片割れ chap.9 番外編#29 チャンミンの平行世界










「うん、とにかく水。ほら」


手渡された水をこくんと含むと、一口の水分が感動するほど美味しい。解毒剤を飲んだように体が生き返ってくる。


「俺も近くのカフェから帰るところだったから、ちょうど良かったんだよ、キュヒョン。お前ら飲む時だいたいこの辺りが多いの?」

「……。まあ、そうですね。それぞれ美味しそうなとこを予め探して回ってます」

「今日はキュヒョニヒョンが見つけてくれたんですよ。初めて来たんですけど、品数も多いし美味しくて良かったですね、ここ」


それは僕にとって、3日前の出来事だった。
キュヒョンとミノと、この場所で、飲んでた。


とても昔のことのように感じる。

長い旅から、帰ってきたような。


3人の会話を左脳で思い出す。右上のどことはなく見上げて頭の作業をしていると、僕が上の空だと思ったのか、隣に座る人から肩をさすられた。


「ったく。帰るか?」


語尾を上げて問いかけてきた人は、僕の人。
膝をかしてくれた優しいこの人は、僕の人。

空の色を確認しなくても、店のメニュー表で文字を確認しなくても、雨や海の色を確認しなくても、分かる。分かるものは分かる。
僕だけの動物的な勘。


または、本能。


「……ユノだ……」


ユノだった。

ユノは帰るかと聞いたくせに、向かいの2人とまた話し出す。新しい満タンのグラス達がまた並ぶ。


「でも本っっ当助かりましたっ。迎えに来てもらうわ小言は多いわ大変でしょ、ユノヒョン」

「まあ、だいたい毎日怒られるけど、気になんない。ははっ」

「わー……毎日か」「わー……毎日か

「あ、違う!怒られるんじゃなくて叱られるんだった!」

「……どんだけ?」「……尻に引かれてる?


ユノが僕の隣で、恰好よかったり優しかったり可愛くなったりする。いつも在るそれらが、いつも僕を色んな感情にさせるけど、今の僕は勇者の気分。冒険から無事に帰還した、エンドロール目前の主人公。


「ユノ…!!」

「!や、違う違う!俺が悪いんだよなっ。分かってる分かってるっ」


僕の呼び掛けにまた驚いたユノがあたふた両手で抑えて抑えてとジェスチャーするけど。今じゃないと、この勢いじゃないと。死ぬ気にならないと言えないから。
前後に振られる長い指たちを僕の両手で包んだ。


「ユノ、伝えたいことがあります!」

「……へ?」


今なら、言えるかも


「あの……っ」

「…うん?」





『好きだよ』って

『愛してるよ』って

『ありがとう』って





「あのね…っ」




「……えっと、、チャンミナ、まあ後でいいから…な?2人もいるし……」




はっと我に返ると僕は拝み倒すように手の中のユノの指に口付けてて、ばっと向かいを見ると口をあんぐり開けて僕を凝視するキュヒョンとミノがいる。
親友と後輩に見られてめちゃくちゃ恥ずかしい。でも今、言わないと。
ユノの手を離せない。でもやっぱり、恥ずかしい。


「……っ、、いやあの……っ、…っ今までの彼女とかにはちゃんと言ってたんですよっ。けっこう言葉で伝えてて……喜んでくれたし、それが彼氏の特権だし本当に好きだったし…、、っ」

「……」

「チャンミニ何で突然元カノの話…?」

「ヒョン、さすがにちょっと……」

「いや、じゃなくて…っ、伝えたいのは……、、」


いらない言葉ばかりが寄せ集まってくる。躊躇った隙をついて、天の邪鬼が出しゃばる。
ユノは眉を下げて、それでもじっと見つめてくれる。
傷つけた……、そう思うのにこの人の言葉は優しい。


「大丈夫だよ。言わなくても、分かるから」

「……」





この人は、僕以上に


僕を分かってくれるから、






「ありがとうとか好きとか、男同士でそう言うの、俺は恥ずかしくてできないわっ。はははっ」

「……っ」


優しい嘘を僕のために吐く。

だけどあんたはいつも言ってくれるじゃない。「好き」「可愛い」「綺麗」「格好いい」「いつも頑張って偉い」「ありがとう」「愛してます」、愛の水を惜しみなくこんこんと注いでくれる。
眩しそうに目を細めて笑って、こんな僕を愛しそうに純粋に見てくれるじゃない。


「……僕は、」





持て余して、言葉になんて



未だに


たまのメールくらい









「僕が伝えたいのは、………歌」




だから、僕は誓う。




「恥ずかしくてユノにはなかなか言葉にはできないから……歌で、いろんな気持ちを表現できる、そういう人間になりたい……」


僕は誓う。

これからも歌い続ける楽しい曲、切ない曲、悲しい曲、希望の曲、愛の曲。
2人の物語だと想って、歌う。

悪いことも良いことも一緒に経験してきた僕たちなら、きっとできるから。


「そうか」


見上げたユノがすごく嬉しそうに一言返してくれたから、やっとほっとできて僕はユノの手を離した。でも次の瞬間に訪れたのは、僕なりの告白をついにしてしまったっていう達成感と羞恥心。今更ながら『チャンミナ』の崖っぷち精神が羨ましい。


「……っ、だから!そろそろ次のアルバム制作始まるじゃないですかぁ!?」

「え?あ、うん?」

「今まではスタッフに任せてたりしてましたけど、あれってどう思います?僕たちもしっかり選曲したり、できたらミキシングもちゃんと参加したいんですよねっ」

「……確かに。だよなっ!!あ、アルバムに入れる曲の順番も考えて……流れを作ってみたらどうだろ?それで物語を聴いてるような…」

「それいい!いやあ~っ、すごくいいと思います!さすがユノ!」

「……なんか一気に」「……色気ないですね」


キュヒョンとミノの呆れた声を、ユノへの盛大な拍手で打ち消した。なのにキュヒョンはまだ食い下がるから、親友ならではの物言いに辟易する。


「お前なんでありがとうくらい言えないの?ユノヒョンにだけ言えてないんじゃない?あんな寝ぼけてユンヒョン呼ぶくせにさ。せめてそれくらいちゃんと言えば?」

「………っ、違うし!!寝てただけじゃないし!」

「……は???」


ちょっと今パラレルワールドの話なんてできない。絶対夢だと思われるし。それよりこの恋人の名前を叫びまくってた自分を何とかしたい。


「…っ、夢の中で物凄く良い歌詞が思い浮かんで……っ、あーこれユノに見てもらいたいなあっと思って……呼んでたんだって。今だって思い出せるもん…」

「え!?チャンミニヒョン本当ですか!?」

「ぎゃはははははっ!嘘つけ!」

「へー!チャンミナすごい♪どんな歌詞だ?」

「嘘じゃないって!本当に!僕、たちの、こう……愛してくれる……ペン達のために……」

「「「どれどれ」」」

「……」


面白がったキュヒョンに紙とペンを押しつけられて、僕は溜息を吐きながらそれを受け取った。




エンドロールは、もう少し先らしい。












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コメント

  • 2017/02/05 (Sun) 23:38
    No title

    あーはーはーはー

    笑うばかりじゃない。
    うん、どこにいてもどのユノも、ユノだね。

    で、がんばれ、チャンミン。

  • 2017/02/06 (Mon) 07:30
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    このコメントは管理人のみ閲覧できます

  • 2017/02/09 (Thu) 22:08

    72******* 様

    うんうん、文で一発で分かりましたよ!笑
    ユノは広い愛でチャンミンは突き抜ける愛、のようなイメージがあるんですけど、私の中でそれは限りなく近い愛なんです。うまく表現したいなぁ…。

    • ゆのっぽん(りょう) #NNZ72WTo
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