片割れ chap.10 #27








______Y.side______






宿舎にもチャンミンのマンションにも帰りたくなかった。宿舎は家具が様変わってるしチャンミンのマンションには男が来るかもしれない。
それに否が応にもチャンミンと目を合わせなきゃいけないから。運転してれば瞳を見なくて済む。


「どこに行くんですか?」


行くあてはない。
ただ車を滑らせて。

どこか遠くへ


「……ガソリン入れてないんで。どこかで入れないと」


チャンミンの言葉でガソリンメーターを見ると、FよりEに近い針が俺に『止めとけ』って警告する。
残念。ふと海を見たいと思ったのに…。


「…いや、……無くなるまで…走ればいいか……」

「え」


明日を投げ出すわけにはいかない。俺達にはペンや家族やマネヒョンやスタッフや後輩や仲間、待ってくれてる人達が沢山いる。

市内の賑やかな大通りが過ぎて、車の通りもほとんど無い所まで来ると後方の安全確認をしてぐるっとUターンした。
そしてまた来た道を戻る。


「道、間違えたんです?」

「……」


間違えた訳じゃなくて、どこにも向かってないだけ。またUターンできる場所を見つけたらそこで曲がって同じ道をぐるぐる進もう。

まるで俺たちみたいでお似合いだろ

数十メートル先までは見えるけど数キロ先は見えない。見慣れた景色は闇に沈んで突き抜けても同じ道。
どこへ行っても同じこと。
何をしようと同じこと。


「ぁ……」


そんな道のりと思いを巡らせていると、チャンミンの手に握られたスマホが震動音を車内に響かせた。それに反応して小さく漏れた優し気な声が気に入らない。


「貸せ」

「ぇ…」


返事を聞かず奪い取ったスマホを何も確認しないで後部座席に投げ捨てた。激怒して降りろ、くらい言われるかと思ったのにチャンミンは探すことも拾うこともせず、諦めたようにシートへ身を埋めてそっぽを向いた。
俺たちはずっと、本当はこのように別々の方向へ向いてたなんだな…。



分からなかった、一寸の疑いもなかった



「……何するんですか、信じられない…」

「そうか」


俺はお前が信じられないよ。
彼女がいることも、遊びまくってることも。俺はチャンミンにとって仕方なく話と身体を合わせてた単なるセフレだったってことも。
それでもこいつの目は綺麗で美しいってことも。


「僕が電話出ないと…たぶんずっと鳴り続けますよ」

「鳴らせとけよ。どうでもいい」


チャンミンの言う通り、そう間隔を空けず何度も何度も後ろから感じる震動音はひどくチャンミンを求めていて、


「……」


もしかしたら俺と同じような奴なのかもしれないと思うと胸が締め付けられた。


こっちを向いて欲しくて

必死で

チャンミンのことを想う数多の男や女達


「…っ、ああ!!…クソっ!!……面倒くさ…っ、」


こんな感情いらない。
全部無くなればいい。

煩い。煩い。


「くそっ!!!」

「…、…」


フロントガラスに一喝してもチャンミンはびくっと一度肩を震わせただけ。そっぽを向いたまま。
何も響かない。

それでもまたココから、

チャンミンが俺だけを見てくれる可能性はないかと密かに探してる俺が一番面倒くさい。


在るわけないのに


「ユノヒョン…」

 
メーカーは限りなくエンプティに近付いている。
しばらくすると警告サインとアラート音が鳴り出した。緊迫感を強調する通知音が車内を染め上げる。


「……ヒョン、ガソリン…」

「入れなくていい」

「車止まっちゃうじゃないですか……」

「止まればいい」


ガソリンが無くなるまで。
空っぽに干からびて、Eになるまで。
自動的に止まってしまうまで。


チャンミンを想う気持ちがEになるまで






走り続けた。

















______C.side______







すぐにユノが、

スマホで会話してた内容を聞いてた事と電話の相手を勘違いしてることに気付いた。さっきの素っ気ない態度とは正反対の、高ぶり捲し立てるユノを見て、







考えた。






「俺も諦めつかないから…!、、頼む。。彼女さん、大事にしてあげて……」






僕がふしだらに写れば写るほど、


ユノは僕を嫌悪して
忘れられないんじゃないかって




この人は純粋だから






「……ユノ、ヒョンなら…誰でも好きになってくれるでしょう?僕のことなんて、…すぐ忘れるでしょ……?」

「毎日顔合わせてて忘れる訳ないだろ!!!それよりさっきの奴と縁切れ、早く」

「……」





愛してくれなくていい
僕はユノの夢には敵わない
遅かれ早かれ別れを宣告される

嫌われても憎まれても
でもとにかくユノにサヨナラされたくない 

忘れないで
他へ行かないで


ユノの翼をへし折って、
ここに留まってくれたらいい




「……嫌です。これからその人のとこ行くんですから…っ、、」


イェソニヒョンに、

感謝すらした。


キュヒョン達の電話がなかったら、今こうしてユノが僕の車に乗り込んでくることはまずなかった。後ですぐバレる子供騙しだけど。
巧みに言葉を選んで、嘘はつかないように。

嘘は切なくなるばかりだから


「行かせない」


がちゃがちゃ発進の準備を始めるユノの姿が
、こんなこと思ってしまっていいのか分からないけど、、、嬉しい…。

思わず笑みが漏れて、慌てて無感情を装った。


「行かせないって、どうするつもりですか?」






ユノ




僕、嬉しい






「車出すぞ」

「……ユノヒョンも、約束あったんじゃないですか?」

「もういい。お前のこと、放っとけない」





嬉しい



ユノはまだここに居てくれる






溜め息をつくユノでも睨みを効かすユノでも、僕のことしか見えないユノなら何でも嬉しい。



目的地はどこだろう?

宿舎か僕のマンションか。
説教なんて色気ないのは嫌だ。
むしろユノの激情の波に乗って押し倒されたい。
それなら尚良い。肉体を繋げればさらにユノは離れていかない気がする。


「……」


でもそんな事しないか…
だってユノだもん…

一瞬過った期待は泡のように消えて、予想通り車はどちらにも向かわず流れていく。


「……ガソリン入れてないんで。どこかで入れないと」


遠くへ行くなら給油しなければならない。
でもユノは必要ないって言う。

残念。ふと海が見たいと思ったのに。

僕たちは何も喋らずただ前を見てた。密かに僕は一分一秒を噛みしめるように、ユノと居れることを感謝した。

本当にどこに行くんだろう?そんな思いを巡らせた途端、車は大きく右折して元来た道へ。


「……道、間違えたんです……?」


ユノがやろうとしてる事が何となく分かって、聞いた返事が返って来ないことでそれは確信へ変わった。


僕たちはこの先、
合わさることもなければ離れることもできない。

共に生きれば皆が苦しむ。夢の足枷になる。
だけど僕たちは夢を共に歩んでいく。

ユノは僕を捨てられる。
僕はユノを追い求め続ける。

行ったり来たりを繰り返す、
この車のようなものなんだ。

でも物語には必ず終わりがある。
ユノは二人の物語を終わらせようとしてる。


「……」


嫌だな……
どうにかユノを引き留められないか

歪む顔を見られたくなくて頭をサイドガラスへ傾けた。サイドミラーに一部分映る僕は酷い顔してる。悪い顔してる。醜い僕の内面があからさまに浮かんでる。

異変に気付いたらしいキュヒョンからの着信に出ようか迷う。これに出たらこの旅はおしまい。
僕たちは終わる。


「貸せ」

「ぇ…」


それを持ち越すかのように僕のスマホをユノが放り投げて、ユノは段々また怒り出した。


「…っ、ああ!…クソっ!!……面倒くさ…っ、」 

「……」

「くそっ!!!」

「……っ、、」


ユノももしかしたら、僕と同じくらいの想いで、この逃れられない道のりに歯痒さを感じてくれてるのかなって思ったら。

無性に泣きたくなった。












だってこんなに、好きなのに









「ヒョン、ガソリン…っ、、…」

「入れなくていい」











愛してるのに











「車、止、まっちゃうじゃないですか……、」

「止まればいい」












なんでユノと僕じゃ駄目なの?












「警告音……うるさ……っ、」

「……そうだな」





誰か、僕たちのこと認めて


お願い……



認めてくれませんか?











これからもたくさん、頑張りますから



精一杯努力しますから











お願いします


誰か、お願い





お願いします




















誰に頼んでいるのか、誰にも届かない懇願を胸に叫び続けた。





片割れ chap.10
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コメント

  • 2017/04/27 (Thu) 22:31
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