片割れ chap.9 番外編#31 チャンミンの平行世界












一緒に暮らして
一緒に仕事して
一緒に1つのベットに入って

よく考えてみなくても、僕たち2人にデートなんて概念は今までなかった。
だって待ち合わせなんてしなくても居るんだから。どこかに行っても、必ず帰ってきてくれるんだから。そしてユノは、外に出るととても目立ってしまうから。

部屋でご飯を食べて、何とはなしにDVDを観たり音楽を聴いたり。
そういうものを、大切にしてた。





「へー。こんな所にお店あるの?住宅街の中?」


ユノの車を停めて、駐車場からお店までの道を2人で歩く。

予め電話で確認を取ってくれたユノは、「暇だからって貸し切りにしてもらえた♪俺はジュースでも飲むわ」って銅雀区までの道のりを明るく運転してきたけれど、飲食店を2人で貸し切りにしてアルコールも飲まないなんて失礼な気がしてはらはらする。ユノはまったくその事に気付いてないのか気にしてないだけなのか分からないから、せめて僕だけはきちんと味わおうと思った。

辺りは少し年数を経た一軒家ばかりが建ち並んでいて、高層マンションは見当たらない。どこも寝静まっているのか、灯りは街路灯と月だけ。道端の紙屑が夜のそよ風に乗った。


「そっ!穴場~♪俺が弱った時とか話を聴いて欲しい時とかに、1人でたまに来る店」

「知らなかった……」

「チャンミナはどこに誘っても来てくれないだけだろ。俺何回がっかりしたことかー」

「だって、、ユノと出ると誰かしら集まってきてその場が賑やかになるんだもん。僕はそういうの少し苦手だから」


ユノは、ふとした時に自分の手の内を見せてくれる。自分の弱さを見せてくれる。
それは強くあろうとする者にしかできないこと。


「まあな~、でもここは誰にも言ってないぞ。チャンミナが彼女を宿舎に連れて来たって勘違いした時も、この店でずっと飲んでた。とても1人じゃ居られなかったから」

「……」


本当に、強くて優しい男。


「11月だったな」

「11月…」

「そう、カルボナーラとワイン用意してくれてた時だよな?」

「……。そうでしたっけ?」

「そうだよぉ」


とぼけた僕を笑いながら、ユノは一角の家の看板も掛かってない、でも確かに重厚な赴きの扉を開けながら。


「その時気付いたんだ。チャンミンが好きだって」


不敵な流し目でまた、“水”を注いでくれる。




貴方は素晴らしい






「……注がれ過ぎて骨抜きにされそう……」

「?マスター、来ました」

「お待ちしておりました、ユノさん」

「…え…」


つい最近、聞いたことのある声が出迎えてくれて。

ユノの背中越しに、その声の主を見た。
僕はきっと笑ってた。
あまりにも、嬉しくて。


「いらっしゃいませ。その方がユノさんの?」

「そうです」

「そうなんですね。初めまして。こじんまりした店ですが、どうぞごゆっくりお過ごし下さい」


柔らかくお茶目に、ふさふさの白髪をオールバックにした老人が微笑む。かっちりバーテンダーの制服に身を包んだ姿は見たことないけど、僕はその人を知っている。


「今晩は…」


平行世界にはそれぞれの『自分』がいて、それぞれの道があったとして、それぞれの選択が違ったとしても、きっとどこかで繋がっている。

こんなふうに。


「チェさん、…ですよね?」

「……はい、左様でございます……」

「え、チャンミナ、マスターのこと知ってるの!?」

「……申し訳ございません。貴方様にお会いしたことがございましたか?年を取ったためか記憶違いで……本当にお恥ずかしい。申し訳ございません……」

「いえいえ!違います違います!」


カウンター席に座った僕に深々と頭を下げられて、こっちが恐縮してしまう。僕には親近感と感謝しかない。


「マスターにお会いしたことはないんですが、…家政夫のチェさんにはお会いしたことがあるんです」

「え?」「え?」

「珈琲とウィンクがお得意ですよね?」

「……あらま」

「え、チャンミナ何で知ってるの!?」


リュックに揺れるペアキーホルダーを外して、訳の分かっていないユノを尻目にマスターにそれを渡した。これはチェさんのものだから。


「それ俺があげたやつ……ミッキー君とミニーちゃん……付けれなくなってごめんな

「大丈夫、これはユノに貰ったやつじゃないから」

「?」

「これ……前にお若いお客様から頂いたまま見当たらなかったんです。……なぜ貴方が?」


ほら、こんなふうに

繋がっている


「あの、、突然で変な奴だと思われるかもしれませんが、……パラレルワールドのお話してもいいですか?これは貴方に返さなきゃいけないんです、僕」

「はい。そういうお話、大好きですよ♪」

「???」


それからもユノそっちのけでチェさんと話して、彼の出してくれるお酒は予想通りどれも最高に美味しくて。結局普段は出してないという珈琲までご馳走になった。懐かしい味に口元が緩んだ。
酔っ払いの戯言かと思われたかもしれないけど楽しくて仕方なかったのは、アイスチョコを作って貰って嬉しそうに飲むユノが隣に座ってるから。


「また是非お越し下さい。ユノさんとご一緒に♪」


ユノが隣に居るだけで、嬉しくて楽しい。











車の助手席で待っていると、お会計を済ませたユノが息を弾ませて運転席に乗り込んできた。
エンジンの掛かる音が好き。
始まりの音に似てる。           

「もうちょっとデートしようか」

「どこ行くの?」

「海とか?着くまで寝てていいから」


少し酔ってるのかもしれない。
とても嬉しい。とても楽しい。
さっき僕が書いた歌詞に勝手に音程をつけて口ずさみながらユノはハンドルを切る。ギュラインの曲に比べたら陽気なリズムだけど、それはそれで悪くないなと思った。


「ユノは……作曲してみたいの?」

「そうだな。してみたいな。俺が作曲してお前が作詞して、いつか一緒にそれを歌えたらいいな」

「そう…」


また、夢がひとつ増えた。
本当に面白い人。この人と居ると、立ち止まる暇なんてない。
至って冷静に相づちを打ったのに、何だか妙におかしくなってきてくつくつ笑い声が漏れた。


「なんだー?チャンミナぁ?」

「いやだって。楽し過ぎて♪」


やっぱりユノがいい。
ユノが大好き。
離れられない。

ユノは「また何かからかってるんだろ」って溜息ついて苦笑いしたけど、本当にそう思うから。


「夢を見たよ」

「どんな?」

「……電車にね、乗ってるんだけど。間違えて他の電車に乗っちゃって。それでまた帰ってくる夢。そしたらそこにユノが居て、おかえりって言ってくれましたよ」

「『おかえり』♪」

「ぶふっ。どうも。ふふっ」

「他の電車は楽しかった?」

「え……」


ユノは昔から、少年のように純粋に僕の話を聴いてくれるから。他の誰も疑問に思わないことを聞いてくる。誰も気にも止めないようなことを思いつく。なぜそのように考えられるんだろうと、はっとさせられる。いつも自然と、傍に居てくれるだけで。何も持たずに僕の中へ存在する。

交差点の信号が赤で停まると、さも現実の話のようにこちらに向き直って聴いてくるから、この人は本当に分かってるか?って疑いたくなるほど。


「パラレルワールドに行ったんだろ?どうだった?」

「……やっぱこっちがいいやって思ったかな。ユノもいるし」


最後の言葉がやっぱり照れくさくて外の景色を見渡すように反らせた顎。を、捕まれて戻された僕の唇にユノの唇が降ってきた。
突然過ぎる。全然予測できない。


「…っ、な…っ!」

「だろ?俺がいいだろ?」

「なな、何やってんの!?こんな、外でっ」

「だってデートだし♪」

「だか、だからって誰かに見られたらどうすんの!?馬鹿かっ!」

「大丈夫っ。窓にスモークちゃんと張ってる」

「前全然見えるじゃん!」

「誰も居ないの確認した。チャンミナ耳赤いよ?」

「……っ」


そう言って耳を掴むように触れてくる長い指を、僕は拒めない。
拒みたくない、から。触れて居たいから。


「かぁ~わい♪」

「……っ」

「自分からは大胆にくるくせに不意打ちは弱いよなー」


本っ当ウルサイっ、この人…っ。


「お、やば!」

「ちょ、早く!ユノ!」


後ろから鳴る苛立ったクラクションに助けられたけど、どうやら今夜、僕はユノの掌に居るらしい。










ユノが連れて行ってくれたのは、月尾島の海岸だった。いつも移動で使ってる仁川空港がすぐ先に見える。でもこちら側から空港を見たのは初めてで、こんな観光地にユノと来るなんて考えたこともなかった。



「寝てて良かったのに」

「いや、そんなわけにはいかないでしょ」

「どうしようか……外出ても大丈夫かな」


ユノが少し前のめりになって左右を確認するのは、人の気配。有名観光地だから、夜中に散歩してる人もいるかもしれない。
だけどそれよりも月灯りを閉じ込めて光るユノの瞳に惹かれた。睫毛が柔らかい影を作って美しい。


「折角だし……ちょっとくらい、いいんじゃない?」

「じゃあ、ちょっと出るか」


ドアを開けると一気に塩の匂いが舞い込んで、外に出ると爽やかな風を感じた。仁川空港の航空障害灯や誘導灯がイルミネーションのように瞬いて、暗くて見えない海のさざ波が聞こえる。


「……気持ちいい」


済州島の海を思い出した。
スペインの海を想った。


初めてキスをしたり、付き合い出したり。

僕たちの始まりは何かと海が繋がってる。

この海からは何が始まるんだろう。
聞けない質問を聞きたくて振り返ると、ボンネットに寄り掛かったユノが月光越しに紫煙を燻らせてた。

そして僕を見てた。


「……海見た方がいいんじゃない?」

「海もちゃんと見てる」















 

ドキドキする。






いつも抜けてたり部屋の片付けができないユノが、わざとなんじゃないかと疑いたくなるほど格好いい。


目線を流してまた見えない海を見た。今夜の月は海を照らすまでの力はなく、凝らしても見えない。その先に何があるのか、不安になるような闇が海のずっとずっと先の地平線にあるような気がした。


「誓いますから……」


風が強く吹き抜けて、僕の声をさらった。
ユノには聞こえなかった。


「守るからね」



この海から始めよう。


何かあった時は、ユノは僕が守る

格好悪くても、
格好良かった『チャンミナ』みたいに






「え?なにー?」

「……ジョーカーになりたい!」

「へえ?」

「不良とか悪者って自分の欲に忠実だから。やりたいことやってて羨ましいじゃないですか」


それに隠して、守れるものがあるなら。


「……お前って、やっぱり本当に面白いなぁ」

「それにバットマンはジョーカーを殺せないから。殺されなくて済む♪」

「そうだっけ?」

「そうっすよ~。どんなにジョーカーがめちゃくちゃやっても、正義感とモラルでバットマンは誰も殺さない。ユノにぴったり♪正義のヒーローっぽい!」

「えぇ、…そっかな♪♪」

「……」


乗っかった……楽し過ぎる、この人。
はにかむユノが本気で照れてて、笑っちゃいそうなのを必死で堪えた。


「そう!ユノがバットマンで僕がジョーカーで…永遠に戦い続ける運命!!」


僕が戦闘態勢に構えると、ユノは何とかうろ覚えのバットマンを真似ようとし出だすからもう面白すぎて。結局爆笑しながらユノを運転席に押し込めて僕も助手席に乗った。





















永遠なんてないけど



永遠に誓うよ、ユノ












デートしてくれて、ありがとう











ありがとうございました。駄文のため、かなりかなり分かりにくい内容だったかと思います。好き勝手やらせて頂きました、ありがとうございます!あと20000拍手リクのta****様、あらぬ方向へ進んでしまい、この番外編でお応えしたかったのですが失敗したと思います。大変申し訳ありません。
片割れ#チャンミンのパラレルワールド
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