片割れ chap.10 #14










デビュー前から宿舎住まいを始めた。
ソウルの自宅で寝起きする生活の方がが不思議。
こんなこと、あの騒動の時さえなかったから尚更だ。

あの時はユノが居た。ユノが居たから耐えられた。でも今ユノとは居れない。

「ちょっと急な一時帰宅」なんて、明らかにおかしい約十年ぶりになる僕の帰還を、父さんは疑ってかかり、母さんと次女のヒヨンは手放しで喜び、長女のスヨンは心配そうな顔で出迎えてくれた。


「お前、どうした?何かまた……問題でもあったのか……?」


師と仰がれる教師の父親の尊厳を、一度滅茶苦茶に踏み倒して迷惑を掛けてしまった僕に、一体何が言えるだろう?


「何もない、本当に大丈夫だから。休養みたいなもの」

「……本当か?」

「別に何でもいいじゃないの~♪自慢の息子が帰ってきたんだから♪この間にサインたくさん書いてもらえるわ♪」

「オッパ!私も欲しい!」


救いは父さんとはそれきりで、夜遅く帰って朝早く学校へ出勤する父親とほとんど顔を合わせなかったこと。そしてスヨンが助けてくれたこと。


「お兄ちゃん、そういえば彼女できたんでしょ?どうなの♪うまくいってるの?」

「あ…、まあ……」

「オッパ、オッパ!それより私かなり料理ができるようになったの。オッパはどう?」

「…僕もけっこううまくなったよ」

「何よー。スヨンもお兄ちゃんの彼女のこと興味津々だったじゃない♪」

「私はもう彼氏と別れちゃったから!今、人の恋愛話なんて聞きたくないのーっ」

「スヨン、じゃあ今日は兄さんと一緒に晩ご飯作ろうか」

「賛成ー♪お母さんに兄妹孝行しよう♪」

「あら、助かる♪いい子供たちを持ったわ♪」


時間の空いたある日の夕方、そんな調子で母さんの問いかけをずっとスヨンが遮り続けてくれた。


「…オ、ッパ、、、もしかして帰ってきたのって……ユノさんが、原因……?」


二人きりになったキッチンの片隅で、鍋がことこと沸騰する様を見ながら、スヨンがそっとっそっと僕を心配してくれる。


「……ううん、大丈夫。何も問題ないよ。うまくやってる」


ここに帰ってきたら僕は『長男』で、家族に迷惑なんて二度と掛けたくない。
自分は何と思われてもいいけど家族が晒されるのだけは嫌だ。でも『縁を切って、はい、終わり』なんてことにはならないから。法的な処置を取ったとしてもきっと一生言われ続ける。
「あの家族は、TOHOSINKIのチャンミンの家族だ」と。
ユノと居る限り、家族を巻き込むかもしれないリスクが付き纏う。

”それでもユノがいいのか?”


「……」


覚悟とは、そういう意味も含まれている。


「本当!?なぁんだ、ユノさんに振られて帰ってきちゃったのかと思った。心配して損した~♪」

「ははっ。スヨン、ひどいなぁ。僕が振られる前提なの!?僕が振るってこともあるだろ?」

「あははははは!!ないない!それはないっ!!」

「何でそんな言い切れるんだ!プリンセス・スヨン!!」


ユノからの誉め言葉をそのままもじって、大笑いしてるスヨンをからかった。
涙まで出して目尻を拭うスヨンがそのままに愛らしい。
理解ある大切な妹に、辛い想いは絶対させたくない。


「だってもう、オッパはユノさんを中心に生きてるじゃない」

「え…いや…」

「ユノさんが居なくなっちゃったら、死んじゃうわよ。オッパ」

「……そんなわけない。。人は一人で生まれて、一人で死ぬ……」


過呼吸になった時を、思い出した。
でもそんな仰々しい想いまで言うわけにはいかない。


「そのくらい好きだっていうことよ。大好きなんでしょ?ユノさんのこと」

「……」





実の妹に、

ユノが死ぬほど好きだなんて





「…兄さんのこと、スヨンは軽蔑してないの……?」

「あー、洗い物もしなくちゃ。オッパ、そっちお願い」

「あ、うん…」


シンクの少し溜まった食器を手にして、軽く水洗いした後スポンジも手に取った。
返ってこない返事を前に、それが当たり前のことなのに気持ちが沈んでしまう。


「昔から、」

「うん」

「オッパの考えてることは、よく分からない」

「あー、、まあ、よく言われる」

「芸能界なんて欠片も考えてなかったくせに。お母さんの鶴の一声で本当に入っちゃうし。お父さんも丸め込まれて。なに?うちの男達は皆マザコンなのかしら?」

「だははははは!!確かにっ!!僕は少女のような母さんが大好きだっ」

「あははっ、私も大好きなんだけどね!」


日の沈みの遅い、外の陽気な空気を感じ取りながら、子供達の元気に遊ぶ声を聞く。
子供達の呼び合う声が聞こえる。


「そうだなぁ。何で入ったんだろうね、僕」


あの時はもうユノに会ってたんだっけ?
思い出せないくらい、とても遠い記憶だ。


「あの物静かで暗いオッパが、」

「はははははっ!」

「なぜかデビューを果たし、すぐさまスターダムにのし上がって日本でもデビュー。気付けばアジアを飛び回る大スター様へ変貌を遂げたのであーる♪」

「スヨン、僕は本当に努力しただろ♪」

「そうよ。努力したのよ、オッパは。歌はもちろん、恥ずかしくて仕方ないダンスも一生懸命練習して。お父さんの言いつけを守って、私じゃ想像もできない忙しさの中で独学で学校の成績も落とさなかった。分裂問題の時も散々有ること無いこと言われて、それでもTOHOSINKIへ戻った。何が何でも辞めなかった。そんなオッパを…軽蔑なんてできるはずないでしょ…っ、バカにしないでよ…!!」

「スヨン……」


さっきまでふざけてたスヨンが、さっきとは違う涙を浮かべて落とした。
蛇口を閉めてコンロの火も止め、ただスヨンを抱きしめて感謝する。

カミングアウトした時点で、生理的嫌悪感で接触さえ嫌がられることだってあると思う。でもスヨンもマネヒョンも僕に触れることを躊躇しなかった。


「本当にありがとう」


それがどれほど救われることだったか

伝わって欲しい。


「それでね、」

「ん?」


腕の中の僕を見上げるスヨンはすでに泣きやんでいて、我が妹ながら逞しいというかさっぱりとしてるというか…きっと次の彼氏もすぐできる…いや、誇りたいと思う……。


「私、疑問に思ったの。そんな死に者狂いに努力してTOHOSINKIに執着して、オッパは一体何が欲しかったんだろうって」

「……」



何が欲しかった?僕は



「……ユノさんだったんでしょ」

「へ…っ、?」

「オッパを『無理矢理百八十度変えた夢の男』だもん。考えてみたら当然よ」


それはラジオ収録で、僕が冗談めかしてユノを比喩した渾名(あだな)で。
自分でふざけて作った言葉に今更ながらどきっとする。


「……そんな昔から、ユノのことなんて考えてない……」

「そう…?」

「そうだよ……」


スヨンはふっと訳知り顔で笑うと、コンロの火を点けて再び料理を再開した。
僕はそこから動けずに、鍋の中のサムゲタンを見つめてただ呆然とするしかない。

だってそんな話、あまりに馬鹿げてる。
それじゃあユノじゃなくて、まるで僕が狂人みたいだ。


「…………スヨン、、」

「なにー」


そういえばユノが初めて作ったっていうサムゲタンは、決して美味しくはなかった。


「あの……」

「うん」



添えたいちごの赤さが際立って、本当おままごとのような料理で。
でもそれは過去に捕らわれてる僕にくれた、ユノの「初めて」だった。


すごく嬉しかった



「いつからなんて、、やっぱり自分でも分からないけど……」

「そう……」

「スヨンごめん……、」


未だ振り向かない妹の袖を引っ張る僕はやっぱり女性的なものも持ってるかもしれない。







「僕、ユノのこと……、」
 




「うん」








こんな酷い事告げる兄は
もう兄でも何でもない。











  

「……死ぬほど愛してるみたい…っ、、」






「そう…」












ただユノへ還りたい
 





「じゃあ認めざるを得ないじゃない?オッパ死んじゃうのなんて、嫌だもの」

「ごめん…!」

「うちはやっぱお母さんだよねー。お母さんが味方してくれたらアツイよねー♪」

「ごめん!スヨン…っ」

「どうする?海外旅行とかプレゼントしてまずはご機嫌とっちゃう?」

「本っ当にごめん……っ」

「あっ!そうそう!私にはSK-Ⅱね♪もう絶対忘れないでよ!?仕方ないからそれで許してやるか♪」

「…っ、、ごめん……」


軽すぎるほど明るく前向きに許してくれるスヨンに、縋りついて謝るしかなかった。



妹の気持ちの整理

家族のこと

今度のこと

そして一つ、嘘を付いてしまったこと




『いつからなんて、やっぱり自分でも分からないけど』


















「そうかもしれない」なんて



さすがに言えない












片割れ chap.10
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コメント

  • 2017/03/30 (Thu) 03:01
    No title

    ほう・・・
    息継ぎできた・・・

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