片割れ chap.10 #5










ユノが最近、暴走気味だ。



「は!?何で!?事務所の人間には言わないでって言ってたじゃないっすか!」

「でもマネヒョンだぞ?一番俺たちのこと支えてきてくれた人にまで黙ってる必要ないだろ?……まあ、結局笑われて冗談だと思われたみたいだから。大丈夫……」


ユノは『爆笑されてすごく傷つきました』って書いてある顔をソファーに沈めた僕の腹に埋めてきて、縋るように腰へ巻き付いてきた。厚くて長い足は肘掛けから見事にはみ出てる。
へそで感じるユノの深呼吸が熱い。


「そりゃ、そうですよ……」


数日前にあったらしいその話を聞いて沈む心が僕の中にもあった。何を隠そう、僕もショックを受けてる。

受け入れられると嬉しい。
拒絶されると悲しい。
笑われると水を被ったように我に返る。

膝の上の小さな頭を撫でながら、これは兄貴なんだと再認識する。

喉奥がひゅっと、締まる気がした。


「……ねえ、感覚が麻痺してませんか?僕たちの関係って、世間では常識外れなんだよ?最近ユノが周りに言い過ぎてて、僕ちょっと恐いですよ、正直」


二週間ぶりに日本から帰国した足で向かったスジュのライブコンサート後、なんとユノはスジュのメンバー全員に僕たちの関係をぶちまけた。そんな発表、誰も信じる訳ない。

言うまでもなく、「本当かどうか、今ここでチュウしてみろ」とただ冷やかされて、目の前が真っ暗になった。
嫌いじゃないけど、さすが男子校生ノリのスジュ。

結局シウォニヒョンとドンヘニヒョンとキュヒョンが証言してくれて、兵役中のヒチョルヒョンにまで電話で確認して、その場は納まった。一応皆からおもしろ半分の喝采を得て。

帰ったら怒りまくってやると勇んでたのに、シウォニヒョンのいつもの囁きで結局僕も浮かれて帰っちゃったんだから、まあどうしようもない。。




『こんな独占欲強いユノ大変だろ?いつでも俺のトコ来なよ♪』


軽すぎる誘い文句は本気じゃない証拠。
シウォニヒョンは二人で飲み行った日以来、事務所で会っても飲み会で会っても僕を誘うようなことは全くしない。「束縛なんてしたことのないユノがチャンミンだけは独占したがる。お前はユノの本物だ」といつも仄めかしてくれる。

シウォニヒョンは、僕たちを応援してくれる。とても暖かく。
それがよく伝わってくる。




「はあ~、シウォニヒョンって本当に筋金入りの紳士だよねぇ……」

「……ちょっと待て。なんで突然シウォンが出てくる……?」

「ぐふふっ…。べっつにー♪」

「……」


そうそう、これこれ。
モヤモヤした、こんなユノの雰囲気が溜まらなく嬉しい。



認める。僕は情念の塊だ。




「ユノ、僕たちは契約で事務所に籍を置いてる人間でしょ?最悪切られて終わりだよね?でもマネヒョン達は違う、会社員じゃないですか。組織の中で一生生きていかなきゃならないんですよ。マネヒョンやスタッフさんに話す時は事務所に話す覚悟でいかなきゃ。そのためには……、僕たちがもっと成長してもっと自立した大人になる時まで待ってくれませんか?」


薄目を開けてじっと僕の話を聞いていた横顔のユノは、「うん…」と呟いて目を閉じた。腰に回されてた腕に力が籠もって、ユノの綺麗な鼻がより僕の腹に埋まる。
くぐもったユノの声は僕の全てに染み込む。


「チャンミン……」








ああ、何て言うの。こういうの

何て言うんだろう……







自然とまあるい声が呼応する。


「はあーい…?」







愛しい




これ以上の言葉で表せない歯痒さが、僕を言葉から遠ざける原因のひとつ。
こんな気持ち、言葉でなんて表現しきれない。


「事務所とは契約切らない」

「当たり前でしょ、さっきのは言葉のアヤです。でもユノにはちゃんと分かって欲しくて。それくらい危ないことを言おうとしてるってことなんですよ。周りに分かってもらいたいって気持ちは僕も同じだけど、熱くなり過ぎないで。今バレたら、そういう危険性だって十分ありますよ」

「……マジで?」

「マジでマジで。気をつけましょう」

「分かった……。。キヲツケル……っ」


ユノを十分納得させた(脅した)ところで、一人で散歩に行くと言って外へ出た。
ちょっと湿気った重みのある風に当たりながら、イヤフォンを付けて目的の場所を目指す。

向かいの歩道で何人か速度を合わせて付いてくる女の子たちは気にしないことにした。声を掛けられたら軽く挨拶して過ごせばいい。


目指した光が見えてきて、気持ちだけキャップを深く被り直してから自動ドアを通過した。
燦々と照らされた店内に、色とりどりの食材の数々。カートにカゴを添えて、なんだかわくわくする。流れるBGMさえ新鮮で、聴いてた音楽は外した。

フルーツが美味しそう。いちごを買おうか。
予定になかった季節外れの赤い果実をまずは入れて、頭の中のリストを探してゆく。
目に留まったシャンプーやコンディショナーも選んで。折角だから使ったことのないセットに決めた。夜食用にパンを買いたいけど、ユノも食べてしまうかもしれない。今日はひとまず我慢する。


「お、あったあった…」


一番の目当てが見つかると思わず独りごちた。それをできるだけ多くカゴに納めて、レジへ向かって会計を難なく済ませる。
何でも揃うやや富裕層向けの大型スーパーマーケットから出ると、案の定、付いてきてたコ達に声を掛けられた。


「チャンミンオッパ!お豆腐いっぱい買ってたよね?何作るの?ユノオッパも一緒に食べるの?」

「食べきれなかったらヒョンにもあげるよ。夏は暑いし治安も悪いから、気を付けて帰って下さいね。駅はすぐそこにありますよ」

「「「はーい♪」」」

「じゃあね」


言えば素直に応じて帰ってゆく少女達に内心感謝しつつ。
それからまたイヤフォンを付けようかとも思ったけど、


「あ、蝉」


今年一番、夏の始めに聞こえてきた蝉の声と共に歩いた。汗ばむ肌は、後でユノに洗ってもらおうか。なんて考えながら。


「ぁ、れ…。なんで……」


僕たちの宿舎を目視できた時、滴る汗の一筋が涙だったことに気付いて自分で驚く。拭うこともせず、考えてみた。

なぜ僕は泣いてるんだろう?


「ユノ……」


蝉が鳴いて、肌は夏の知らせを感じ、僕は普通に買い物へ行けた。
人目に怯えず、欲しいものを手にとって、恋人と一緒に食べるご飯の食材を選んだ。
そして今、その人が待ってくれてる部屋が見える。


「…………ゃば…っ、、」





名付けるなら、それはただの









幸福だった



誰が何と言おうと、僕は今、両手に抱えきれないほどの幸せを抱き締めてる。


「……っ」


音もなく落ちる水滴を振り切って、そこからはもう全速力でユノの所へ戻った。


「っだあーー、疲れたぁーーっ!暑い!」

「おう、おかえり。何、買い物もしてきたのか?」

「散歩がてら。よし、ユノご飯作るよー。待ってて」

「え!?本当!?何々、何作ってくれるの?」

「こっち戻ってきたら作るって言ってたでしょ。で、豆腐チャーハンっていうのがよく見る料理本にあって、美味しそうかなって……どう?」

「マジで!?絶対食べたい!すごい食べたい!今食べたい!」

「ふふっ♪あとカロリーも低いのにボリュームあるんでいっぱい食べても大丈夫っ。ついでにいちごも買っちゃいましたよ」

「!!!チャンミナ、チャンミナ…♪」

「ユノ、暑いっ!!」










愚痴をこぼす僕の唇は笑ってると自覚してます。


膨らんだビニール袋を手を繋いで運ぶのは僕の作戦です。


びちょびちょの汗だくな僕にお構いなく纏わり付くこの純粋な人は、











僕の恋人です。








片割れchap.10
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