片割れ chap.9 番外編#22 チャンミンの平行世界










アラームをセットしない朝は、とことん起床が遅い。


「……、」


すでに太陽の射光が燦々とベッドに振り撒かれていて眩しい。寝た気が全くしない体が重い。目を綴じて視覚以外の感覚を研ぎ澄ませる。リビングの方から人の動く気配とベッドから主の残り香を掬えた。

ユノヒョンの香り。僕の源。


「さぁ……」


なんとか歩み寄りたい、ユノヒョンと。

起き上がって手にしたスマホと共に部屋を出ると、見覚えのない年配の男性がキッチンを使ってた。ベーコンの焼ける香ばしい香りに腹の虫が反応する。


「ああ、チャンミンさん。おはようございます」

「……おはようございます。あの、、どちら様ですか…?」

「……。失礼しました、私家政夫のチェと申します。ユノさんから聞きました、チャンミンさんはよく食べる方なんですね。朝食を用意してますから、座ってお待ち下さい」

「すいません、どうも…」


ユノヒョンはすでに居なくて、ソファーに畳んだ毛布だけ残ってる。寝間着のまま失礼かなと思ったけど、どうにも体がだるくてそのままダイニングテーブルで朝食を待った。よく寝たはずなのに、まるで徹夜したような倦怠感。

気晴らしにスマホのゲームでもやるか、あ、その前にキュヒョンに連絡を、と思い付いて、カトクのアプリを開くと、キュヒョンから何件も僕を心配するメッセージに加えて、昨日居酒屋にユノヒョンと僕が行ったことがネットで騒がれていると教えてくれていた。謝りと感謝の返事、そしてユノヒョンに告白した顛末を入れて、また返信を待つ。

僕たちはこれから、TOHOSINKIを再始動させる。

不安だらけなのに鮮明にうまくやれるイメージが浮かぶ。
2人でステージに立って、歌って踊って歓声を浴びて。そしてソロで僕は「Rusty Nail」を歌う。きっとうまく歌える。


「……」


なんで、「Rusty Nail」?
いや大好きな曲だけど……


「お待たせしました」

「あ、頂きます」


目の前に並べられたベーコンとスクランブルエッグとサラダとマフィン。後にはコーヒーも付いてきて、優雅な午前。
これからは忙しくなって、こんな悠長に過ごせないかもしれない。


「んー!このコーヒーすごく美味しいですっ!!」

「ありがとうございます。昨日とても褒めて頂いたので、今日はつい張り切ってうちで豆を挽いてきてしまいました」

「え、昨日?」

「あ…いえ、失礼しました。それより午後にマネージャーさんが迎えに来るそうです。ユノさんとは事務所で合流して、それから責任者の方々とミーティングだそうですよ。いよいよですか、再始動」

「……はい」


何だろう。これからの活動に胸が高鳴るはずなのに、全然集中できない。誰か他の人間のスケジュールを聴いてるみたい。


「お帰りなさい、記憶のあるチャンミンさん」

「…………」


何だろう。すごく変だ。
ふうわり笑ってウインクするこのおじいさんの姿を知っているような気がする。初めて会った人なのに、見たことあるような気がする。


「……昨日って、、仰いましたね?変な質問なんですが、僕チェさんと昨日お会いしましたか?何だか…初めてお会いする気がしないんです」

「いえ、きっとアナタとはお会いしてないと思います」

「本当ですか?」


すごく奇妙だ。言葉がそのまま飲み込めない。
嘘だって分かる自分が奇妙だ。


「私がお会いしたのは、記憶のないチャンミンさんです」

「……」


そういえば昨日、どうやってユノヒョンと会ったんだっけ?


「……あれ?」


部屋でユノヒョンと懐かしいCDを聴いた。でもどうやって宿舎に来た?


「え?」


その前になんで突然ユノヒョンと笑い合えてた?
何がきっかけだった?


「……」


僕何か、大事なこと忘れてない?

どこに行きたかったんだっけ?


「……よく、思い出せないんです。絶対忘れちゃいけないことだったのに」

「それは、困りましたね。それは何だったんでしょう。まさか……コーヒーの美味しい煎れ方のコツじゃありませんよね?」


こっちは真剣な話をしているのに冗談めかされて。恨めしいはずなのに釣られて笑ってしまう。確かにあった、こういう事が。


「……。僕は昨日もチェさんのコーヒーを飲みましたか?」

「はい。今日とは違う、普通のインスタントものでしたけど。煎れ方で美味しさが変わるお話をさせて頂きました」

「……」





『こつがあるんですよ』





「………あ!確かに!確かに僕聞きました!!」

「はい♪」

「他には?僕たち何の話をしましたか?」


チェさんのバーを開く夢、ユノヒョンの好きな飲み物。時間をかけて記憶を手繰り寄せると、餌に食らいついた魚のように浮かび上がってきた。








絶対何か、やらなきゃいけないことがあった。







「あのっ、コーヒーをもう一杯いいですか!?これも美味しかったんですが、できれば昨日僕が飲んだやつを」

「かしこまりました。ではお時間頂きますので、その間に外出の支度をされてはいかがです?そろそろお迎えの時間ですよ」

「はい、そうします」




窓の外を確認すると、雲1つない爽快なエメラルドグリーンの空が広がっている。


「……」


何度も空を確認するように見てた気がする。
何を見てた?僕は。

ユノヒョンに借りてたジャージを脱いで、僕の1着しかない服に着替えて春物のロングカーディガンを羽織った。触り心地が抜群良い、僕のお気に入り。


「……」


どこで買った?誰と買った?

タグを見ると日本製のもの。

うんうん唸って考えても、さっきのチェさんの話のようには思い出せない。痺れるまで脳の中枢に意識を集中させても思い出せない。でも絶対思い出さなきゃいけないことがある。

僕がユノヒョンやグループより大切なことって?


「……あるわけない」


そう、あるわけないのに何かある。

チェさんが用意してくれた2杯目のコーヒーは、1杯目より薄かったけどそれでもとても美味しかった。そして飲んだことがあった。


「あの……、あまり無理されずに。そんなに首をもたげて悩まれていると私も苦しいです。ゆっくりでいいんじゃないですか?」

「すいません…」


でもとても急がなきゃいけないと思うのはなぜだろう。時間が進むほど取り返しのつかない事になりそうで、こんな状態で今日の大切な打ち合わせはできるんだろうか。



「何か私にもお手伝いできることがあればいいんですが……」

「いえ……」


こんな時、ユノヒョンならどうするかな
    

「…………」




信じるものを、想う




「……形だけ、まねっこ……」


ユノヒョンのその姿を見る度、この世界で最も美しいと感じた。表現し難い清潔さ。何人たりとも汚されない高尚さ。
それを守りたかった。何がなんでも。
 
両の手の指を組んで、額を傾ける。


「お願い……」


僕が祈るのはユノヒョンだ。
ユノヒョンを想う。ユノヒョンのこと。

今までまともに接することもできなかった。いつも背中を追って。……背中?

横顔。隣。隣に立ってるユノヒョン。


「……」


思い浮かぶユノヒョンの姿はすぐ隣で笑う横顔。これはいつかの記憶?それとも妄想?

振り向くユノヒョンは僕の頭を撫でたり腕や太股に触れたてきたりして。思いっきり抱き締められて声を上げて無邪気に笑う。人前ではクールに見せたいくせに2人きりだと甘えてきたり、何もない所でずっこけたり。言っとくけど皆あんたが抜けてるって気付いてますよ。食べ物溢したらすぐ拾わないと。後でまとめて拾うっていつも忘れちゃうじゃん。ちゃんとしてよ、結局僕がやる羽目になる。


「……ユノヒョン……?」







これは、ユノヒョン?







「チャンミンさん、マネージャーさんいらっしゃったみたいですよ」

「へ!?」

「今インターフォン鳴りましたよね?」

「あ、そうですか…すいません、気付かなかったです」

「……」


もう少しだったけど仕方ない。
最小限しか入ってないリュックを背負って玄関へ。久しぶりにどっしり座ってスニーカーの紐をしっかり結ぶ。結び方が気に入らなくて結び直すのに、またそれが気に入らない。


「……ちっ」

「チャンミンさん……体が行きたくなさそうですね……」

「あ、違うんです。行きたくないとかじゃなくて、ちょっと紐の結びが気になって……っ」


後ろを付いてきてくれたチェさんの心配声が申し訳ない。図星を言われて居たたまれない。


「そうだ、ちょっとお待ち下さい」

「はい……」


どうしよう。全然身が入ってない。こんな事じゃあ、ユノヒョンにも呆れられる。


「チャンミンさんくらいのお若い方なら、こういうのお好きですかね?」

「はい?」
 



振り返ったチェさんの指の先に、二筋の光を見た。




「男性の方にも人気だと聞いたんですが」

「…………」

「私の孫が日本に行ってお土産に買って来てくれたのですが、私にはよく分からなくて。ペアのキーホルダーなんて使い道もないですし」

「…………」

「こんなものしかないですがもらって頂けませんか?元気出して下さい。ね?」

「チェさん、ありがとうございます。チェさんのおかげで大事なことを思い出しました」

「おや、そうですか。それはそれは良かったです♪」




「僕は……」 








 
チャンミナ、ありがとう

ちょっと借りるね







「『記憶のない』方のチャンミンです」


「そうでしたか…。先ほどお会いしたことがないと言ってしまって失礼しました」

「とんでもない、僕も忘れそうだったんです。これ…本当に頂いていいですか?」

「もちろんです。やはりチャンミンさんもお好きですか?」

 


「……はい、大好きなんです。ベビーミッキーとベビーミニー」








大好きな人のところへ、早く戻らなきゃ















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コメント

  • 2017/01/25 (Wed) 07:08
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  • 2017/02/09 (Thu) 21:49

    雪* 様

    いつもありがとうございます。
    私の中で、大事な場目だったので、伝わって本当に良かったです。
    本当、良かった良かった…。涙

    • ゆのっぽん(りょう) #NNZ72WTo
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