片割れ chap.10 #1





















俺は        僕は


チャンミンを    ユノに


捨てる       捨てられる













______C.side______









『場所分かった、そこ行くから。動かずに待ってろよ』

「マネヒョン、すいません。お願いします」


スマホの通話ボタンを押して、自分の不甲斐なさについ溜め息が出た。


「ふう……」


もうすぐ香港行きの便が出てしまう。
出発ロビーの片隅で、周りにチェガン・チャンミンだと気付かれないようマネヒョンを待った。
習慣の仕草。いつも写真に撮られるからスマホを見る振りをして俯く。
僕はその度、幸福を感じられない。


「いたいた。チャンミン、行くぞー」

「あ、すいません」


迷子になってしまった。
この歳で恥ずかしい。
できれば自力で皆を見つけたかったけど、意地になって飛行機に乗り遅れるわけにはいかないし。
マネヒョンの後ろからユノの怪訝な顔がひょっこり現れて、会わせる顔がない。


「チャンミナ、何やってんだよ。セキュリティか誰かついてきて貰えよ。危ないだろ」

「…だって。ちょっと……一人でも行動できるようになりたくて、、」

「え?」

「……」




僕は、一人で生活したことが

ほぼない。


マネヒョン、TOHOSINKIのチームスタッフ、セキュリティ、ユノ。誰かしらの監視と警護の下、行動してきた。それが当たり前だったし、混乱と騒動を避けるためにも必然だった。

つまりは、守られる側に居続けた。

でもそれじゃ駄目なんだっていう焦燥感が出てきたのは自然の流れで。
ドライブが好きなくらいで後のプライベート自体インドア嗜好で過ごしてきた僕は詰まるところ世間知らず。外ではトイレさえ付き添いがないと行けない籠の中の鳥でしかなくて、ユノを守るなんて息巻いてる自分との落差が悔しい。

何とかしたかった、小さな一歩からでも。


「一人で行動って、どういう意味だ?」

「僕だって男なんだから一人でも大丈夫ですよ、今日ははぐれちゃったけど空港内の本屋行ったり買い物行くくらい。これからは守ってもらう環境を少しずつでも緩和して、一人の人間としてちゃんと生きていけるようにならないとなって思って」


僕の主張を受けて、唇を尖らせ悩むユノの顔が予想外でちょっとびっくり。てっきり手放しで大賛成してくれると思ってたから。
でもそれだけ過保護に心配してくれるのかと思えば、嬉しい気持ちがむくむく膨らむ。
だって愛されてる証拠だもの。
口元が綻びそうな自分を制して、ユノにやんわりお伺いをたてる。


「時間のある時、一人で散歩にも行きたいし。そうだ、試しにキュヒョナに会いに、今度スジュの宿舎まで歩いて行ってみようかな」

「うーん……。一人かぁ…車で行けば?」


分かってる。
ユノは僕のこと考えて、何かと心配してくれてるだと思う。非難を浴びて怯えた時もあるし、過激なペンやアンチの行動に僕がストレスを感じないよう気を使ってくれてる。
でも今のままじゃ駄目なんだ。
僕だってユノを守れるようになりたい。


「大丈夫。出るとしても夜だし、目立たない格好で出るから。ほら、ユノも散歩すれば気分転換になるって誘ってくれたことあるでしょ?」

「じゃあ、俺も一緒に散歩しようかなっ。ダイエットになるし!」

「ユノはダメ!あんた居たら絶対バレる。来ないでくださーい」

「あ、はい…」


肩をすくめて苦笑いしてるユノがおかしくて、愛しい。


「ふふふっ。ダイエットは食事制限したらいいんじゃない?太りやすいのに食べ過ぎなんですよ」

「胃が大きくなったみたいで、なかなか食べるの止めれない……」

「日本で売ってる豆腐そうめんとか食べたら?あれだったら何個食べてもカロリー低いし」

「お、それいいな」


歩幅を合わせて歩くユノの向こう側にはガラス張りの景色が広がっていて、空と海が爽快な気流を流している。真夜中の月尻島から見た同じ海とは思えないほど生命に満ち溢れた輝きが反射し、僕たちを照らしてた。

そんな眩しい洪水に包まれていると、悪いことなんて起こるはずもないと思えてくるけど、いざって時、後悔しないように自分なりに踏み出してみたい。


「うん。でもさっきの話、いいんじゃない?何かを頑張ろうとしてるのは感じるし、自分がそうしたいんだろ?俺はちょっと心配だけど賛成。チャンミナはもっと外に出た方がいい」


最後はやっぱりユノらしく、背中をぽんと押して肯定してくれた。いつも悪い方向へ考えやすい僕にはただそれが、嬉しくて。

一人で街へ出てみたり、一人で買い物して一人で映画鑑賞して、一人で飲みに行ったり。
そういうことができるようになっていけば、自分の発想力や物を見る角度までも大きくなる気がしてきてわくわくする。


「あ~、いつか一人旅にも行ってみたい!」

「おお、チャンミナすごい♪」

「しかも海外!バスや電車に乗って観光して…楽しそう♪マイレージは何十万も貯まってるしどこでも行けるっ。ひひっ」

「二人で行こうか♪」

「だっから一人旅がいいんだって~。ユノだって友達と行きたいでしょ」

「あーそう言えば!地元の友達とラスベガス豪遊しようって約束してる~」

「知ってる知ってる、ホジュンさん達でしょ?」

「そう!ヒョンももうすぐ転役で帰ってくるなぁ♪」


この一歩は小さいが、僕にとっては大きな躍進だ。
月面着陸した宇宙飛行士の名言を自分で捩って、自分で笑えてくる。
つまり僕は、今最高に機嫌がいい。


「アームストロング船長……ぐふふ、いや、違うけど。ひひひ、」

「……チャンミナって、たまに変になるなぁ、はは…」

「いやもう、ふふ、おかしくなって…!ふふふっ」

「あ、そう言えばな?俺も相談があるんだけど!」

「はいはい♪」















僕の美しい星





それは貴方だと思う


















______Y.side______









「チャンミナ。ホジュニヒョンのこと、ゆっくり考えてみてな?」


俺の言葉を受けて、反射的に能面のような顔になったチャンミンに、やっぱり嫌なんだろうなってすぐ分かった。
機嫌のいい時に提案すれば考えやすいかなって思ったけど、そんな簡単なことじゃないよな。

チャンミンは前髪を落ろしてホテルのカーペットの編み目を凝視してて。珍しく俺の前で抱えて鳴らしてたギターの弦は静止してしまった。
ぷつりと音を忘れた部屋がちょっと恐い。


「……因みにいつからいつまで?」

「うーん、、はっきりとは言えないけど、12月から…ヒョンの収入が安定するまでだな。住むところがないから、俺が何とか助けてあげたいんだって」

「まあ、……それは分かります」


チャンミンのどっち付かずな反応が予想外でちょっとびっくり。言った途端に攻撃的な大反対が押し寄せてくると思ってたから。


「ありがとう。まあ、ゆっくりな」




俺だってやっぱり、

親しい人達には認められたい。


この前参列した友人の結婚式で、とても幸福な気持ちを味わった。皆が新郎と新婦を祝福して、皆が笑顔で、幸せに満ちていて。サプライズで紙吹雪を俺が散らせるとさらに会場全体が温かくなって。

幸せだった。

色んな考えや倫理はあるけれど、やっぱり少しずつだって皆に俺たちのことも認めて欲しいし祝福されたい。


「ホジュニヒョン、本っ当いいヒョンだから!俺が上京して苦しい時、本当に支えてくれた人で。お互い金もないのに小遣いくれたり、遊びにも連れてってくれたり本当に本当にお世話になったし」

「はい……」


分かってる。
チャンミンは昔から人見知りだったし、今も自分が心から許した相手じゃないと距離を置きたがる。ホジュニヒョンと一緒に住むなんて始めはただの苦痛でしかないと思う。

でも今のままじゃあ、何も進まない。

ホジュニヒョンは俺たちの関係をすごく嫌がってるし、チャンミンに会ったのも泊まりに来た時少し話したくらいしかない。
どうしたらチャンミンの良さを分かってもらえるんだろうって考えたら、答えは案外早く出た。


「だからな?俺も助けが必要な人にはすぐ助けられる人間でいたいの。宿舎にホジュニヒョンも住んでもらったら、俺たちはもともと留守がちだからその間宅配は受け取ってくれるし調度いいって♪」


俳優志望のホジュニヒョンは才能も努力も情熱もある人だけどまだ成功してなくて。今年の冬、兵役を除隊したら本気でソウルでの生活に困る状況になる。それにここへ住んでチャンミンを見てくれれば、性別を越えた俺の選択を自然と分かってくれるような気がする。
まさにベスト。


「うん、分かった」

「……へ?」

「いいっすよ。ホジュンさんはひとまずマネヒョンの部屋にいてもらって、マネヒョンも泊まるって時はユノの部屋で寝てもらえばいいよね」

「え、チャンミナ本当?本当にいいの?」

「はい。じゃあ冬になるまでに部屋の整理しないとねぇ。とりあえず夏は大掃除でもしよう?ユノも手伝ってよ」


首を縦にぶんぶん振ると、チャンミンはふっと笑ってまたギターを弾き始めた。
狐につままれたように立ち尽くしてたのは俺の方で、あまりにもチャンミンがあっさり承諾したから逆にこっちが心配になる。
だって何度も説得しなきゃ納得しないだろうと踏んで、こんな半年も前から切り出したんだから。


「ホジュニヒョンも……本当は俺に頼りたくないみたいなんだ、ヒョンだし。ドラマか舞台のオーディション受かって落ち着いたらすぐ出て行きたいって言ってるから」

「はいはい」

「あと……俺たちが付き合ってることあんまり良く思ってないんだけど、大好きなヒョンだからやっぱり認めて欲しくて。チャンミナ大丈夫か?仲良くやってくれる?」

「それは当然だと思うし、僕だって子供じゃないんだから。礼は尽くしますよ」


チャンミンの横に座って頭を撫でると、気持ち良さそうに喉を伸ばして俺の掌を受け止めた。ギターを床に追いやって身体を寄り添わせても、嫌がる素振りもなく好きにさせてくれる。

本当に機嫌が良さそう。
イタズラ心が湧いて、そのままうりゃっと押し倒しても静かに笑いながら俺の首に腕を回してきた。


「……なんか、裏がありそうで恐いな……」


チャンミンの、「お?」とか「ケンカ売ってる?」とか言う言葉をわざと煽ったのに、チャンミンの回した腕は強くなるばかり。


「……チャンミナ、どうした?何かあったか?」

「一年経ったね」

「ん?」

「今日、僕たちの関係がより深くなってから一年」

「……」








ドキッとした







「忘れてた?」

「あ、いやっ、あ、そうか。えっと……悪い、、そうだったよな」


一年前は初のスペインだったし、チャンミンが欲しくてとにかく必死だったし、正直付き合おうって言ってくれた日にちなんて悠長に覚えてられないくらい浮かれてて。


「もう、もしやあんた何もプレゼント用意してくれてないの?」

「え!?チャンミナあるの!?」

「僕は、ユノのために歌を歌うから。聴いてね」

「うわ……っ、」


チャンミンの真実の素顔は、ドキッとするほど格好いい。
一緒に起き上がってギターを持ち直したチャンミンが軽く弦を震わせて、咳払いして喉を整えた。


「なーんてねっ!冗談ですよ!!ファンクラブイベントで披露する自信がまだないからユノの前で練習したいだけ!ぶくくっ」

「そっか。いいよ、聴かせて♪」

「……『More Than Words』(言葉以上のもの)……」


チャンミンが今年の誕生日にツアースタッフから貰ったギターをちょこちょこ練習してたのは知ってたけど、だいたい事務所の練習室か自室で籠って弾いたりしてて。聴かせてと言ってもまだうまくできないからと断れてた。

始めはふざけてジャンジャン弾き出した弦の線が、チャンミンの歌声でなめらかになってゆく。
慎重に。丁寧に。優しく。

名曲の歌詞は何となくだけど覚えてたし海外の仕事も多いから英語も分かって。“言葉以上のもので表してくれたら、言わなくても愛してるって分かるんだよ”みたいな。そんな内容で。
でも“言って欲しくないって意味じゃないけどね”って歌詞もちゃんとあって、チャンミンらしいなと思った。

チャンミンの思考は難解。

俺が一つのことを考える時、きっとチャンミンはあらゆる角度から何重にでも考察してる。
一人で出歩きたいとかホジュニヒョンの仮住まいのこともただ言ってるだけじゃなくて、本当に自分の中に落としこんで理解してるはず。

だから俺もちゃんと聴いた。
チャンミンから発信される、僅かなメッセージを。

冗談だって、ついでだっていい。
俺がそう思えば本当にチャンミンからのプレゼントになる気がした。
抜け落ちてしまいそうな英語の内容を懸命に拾って、そのまま愛してるって分かるようにその歌詞のまま行動した。


目を閉じて
チャンミンに触れて
抱き寄せて
強く力を込めて閉じ込めた

チャンミンがどこへも行かないように


「言わなくても……分かるよな?」

「そうですよ。でもまあ、ユノは自由人だから。またには強引にでも束縛してくれた方が安心するかも……」

「え」

「え、だって気持ちが強い証拠でしょ、……ユノには分かんないか、」

「…………いや、俺ガンバるわ……」

「うん、不安になる時あるしね。正直言うと」

「ワカッタ…ちょっと紐探してくる…っ」

「は?」


その後見つけたバスローブの紐やらヘッドフォンのコードでパボヤー!って叫ぶチャンミンの手足を拘束して愛を確かめ合った。だって強引にでもって言われたし。そしてチャンミンも何だかんだ笑ってたし。


「こういう意味じゃない!本っ当頭悪いな!」

「言われたことは信じるから、俺」

「……やるならちゃんと縛って。解けたらどっか行っちゃいますよ?」


なんてエキセントリック!

情熱的!!!


「来年!来年は絶対!次は俺が何かプレゼント用意しとくから!!」

「だから、冗談だって……っ」
















俺のロマンチストな星




それは君だと思う

















片割れ chap.10
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