客と俺とチャンミンとバンドやダンスメンバー、裏方のスタッフ。みんな必要な人達だから。


「……こういう所でもペンの皆に助けて貰えるなんて…。本当に嬉しい、俺は恩返ししたい」


チャンミンに振られて、
良かったのかもしれない…。

去年は急遽大トリを務めた夏フェスが、今年から正式な大トリになった。
昼間のオープニングアクトから参加を始めて今年は夜の大トリへ。デビューしてからの俺たちの成長が最も感じられるフェスの一つ。
気持ち的にも出ない訳にはいかない。


「まだ安心するのは早いぞ…」

「え?事務所へ戻っても、何便か後の飛行機にはすぐ乗れるだろう?」

「チャンミン呼んでもらおう」

「……」


何で?って聞く間もなくマネヒョンが審査官と空港職員に直談判して、事務室へチャンミンも入ってきた。
予定だったフライトまで、あと10分。


「いいか、まずチャンミンだけ先に予定通り出発してくれ」

「え!?」「……え!?」


現状を把握してる俺としてないチャンミンの、驚くタイミングがずれた。


「関西国際空港に着いたら日本のスタッフと警備員がいるから、そのままスタジアムに向かって。すまんチャンミン、ユノのパスポートに不備があったんだ。俺とユノは一旦事務所へ戻って必要書類を取ってくる」

「……分かりました。で、マネヒョン達は何時の便に乗るんですか?」

「それが分からない。…絶対どうにかするが、……最悪、本番に間に合わないかも、しれない……」

「は!?」「は!?」

「昨日のソウル公演の影響か分からないが、金浦からカンクウ行きの便が昼過ぎまで全席埋まってるらしい…」

「…え、ちょ…」「……」


仁川空港からは遠くてもう間に合わない。
事務所から近い金浦空港から行くしかない。


「いや何とかする。必ず手配するがリハーサルには間に合わないと思うんだ。だからチャンミンだけで、リハやれるか?ユノはぶっつけ本番になるだろうから、本番はユノのフォローできるように立ち位置しっかり覚えといてくれ」

「……は、い…」

「……」



俺、リハーサルできないの…?
いや、それは嫌だ。
ステージに立つ皆の士気も高めたいし、それに色々チェックすることだって沢山あるのに。それにそれに…


「後な……、一応。一応なんだが、、ユノのパートも一応…リハで歌って準備だけしといてくれ。ユノが万が一間に合わない場合は、……チャンミン一人でステージへ立て。穴は絶対空けられない」




チャンミンを見たら

チャンミンも俺を見てて




「………」「………」





思い入れの深い最大級の晴れ舞台を前に、


こじんまりした味気ない部屋の片隅で、












俺たちはただ







見つめ合ってた

 








チャンミンの瞳は相変わらず透き通るほどの美しさで持って俺を惹きこんで、マネヒョンの苦虫を噛んでるような声を背景音楽に、チャンミンしか見えない。


「ユノのパート部分…日本語の歌詞は全曲頭に入ってるか?11曲」

「もちろんです」


マネヒョンの問いかけに被せるようなチャンミンからの返事が、こんな時だけど不謹慎にも嬉しい。頼れると思った。

たぶん…マネヒョンは俺に、そんな風にまだチャンミンを未練がましく見るなよって思ってたんだろうけど。
その時の俺には邪な想いや失恋の痛手なんて柵(しがらみ)は透明に舞い上がって、飛んで、すでに風と雲の向こう側へ。

出国できない焦りとか不安とか、どうにもならならない恋のもどかしさや怒り。
痛みに。兄弟と男同士。 


かゆみ程度の柵まですべて









全てチャンミンの目が吹き飛ばしてくれる。



「…大丈夫。絶対行くからな」

「……当たり前です……ユノヒョンがいないと始まらない」



チャンミンが何をしてようと誰を好きだろうと、この目だけは信頼できる。

これだけは、なにものにも侵されない。


「…よし、、ひとまずリハは大丈夫だな。じゃあチャンミン、行ってくれ。フライトまであと5分しかない。大丈夫、ユノは必ず間に合わせるから」








俺の前にはチャンミンが居て












チャンミンの前には俺が居た












「約束する。何があっても絶対行くから」

「約束ですよ」









この瞳の信頼だけは絶対失いたくない














そう想えたから、もういいんだ。














片割れ chap.11
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コメント

  • 2017/05/02 (Tue) 18:52
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  • 2017/05/02 (Tue) 19:50
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  • 2017/05/02 (Tue) 21:07
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