片割れ chap.12 #6







______C.side______





結局一睡もできなかった。
「目を瞑って深呼吸するだけでも睡眠効果がある」なんていつかに得た豆知識を布団の中で実行してみたけど、寝られないとやはり瞼の重みを感じる。空港で待ち合わせたユノヒョンの前でも欠伸が止まらない。


「ふあぁ~あ…」

「……」

「……」

「……」


だからと言って。
ユノヒョンから何か声を掛けられるわけでもなく、搭乗時間になるまでの僅かな時をロビーで過ごしながら、向かい合わせに座るヒョンを観察した。
スマホをいじって別段いつもと変わらない雰囲気が逆に、昨日のデートの行方を知りたくなる。


「ああ、…眠いです。ヒョン」

「んー?頑張れ、大丈夫だよ」


話の続かない会話を続けようとするのは疲れる。知りたい内容もいい事はない。
でも聞いた方がいい。
普通の弟になるためには避けて通れない。


「っ、…ユノヒョンはっ?眠くない?昨日はアラと食べに行って…どうでした……?」


自分の気持ちが表れるように、声の大きさもテンションも尻すぼみになってしまって恥ずかしい。


「まあ普通。一緒に店出て帰って。いつも通り寝ずにしたけど眠いってことはないな」

「え…何。どういうこと……」


だけどユノヒョンの情事を匂わせる回答に、殊勝な面持ちが剥げ落ちた。


「やりたいことなんて沢山あるだろ?思い付くと止まらなくて」


一瞬にして


「、、、」


頭を鈍器で殴られたような衝撃に痺れて声がついていかない。意味深な言葉を簿かして要点だけを処理したい。理解したら最後。吐きそうで。
すでに胃はひくつき出した。


「……ユノヒョン。。ア、ラと…」

「うん?」


ユノヒョンがいつか誰かと、すぐにでもアラと付き合うことになったと言われても。
笑って弟として祝福しようと、羨ましがってさえ見せようと思ってたのに。
ちゃんと身構えてたのに。


「僕聞いてませんけど。え、っ、いつから?」


まさかとっくにアラと付き合ってたなんて考えてもみなかった。それどころか男女の営みをさらりと報告されて具体的なアホ自慢もされて。

こんな復讐劇ってある?
予想を超えた状況に笑顔が貼り直せない。


「大丈夫。最近朝までずっとそんな感じだし」 

「、はっ。別に朝まで何してようとどうでもいいんですけど」

「そうかよ……。じゃあ、話しかけんなよ」

「質問くらい答えろよ。ねえ、いつからなの」


問い詰め口調が加速する。また喧嘩になりそう。次こそ僕はこんな公衆の面前で張り倒されるんだろうか。
でもユノヒョンはもはや僕なんて眼中にない、そんなつまらなそうな態度で。


「日にちなんて覚えてないわ」

「…っ、」


幸せを願う。なんて綺麗事並べながら


「教えてくれたっていいじゃないですか…!」


本当は、過信してた







お互い想い続けてさえいれば





いつかまた


ジェットコースターみたいな展開と

ドラマチックな感動が僕たちを待っていて






ユノと戻れる日が来るんじゃないかって






「はあ…、、お前のマンション行った後くらいからっ」
 


でも夢物語の裏側は




「……う…嘘でしょ……」



こんなにも脆くて呆気ない


ヒョンは簡単にアッチへ戻った




「何で、ぇ……っ、」



僕たちはあんなに完璧だったのに



「なんでって。俺、朝にスッキリしたって言ったろ。それから寝なくてもなんか調子いいのが続いてて。だから夜はずっとカムバックの事とかコンサートの事とかの構想してる」

「……え?」

「え?」


目の前の怪訝な顔をしたユノヒョンと、きっと同じ顔を僕もしてる。ちぐはぐが一周回って同じ喜劇を興してる。
そこでようやく、


「……本当に、睡眠時間をとってないって話ですか…?」

「……今その話題だろ…?」


自分の早とちりに気付いた。


「ちなみに昨日、……アラとはどこで別れたんです?」

「だからあ、言ったじゃんっ。一緒に店出た後だって。結局後から合流した仲間もけっこういて皆で一斉解散した」

「……。そんな言い方してなかったっすよっ。……全然、してなかった…」

「?そうだっけ?」


僕の脱力感が伝わったのか、攻撃体制を解いてぽわんと隙だらけになった虎が首で傾げて盛大に笑う。


「おいっ。なんで俺たちこんなに噛み合ってないんだよ!?」

「… 。はっ。それはあんたがねぇ…っ」


怒鳴り散らすために息を深く吸い込んで、次にはもう、


「、」


どうしようもなく抱きつきたい衝動を抑えるために、大きな息を吐く。
ユノヒョンをまともに見れなくて、俯いて右手で両目を覆った。


「……気持ちは分かるけど…ちゃんと寝なきゃ、後が辛いですよ…。ご飯は?もう食欲は戻りました?」



この人から離れることない僕の傲慢さを

誰か僕ごと消してくれない?


TOHOSINKIのチャンミンの部分だけ残して



「あー…、まあ。うん、大丈夫……」

「ご飯もなるべく食べて、栄養あるもの摂取して…。ね?」

「、おう……」


音だけの世界で聴くヒョンの声は明らかにまだ食欲がないと拒んでる。


「食べれなくてもいいんで、東京に行ったら何か気持ちだけでも食べたいものありません?」

「うーん、、、ら、ラーメンかな…」

「それは駄目だ。栄養ねえよ」

「ええーっ。チャンミナひどいぞっ」


この甘やかしてくれる感じ


「ぶっ、ふふふふふふっ」



大好きだ



「チャンミナだって好きだろ?」


その声も以前の、柔らかに深く、透き通るように貫いてくる大好きな音程で。毎日会ってるはずのに久しぶりに聞けた気がして、やっぱり僕は顔が上げれないまま。


「じゃあ鍋とかどうです?シメにラーメン入れて食べれるやつとか」

「お、それいいな」


その瞬間をひっそりと噛み締めた。




その後、機内で隣の座席へ座ったユノヒョンは宣言とは裏腹に、離陸する前に爆睡へと落ちていった。
本当に不思議な人。


「あれ、ユノもう寝たのか。早いな」

「ですよねぇ…」


もう片方の隣からかけられるマネヒョンの話を上の空に飛ばしながら、僕は考えてる。


「今日MV撮る曲は年明けの発売予定だから。それであと来年の会報向けにミッショ…  

「なるほど…」






どこまで干渉していいんだろう。


どこまでがメンバーで

どこまでが家族で

どこまでが男同士の境界線なんだろう



もう分からなくなってしまってる。





「……マネヒョン」

「何だ」


例えばこれは?


「……ヒョンが、、東京で鍋食べるって…」

「おっ、食べたいって?ユノが言ったのか?いいな!よし。夏バテしてた分、スタミナある鍋に」

「いやできるだけ栄養摂れるやつにして下さいよ。後シメに麺入れて食べれるもので」

「う~ん、、店探しとかいとなぁ。日本のスタッフに聞いてみようか」

「お願いします。……すいません、僕変ですか?」

「え?」


分からないんだ


「ヒョンの健康を心配するのって変ですか?」

「……?変?何でだ?」

「正直に言って下さい。世間ではこういうの、ちょっとおかしいとか、いきすぎてる感覚なんですか?」

「チャンミン……?」


分からないんだ


「カメラ回ってる時は大丈夫ですかね?ユノヒョンと会話しても。もしかして変ですか?」

「……」

「夢で逢いたいって願うのは弟としての気持ちに許容されますよね?、、あれ……」

「……」
 

正しい答えが分からない


「ステージでいつも格好いいって、ヒョンのこと感じるのは僕だけじゃないですよね?これは?……僕おかしいですか?」

「………お…まぇ……、、」


正解が欲しいのにマネヒョンは1つも教えてくれなかった。まるで答えなんてない答えを聞かれてるように着陸までただ困りきってた。


分からないんだ


「……ユノヒョン、起きて。着きましたよ」

「ん…んん?うぅーーーーん、、」


声を掛けるのは、アリですか?
手に手で触れるは?
目と目を合わすのは?


マニュアルを入手することができれば、僕は確実に暗記する自信があるのに。



正しさの周波数が合わない















______Y.side______






チャンミンの起こしてくれる声がして、投げ出してた手の甲に体温を感じて。大河に流されるような安らぎに導かれながら瞼を開くと、俺が捜してたその通りの瞳が飛び込んできた。


「…」

「着きましたって」


だけどすぐ反らされてしまったから、そこにはもう残像しかない。まるで蜃気楼のように朧気で。心許ない。
俺も逃げるように窓へ目をやって長い滑走路を眺めた。

触れて確かめたい気持ちを隠したのは、その目の持ち主がチャンミンだったから。

きっとあれだ、飛行機に乗る前チャンミンと話した時。何だか懐かしい空気に包まれて、それが俺を夢か現実か錯乱させたんだ。


「……チャンミナ、ありがとう」


振り返って礼を伝えたチャンミンは、コクンと一度だけ頷いてマネヒョンと今日の予定を確認し出した。それに比べて、馬鹿みたいな夢の続きを現実にまで持ち込もうとしてる自分が情けない。


だってあれは夢で、夢の中の出来事で、
在るわけない。

男なのにおかしい。オカシイ。おかしいから。
アルワケナイ。


呪文に呪文を唱え重ねれば現実をきちんと呼び出せるから。
うん、大丈夫。
なのにさっきから続く余韻にまだ酔ってるせいなのか、あんなに避けてたチャンミンと話したくなった。
何かもっと、もっともう少し話したくて。


「はぁ~。久しぶりによく寝たわあ」

「……」

「チャンミナ」

「……。あ、はい?」

「久しぶりに熟睡できた、俺」

「あー、一人言かと思いました……」

「なんかチャンミナの横に座って落ち着いたら、物凄い眠気に襲われた」

「ふーん」

「すごくない?何か。少しも眠いって感じなかったのに」

「はあ」


これっぽっちの興味もなさそうな声音と安っぽい相槌に悲しくなるのは、何の意味もない。まだ半分夢の中。寝ぼけてるだけ。


「チャンミナは?昨日何してた?」

「ヒョン、降りよう」


立ち上げってマネヒョンの後へ続くチャンミンが正しい。俺の胸が痛むのは、俺がただ寝ぼけてるから。







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後悔なんてしない~ユノ編~ chap.2

(注意)BL表現ございます。












好きという感情に

気付いてはなかったけど







ずっと見てたんだよ



チャンミンのこと









雷雨が、オフィスの窓を叩く。
このビルの最上階にある幹部室からでは地上で開く傘など米粒程度にしか分からない。
激しくて荒い激情の涙のような滝水は、どこへ流れついて浄化されるんだろう。


「支店長、書類の最終チェックお願いします」

「お、うん」


適度なクッション性と上質なソフトレザーが自慢のプレジデントチェアを回転させると、天候と同じくらいぷんすか雰囲気のチャンミンが立ってた。

うん、めっちゃ苛立ってる。。汗

試しに顔を傾げて覗き込んでもやはり目は合わせてくれない。


「拗ねるなよー」

「!別に拗ねてませんよ……」

「俺が拗ねたいよ」

「何でですか!?」


なんてやり取りしながら、書類にはきっちり目を通して判を押す。不備があれば、今日わざわざ休日出勤までして契約してきた俺達の苦労が水の泡になる。


「でもチャンミンはなんで拗ねた顔もそんなに可愛いの?」

「ユノさ…!こほんっ!!支店長っ。明日の朝イチで銀行に提出するんですから真面目に確認して下さいよっ」

「もうやったよ。だからちゃんと顔見せて?」

「そうですか。ありがとうございましたっ」


書類を取るだけ取ってさっさと隣のデスクに戻ろうとするチャンミンの腰を掴まえた。


「ちょっと来て」

「…っ」


引き寄せて向かい合わせに俺の上に跨がせると、ぎぃーっと二人分の体重を掛けただけチェアがしなる。このまま背もたれ部分が倒せるやつを発注するべきだったなとスケベ心が湧く俺はかなりオヤジっぽい。
グレーのスラックスに半袖のカッターシャツ、その上には迷惑そうにそっぽを向くのに耳まで赤い愛しい横顔。


「やめて下さい……誰か来たらどうするんですか……」

「またまた~、そういうの燃えるくせにぃ♪」

「もっ、ももも燃えませんよっ!」

「大丈夫だよ。今日は本来夏休みの連休中なんだし。フロアもほとんど出社してないし、他の幹部の奴らなんて海外か韓国にいるよ」


そう言うと、顔を隠しながら俺の首へ腕を回してしがみついてくるチャンミンの適度な体温が心地好い。抱き締めて丸っこい頭を撫でてやりながら、背もたれの反動を使って揺りかごみたいに二人ゆらゆら揺れて遊べば、やっぱりこの椅子最高♪と現金な自分に苦笑せざるを得ない。


「本当…ウザい奴ですいません…っ」

「あはーはーっ!そんなこと1ミリだって思ってないっ。可愛いだけだよ♪」

「……これからも、今日みたいなこと増えるんですかね…」


沈んだ声を晴らしたい。
チャンミンの不安を全て取り除きたい。
チャンミンの涙は、俺が浄化するから。


心配しないで


俺はもう首ったけに惚れてるよ


「あるわけない。あんなの稀だよ、俺もビックリしたわ。笑」


一大プロジェクトの中でも目玉になる土地開発の交渉を進めていた日本企業のCEOに突然呼び出された。予定のない急な申し出に悪い報せかと準備して、補佐役のチャンミンと念のためビジネス会話の通訳社員にも同行してもらって指定されたホテルの少会場に向かうと、そこは厳かで華やかなCEO親族の集まるランチ会だった。


『……お邪魔しま…す…』

『おう来たね、チョン君。君、お昼をまだ食べてないと言ったろう、ここのコースが美味くてね。是非食べて貰おうと思ったんだ。いや~、本当にタイミングが良かった』

『……ああ、なるほど。ありがとうございます…』


ただ勧められたのが、料理だけじゃなかった。


『実はそこにいる私の娘が大層君を気に入ってね。いつもは秘書の手伝いをさせてるんだが、君も何回か会ったことあるだろう?』

『え……』『……チッ』

『あ…でもどうしよ、悩んじゃう♡』

『……チッ』『はい?』


チャンミンを連れてくるべきじゃなかったって、

これだけは後悔した。




「っていうか始めはその流れだったけどな?あの娘さん、チャンミン見た瞬間からお前ばっか見て目が二重ハートくらいになってたからな!?」


見上げたチャンミンはがっくり肩を落として呆れてるけど、本当に気を付けて欲しい。
今のチャンミンは人気も人望も絶大。女にも男にもかなりモテる。とにかくモテる。履いて捨てるほどモテる。社内の視線はいつもチャンミンに集まってる。
本社にいた頃のチャンミンの評判とは雲泥の差だ。


あの頃チャンミンは、
全てを懸けて俺がいる所まできてくれた。



「はあ…、、そんな訳ないじゃないですかぁ~!何言ってるんですかもうっ。ホント節穴なんじゃないですかぁ!?」

「なってたわ!!それでCEOも俺に薦めた手前気まずくなって結局全然話になかった投資物件の契約しただろ!?」

「契約はユノさんの手腕でしょう!?ってか、それでユノさんを懐柔しようとする向こうの魂胆見え見えでしたけど!?」

「何でもする。何でもあげるから」

「ぇ……え?」
 
「ずっと俺だけ見てて…」





これからは、思いっきりこの男を


甘やかしてやりたい





「……」

「こたえてくれないの?」


さらに首を傾げて問い掛けると、チャンミンの眉はありったけに下がってて、結んだ唇は小刻みに震えてる。啜る鼻を手で隠しながら、ようやっと返事を返してくれる。


「すいませ……今でも何か、夢みたいで…っ、、」


この世にこれ以上、自分を捧げたいと思う人間は存在しない。見てるだけで自分の顔から滲む微笑を覚える。


「夢にするなよ。俺はお前のものだって、ちゃんと感じて」


社内でオフィスラブなんて軽蔑してたのに抑えられない。欲が湧く。今なら楊貴妃を愛して国を傾けた玄宗皇帝の気持ちが分かる。
チャンミンになら人生を狂わされても構わない。

首を引き寄せて口づけしながらチャンミンのベルトに手を掛ける。


「ん!?んんぅ…!」


前を緩めてくるりと体勢を反転させながら、俺のチェアに座らせてやる瞬間にスラックスとパンツと靴を一気に脱がせた。もちろん靴下はそのままで♪


「な…っ、っ、何してるんですかっ!」

「え、社内で襲ってもいいって前に…」

「……冗談ですよ、ね…?」

「どう?けっこうこの椅子座り心地いいだろ♪」

「ユノさんっ、話聴いて下さい!?涙」


下半身裸の股関を両手で隠してゆでダコになる補佐役なんて最高♡でしかない。

でもな?俺本当に思ってるんだよ


「気に入ったならやるよ」

「へ?」


何でも捧げる

チャンミンだけに


「この椅子も。支店長のポストも」

「…へ、え???……ぷっ。あはははは!何言ってるんですか本当にっ。笑」

「俺知ってるよ。チャンミンが今までどれだけ頑張ってきたか。お前が支店長になったって誰も文句は言わない」

「…………」

「……前は、ちょっと抜けてるトコもあったけどな?……商談用の資料なくしたり……」 

「、あぁ……。はい……そういう事もありましたね…申し訳なかったです……」


鎌をかけても未だに真実を言わない。


でも知ってるよ

どれだけ卑しめられても
お前が挫けなかったのか


「どう?俺けっこう本気で言ってるんだけど。俺が補佐役に回ってもいいと思ってる」

「いやいや!考えたこともないし考えられませんって!!自分でもよくやってきたなって
、そういう気持ちは正直ありますけど……えっと、それは…支店長の右腕になりたくて。あの、、……っ、、すいません…不純な動機で、、」



言い訳もせず見返りも求めず
一人で踏ん張り続けるチャンミンが


ずっと疑問だった


このコは何が欲しいんだろう?って



「うん、知ってる。だから足開いて…ほら、肘掛けに足引っ掛けな?」

「っ、や!やっぱり社内は……っ。それにここ、支店長の席…っ」

「いいから」


両足を左右の肘掛けに乗せて中心を守ってる両手を外せば笑みが漏れる。
 

「ガチガチに勃ってるな♡やーらしぃー♪いい子発言してたくせに~♪」

「、すいません…っ、だって……。っ、…すいませんっ!」


ごめんねチャンミン

謝るべきは、俺なんだ

チャンミンのあわあわ落ち着かない両手は自らの尻の下で拘束させて、俺は忠誠する心持ちで赤く張った亀頭に唇を寄せた。


俺なんかで良ければ、いくらでも


「あ…!…ん、っ、」

「……チャンミンが俺をどう見てるか知らないけど、俺そんなにいい奴じゃないよ」






許せなかった。



どうしても。






「いい?チャンミンそれでもいいか?幻滅したって言われても、もう離してやれないけど」


竿に這わせる舌からビクビク脈打つ興奮が伝わる。俺が欲しいって、全身で伝えてくれる。

思えばこの情熱に突き動かれてた。
それが恋とは、分からなかっただけで。


「ふぅ…っ、んっ、そんなの、しない…。ぁ、ユノ…がいい……っ」


とてもとても可愛い


俺のチャンミン


「イっちゃいなよ。飲んであげるから…」





ずっと前からね






 

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片割れ chap.12 #5







暗い部屋の中…

満たされぬ想い窓から溢れ 夢が募る


月明かりの下…

がむしゃらに希望のリズムを刻む









______C.side______






部屋に戻るとまた蝉の声とビール漬けになりそうで、キュヒョンとの約束をぶち壊してしまいそうで、帰れない。マンションまで送迎してもらうとそのままの足でドライブに出た。運転だけに集中して、車で2時間、月尾島へ。


「っ、はあ、は、はあ、、」


海岸へ着いた途端、張りつめたものが解けて全力疾走した後みたいな息が上がった。


「はあ、はあ、…来るべきじゃ、なかったかな…っ、」


ハンドルに頭を埋(うず)めて波の音と荒い呼吸だけ感じていると、来るべきだろうとなかろうと僕が居れる場所はここしかない。そんな大雑把過ぎる消去法で導き出した答えが妙にしっくりきて、ようやくそこで落ち着けた。


「、、、ふう~……」


デートらしいデートもしなかった。遊びに行こうって言われても趣味は違うし周りの視線は気になるだろうし、何より恥ずかしかったし。
ぱっと思いつくのはこの月尾島くらい。

何するわけでもない、顔を上げて仁川空港の点灯光と暗い海のシルエットをぼーっと眺める。


「……話したいことって何だろ、……今頃……2人……」


楽しそうに色んな店名を呟きながら、歩幅を合わせて去ってゆくユノヒョンとアラはあまりにも鮮やかで、お似合いだった。




『はあ、絵になるねー。あの2人っ』

『つき合ってるんでしょ?今年の年明けから。噂ありましたもん』

『ええ!?あ、そうなの!?どうりでっ』


2人が見えなくなった後のスタジオ内で、数人の小さな輪が色めき立った。
ユノヒョンは僕からしたら、はっきり言って思わせぶりな人だと思う。無自覚に他人を褒めたり触れたり優しくするから、そりゃされた相手はその気になっちゃうよって何度もはらはらした。
でもそれを凌駕するものがいくつもあったから。そしてそれがユノという人間だから。
だからヒョンに忍び寄る恋の噂なんてあちこちに香り立ってたけどそんなもの強気で蹴散らせてた。

悪気のない賑やかに沸いてる群れが僕に近付いて来て嫌な予感。僕は常識では、ヒョンの弟でしかないから。


『チャンミン本当?あの2人付き合ってるの?』


好奇心剥き出しの、肯定のみを期待するあなた方に是非教えてあげたい


『違いますよ』



ユノは僕と付き合ってたんだから

キスだってセックスだっていっぱいしてた



いっぱいしてたんだ



『……でもユノヒョンから聞いてないだけでそうなのかも。今年の年始は僕、映画の撮影で日本にいたし。本当に僕は分からないんですよ』


でもそんな心の叫びは自分でも虚しいことだって分かってるから。自分を自分の鼻で笑う。
性別を切り拓いて確かめ合った僕たちの行為は別に、愛の大きさや真理を見極める物差しではない。


『ひゃー、やっぱり!絶対そうだよっ』

『美男美女カップルだわ~』


そうなるかもしれない。


今目の前に広がる夜の海岸のように暗い絶望が押し寄せる。闇の奥までよく見える。
仮にも恋人だった僕の前で、女性らしいって感嘆してアラを賞賛するユノヒョンに叩きのめされた。


「あんな細い腰には、さすがに僕なれな…」


そこまで言いかけて、





「違う違う!っ、そうじゃなくて!…いいじゃんっ、アラすごく良い子だ。美人だし。いいよ、うん。ユノヒョン付き合ったら絶対幸せだって」

   




またユノヒョンを諦められない自分に







気付く





「あ~もしかしたら電撃結婚とかあるかも?ヒョン27で結婚したいって昔言ってたし。すごい!そしたらユノヒョンの願望通りになるじゃんっ!」


車内にまで人目はさすがに入ってこないから、声高らかに一人芝居を演じる。思い込む。
思ってない事でも声に出して言い続ければいつか心の底から思えるようになるかもしれない。


「いやあぁ~♪素晴らしいなあっ!」


手を叩いて首を横に振って、参りましたと言わんばかりに感嘆する。


「羨ましいっ!本っ当に羨ましい!僕も美人で可愛い奥さんが欲しいっ」


男だから当然だと思う。僕だって今も変わらず女の子に興味をそそられる。
タイプの子を見つけては眺めて、セクシーな体つきには思わず目で追って、妄想するのが楽しくて。


「朝ごはんとか準備してくれて瞼にキスされながら起こされたいっ」


でも、

それだけ。


そんな程度で僕の女の子に対する欲求は完結するようになった。


「ホントにあの2人くっついたら……いいのに……」




ユノに好きだと言われて



ユノを好きだったんだと気付いて





僕の中の、

本当の自分に目覚めた





本当のカタチを知った





でもそれは封印すべきことだから。
普通の弟になりたい。普通のメンバーになりたい。そうすれば今日みたいにグループの出来だけを単純に笑って喜べる。


「……幸せになるよ……ヒョンは……」


アラにしても他の誰かにしても、ユノヒョンを幸せにするのは絶対的に女の子で、僕じゃない。


「良かった良かった……」


拍手する手は重くて叩くのを止めた。張った声はいつの間にか萎(しぼ)んだ。

気の済むまで海を眺めてマンションに戻ると、次はベッドに入って気の済むまで窓から照らす三日月を追った。


「良かった良かった……」



いつまで経てば、気は済むのか。


















______Y.side______






毎日の1日1日を大切に過ごして気持ちは前のめりに威力溢れている。今日も体は恐いくらいよく動く。

なのに心どこか、空っぽに寒い場所がちらつく。

そのせいで見える景色が色褪せる、感動は起こらない。凍えてそこに立ち尽くしてる。冷たい風が吹き抜けてる。まだ涼しくて過ごしやすい9月のはずなのに、

胸の中に、11月の景色で止まったままの自分がいる。


「オッパ食べないの?ユノオッパ?」

「お、うん。アラ食べなよ、好きなだけ」


差し出されてた大皿をアラへ戻して烏龍茶を啜った。寒い箇所が温まるような気がしてホットを注文したけど、効果はなさそう。


「こんなに1人じゃ食べきれないよ~。オッパ少しは食べてぇ~」

「いや、俺はもうお腹いっぱいかも」

「えーっ、でもオッパ全然食べてないよ?」


潜水艦を模した店内の小さな丸型窓から、月が見えて惹かれる。壁に寄り掛かって欠けた月のカーブを観察した。
鋭利なナイフみたいに冷たそうな三日月だけど、翳す銀光は柔らかくて綺麗。


「チャンミンオッパと喧嘩でもしてるの?」


チャンミン……


「何で?相変わらずだよ」


心配そうなアラの顔に誓って言える。
チャンミンと喧嘩してるわけじゃない。ただ最近どうしようもなく苦手なだけで、仕事に支障もきたしてない。


「なんだ、良かった。オッパ達の雰囲気があまり良くなかったから、話っててっきりその相談かと思ってた」

「話?」

「私に話あるからって。ユノオッパが言ってたんじゃない」

「……あー、そうだった…。えっと、」


俺そんなこと言ったっけ?
さっさと帰りたくて色々現場で言ったけど忘れてしまった。また小さなミス。でもそれじゃあアラに失礼だから頭をフル回転させてふいに出した台詞が、


「捜してるんだ」


だった。


「ん?何を?」

「あ、と…物っていうか……人かな?」

「んー?誰?」

「……理想の女性。ほら、長く彼女もいないからアラに紹介でもして欲しいなぁ、なんて。あははははっ」

「何言ってるの。ユノオッパならその気になればすぐできるでしょう?」

「難しいよ。忙しくてなかなか会えないだろうし。それに誰でもいいってわけじゃないだろ?」

「じゃあ、ユノオッパのタイプの女の子は?具体的に」

「……そうだなぁ……」





誰を捜してるんだろう





「こう…皆の前では俺を立ててくれて、でも二人の時にはリードしてくれて。俺が間違ってる時はちゃんと正してくれる感じで、」


どこに居るんだろう 


「でも俺も負けず嫌いだからたまに喧嘩もしちゃうんだけど、拗ねてもお互いステージに立てば自然と仲直りできて、」

「ステージ?歌手のコがいいの?」

「あ、いや違う、例えばっ。そういう…二人の共有できる場所を持ちたいなぁって。な?ははは!」

「ああ…?うん?」


気が立ったり落ち込んだりした時には、なんとなく傍に居て。
さりげない優しさをそっと開いてくれる。


「俺の好きな苺で文字を作ってくれたりするのもすごく嬉しいし、突飛なこと思い付いたりするのも面白くて飽きないし、」


隣に居るというただそれだけで、自信と安心に満たされて。
互いの足りない形をぴたりと埋め合える。


「居るだけでこっちも明るくなるような、」


心が綺麗で美しい


「無邪気で、目の綺麗な人……」











虹のような人










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片割れ chap.12 #4









______C.side______





「ぇ……」

「戦略としてな。来年はユノとチャンミンにはそれぞれ違うフィールドでTOHOSINKIをアピールしていって欲しい」

「、、なるほど…」


当然と言えば当然の。


「まあ、あれだよ。お前達今まで24時間ずっと一緒にいたろ?これからは個々の力を発揮すべき時期にきてるんだ。パフォーマンスはもちろん二人揃わないとできないが、一人ずつ別々に活動すればその分大衆との接点は2倍になる」

「ですよね……」


反論するべき点が見当たらない。
マネヒョンの言う内容をすでに承諾済みなんだろう、隣のユノヒョンは顔も上げずに書類チェックをしている。
僕はただヒョンの横顔を盗み見るだけ。


「……」


ユノヒョンは僕の視線に気付かない。
ユノヒョンがまた、遠くなる。
ユノヒョンを振り向かせるのは僕じゃなくマネヒョンの呼びかけだった。


「あとユノ。ミュージカル決まった」

「あ、本当?」

「ソウルコンサート後のオフ削ってそこに入れるから、2日間。公演場所は日本だが韓国語でやるし、韓国を代表する有名なミュージカルだから遣り甲斐あるぞ」

「へえ♪できたらもっとやりたいけどなっ」

「年明けにも上演日入る予定だ。で、…やはり稽古はコンサートリハでほぼ参加できない」

「うん。そこは何とかする」

「ソウルコンの翌日に日本入りして2日間でミュージカル4公演、一旦戻ってチャンミンと合流してからすぐシンガポール。分かったな?」

「了解」

「信じてるぞ、ユノ」

「オッケー、任せて」


マネヒョンとユノヒョンの会話がまるで、僕なんか居ないようにするする進んでキャッチボールを繰り返してて、


「……」


僕ここに居る意味あるのかなぁ、とか。
考えてしまう。


(…っ、いやいやいやっ。意味あるだろ、僕だってTOHOSINKIなんだから)


「ヒョン、頑張ろう」


もっと肩の力を抜いたらと言っても抜かない人だから忠告は諦める。諦めるというと言葉は悪いけど、それはユノヒョンというメンバーを信じてるからで。
ありきたりなことしか言えない自分が歯痒いけど、差し出した拳にこつんとヒョンの拳が返ってきてホッとした。

この関係は切れないから。

うん。
良いのか悪いのか分からないけれど、どれだけユノヒョンが飛び回っても強靭な紐で僕たちは繋がってるから、これだけは。
グループがある限りメンバーとして頼り合えて、それでいつか訪れるユノヒョンの幸せも祝福する。
心の底からそうは思えなくても、ユノヒョンから見える僕はそうでありたい。


「ユノヒョン、練習はどうするんですか?僕も手伝おうか?」

「いや、お前はいい。自分のこと頑張って」

「……そう」

「うん」


ユノヒョンの頼りになるように。

ユノヒョンの助けになるように。
















______Y.side______






お疲れ様と周りで飛び交っても終わりたくない。あれもこれも次々にアイデアは閃いて、濁流みたい。早く人に伝えたい。今日という日を無駄にしたくない。


「ちょっと待って、やっぱりここの曲順チェンジした方がいいと思う。あと2集のアルバムからもう一曲入れられたらいいなぁと思う」


解散しかけてたライブスタッフ達を引き留めて公演のセットリストの変更を提案すると再度検討する方向で話が纏まる。ついさっき決定した議題だったけど、やっぱり言って良かったと安心した。そして楽しい。
席に戻ると隣のチャンミンが確認してきた。


「もう1曲足します?」

「うん。全部で~…。26曲かな。あ、25曲?」

「海外公演はそうだけど初っぱなのソウル公演だと31曲になりますよ」

「できるだろ?5年ぶりなんだからこれくらいやらなきゃ」

「4年ぶりね」

「そうそう、4年ぶりのツアー」

「韓国での単独ライブがね」


そんなやり取りを二人でしていると、正面に座る舞台監督に「ユノ、1つも合ってない…」と何故か笑われ、向かいのジェウォニヒョンからは「まだ増やすの?往年の曲を各集から入れるにしても、もう二人しかいないんだよ。大丈夫か?」と心配された。


「いけるよ、日本ツアーもできたんだからやらなきゃ。何より待っててくれた人達に感謝の気持ちを返したいし、二人で活動してぐんと実力も伸びたと思う。これをやり遂げた後は勉強にもなるし、またさらにいい形で伸びていくはずだから」

「チャンミンは?どうなの?」


俺からチャンミンの方へ向き直ったジェウォニヒョンの声が急に甘ったるくなったような気がして気に入らない。
前からチャンミン贔屓だったジェウォニヒョン。


(……まさか、)


ジェウォニヒョンがチャンミンの、男……?


「っ、」


ぐあっと。突然頭に血が登って沸騰する。
途端に焼け爛(ただ)れるような胸糞悪さまでも競り上がってきて、そんな自分の体の反応に焦る。
いや違う。兄として、兄として。
兄として弟がふしだらなのは見過ごせないから。こんな身近な仕事仲間でそんな甘える関係でいられたら馴れ合いが生じてしまうから。

チャンミンがジェウォニヒョンに助けを求めたら怒鳴ってしまってたかもしれない。でもチャンミンは俺へ同調した。


「これ以上何を言うことがあるでしょう、僕もユノヒョンと同じ意見です」


気分がいい。とても。
一握りの余裕が苛立たしさを治める。


「でも本当にできますかね?年を考えるとちょっと無謀じゃないですかね?ヒョン」

「は、いやできるって。俺まだ27だしっ」

「僕はもう一曲目で疲れますよ、きっと」

「、ふはは。こいつっ」

「ふふっ。すいません、冗談です♪」


チャンミンやスタッフと話し合って意見が相違するところは納得するまで言い合ったりしたけど、どうしても決まらない時は多数決を取ったりジャンケンで決めたり色んな方法で細かい議論を決めていった。
チャンミンは終始とにかく楽しそうに笑ってて。いたずらっ子にひらひら舞うから皆感化されて。笑い声が湧き上がって空気が開く。
そんな感じ。
舞台監督もそんな弟に発破をかける。


「そう言ってチャンミンはなんだかんだやるんだから大丈夫だろ♪」

「はぁい。ヒョンについていくしかないので仕方なくぅ」


柔らかくしなやかに。
周りを盛り立てる隣の男が脅威的。

チャンミンってこんな弟だった?
攻撃的だと思えば酷く落ち込んだり、自分を扱い切れない人間だったはずなのに。


「だはは!!チャンミンはもうユノなしじゃ生きていけないねっ!」

「ええ、物凄く」



「、」

息がとまる程。
ドキッとして。嬉しくて。
凍った牙城が溶けだす、ような。


「ぁ…と…っ、」


でも聞き慣れないから恥ずかしくて。
咄嗟に『よく言うよ。普段はこんなこと全然言ってくれないんですよ』って言おうとチャンミンを指差して舞台監督に向き直ると、彼は額を抱えて爆笑してた。


「本っ当おもしろいっ!この二人!!」

「…あ、、、」

(、、冗談かよ……)


そこでやっと、際限なく緩んでる自分の顔に気付いて下へ向いて隠した。俯くと気持ちも頬も落ちて正常に戻れる。

何喜んでるんだ、俺……
そもそも『普段は』って何なんだ、男同士なんだから当たり前だろ。

自分の挙動が虚しくて、居たたまれない。
俺の方が公私混同してる。
何を?何の公私混同?しっかり把握できない。でも捕らわれてる。……何に?


「……よし、撮影行くぞ。チャンミナ、支度」

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい」


俺の所に来ないで。
俺に近付かないで。

見たくもないけど俺たちはメンバーでチャンミンは必要だから。仕方ない。
急いでテーブルの上を片付ける後ろ姿をただの無機質な岩に見立てて、その場へ置き去りにした。


「先行ってる」


やることは沢山。考えたいことも沢山。
夜はベッドでコンサートの構想を天井に描きながら朝まで過ごして、昼はきっちりスケジュールをこなして颯爽とする。充足した足並み。
今日もむくんでしまってる顔を解消するため、廊下を歩きながらジャンプしたり体を捻ったり。腕もぐるぐる回せばすぐさっぱりだから。






「オッパ?」


ちょっと気になることといえば、


「ユノオッパ?どうしたの?」





ユノって名前が


他人の名前みたいに聞こえるくらいで





「……ん?」

「?終わったよ?撮影」

「へ……」


あとは少しの、ぼーっとする小さなミスがあるくらいで。
でもそれだって翳(かざ)された照明の眩しさのせいだったりするから、大したことない。


「ユノオッパ、何か疲れてない?顔色悪いよ?」

「…いや、そんなことない。だって俺最近やる気満々だから!あははっ。アラ、心配してくれてありがとう」


免税店の広告モデルにTOHOSINKIと一緒に起用されたアラは最後に会った夏前よりもさらに魅力ある女性になっていて、その成長ぶりにほっこりする。初めて会ったのは彼女が小学6年生の時だから、もう10年くらいの付き合いになる。


「アラは笑った顔が可愛いな」

「えーっ。ふふ、ありがとうオッパ♪でもユノオッパもチャンミンオッパもすごく格好良くなった!」


アラの後ろから「ありがとう」と喜んで含み笑いをしてるチャンミンが許せない。腹立たしい。

……何故?

二人の会話はこれでもかと続く。


「でも僕はそんなに代わり映えしないから…」

「そんな事ないよー、チャンミンオッパ!何て言うか、凄く綺麗になった!その髪型も良い感じよ、格好いいのに可愛らしい!でも髪を上げると男らしくて。雰囲気がスタイリングで全然変わるからドキドキするっ」

「えぇ~、そんなそんなっ。ふふふふふふ、」

「……」


(何だこれ……)


熱気がどすんと足下に落ちて、内臓から肌寒い感じ。
この感情が分からない。
自分のことが分からない。
無作為の言葉を吐き出すと意外にも普通な会話文だから、ほら。
俺はこのままで生きていける。


「アラ、これから予定ある?良かったらご飯食べに行かないか?」

「え?でも今からなんて皆集まれないかもよ?」

「いいよ、アラがいてくれたら。二人で行こう」

「チャンミンオッパも行こうよ♪」
 
「あ、…じゃあ、僕も」


チャンミンなんかいらない。
チャンミンなんか目障りだ。

そんな事思ったことない感情が芽吹くのは、これが本当の自分?俺の本性?
分からない。
分からないけどそう思うんだ、何故か。


「チャンミナ、折角朝までフリーなんだから。デートくらいしてこいよ、彼女と」

「え?チャンミンオッパ彼女いるの!?」

「うん、最近できたんだって。なかなか会えないんなら尚更今夜くらい連絡してみろよ」

「………ですよねっ♪…そう、します……」


何でさ?そんな笑いながら傷付いたって顔するわけ?こっちが泣きたいんだよ。
って、……なんで俺?
よく分からない。
自分が。チャンミンが。


「あー、、アラが綺麗だから浮気心が出たんだろ?気が多いのは駄目だぞ、チャンミナ」

「ちょっと、ユノオッパぁ~!そんなわけないでしょ?あははっ」


悲しそうなチャンミンが、理解できない。


「……はい♪ちょっと僕も一緒に過ごしたいなって…♪」


分からないものは気持ち悪い。
近寄りたくない。
一刻も早く逃げ出したい。


「チャンミナ今日は遠慮してよ。俺もアラに話があるし。アラ、早く着替えて行こう?」


アラを促そうと腰に腕を回せば、その細さに驚いた。


「ぅわ、腰ほそっ」


女性特有の、華奢で壊れそうで、俺が守ってらなきゃって思わせられる、そんな。


「ユノオッパ?」

「……」


そう。

恋ってきっと、そういうもの。


「アラ、すごく女性らしくなったね。本当に綺麗だ」

「わぁ!オッパありがとう。嬉しいっ」


溢れる笑顔が華やかに輝く女の子たち。
もっと見たいと思う。


「何食べたい?どこでも連れてってあげる」

「本当!?嬉しいーっ。じゃあね~…」


甘い密みたいなアラの跳ねる声に誘われて、チャンミンをまた置き去りにできた。


















______Manager.side______






渾身のカムバックMVのネット配信が開始された。再生回数は三日目にして好調だ。労いの電話をスマン会長直々に頂いて、その旨を二人に教えてやろうと控え室に足早で戻ったのに、いたのはスマホを弄ってるチャンミンだけだった。


「あれ?ユノは?」

「もう帰りました。アラとご飯行くって」

「そっか、遅かったかぁ」


長い足を組んで座るチャンミンに近付いたところで、「どう思いますか?」と向けられたスマホの画面にはちょうど今話題にしたかった二人のカムバックMVの動画が映し出されてる。


「うん!凄くいい!!今な、スマン先生からこのMVの評判がすごく良いってわざわざお褒めの連絡を頂いたところだったんだ」

「おおおお~♪」


足を交互にパタパタ動かして嬉しさを現す姿がとても幼く見える。


「チャンミン、頑張ったもんな!」

「はい。死に物狂いでやりました。ヒョンと対で踊るのは並大抵のことじゃなかったんで」


にこにこ、にこにこ。本当に嬉しそうで。
俺まで嬉しくなってくる。


「明日は日本で『I Know』のMV撮影だからな、この調子で頑張ってくれよ♪」

「ネ~♪」


支度を済ませてスタジオを後にする帰り道でもチャンミンはずっとスマホでMVを見続けてた。廊下や出入口で警備スタッフを見つけてはその度、声を掛けてゆくから中々進まない。


「すいません、ちょっといいですか?」

「あーチャンミンさん♪お疲れ様ですっ」

「これ1回観てもらっていいですか?どう思いますか?」

「え。え?」

「今回カムバックした新曲のMVなんですけど。どうですか?」

「はあ…。お、格好いいですね」

「本当ですか!?」

「はい、力強くてすごく格好いいと思います。ダンスが凄いですね」

「うおぉ、、やったあ♪♪♪」


スマホを強引に押し付けてほとんど話したこともない人々から感想を聞き出しては、はしゃぐ。くるくる回って、スマホを掲げて見上げる様子は金メダルの獲得者さながら。


「ぷっ。あはははっ!チャンミン可愛いっ」


可愛いくて可愛いくて。個性を持った金髪のヘアカットもここまでされると坊っちゃん刈りに見えてくる。マンネという概念よりももっと幼い園児のような、気儘で純粋な喜び方が珍しい。慣れてない人間の前ではあまり心を出せないコだから、チャンミンは。


「まるで子どもが喜んでみたいだぞっ。ふはは♪」

「はぁい♪もうユノヒョンとは、これでしか繋がってないから」

「え……?」

「いいMVが撮れて本当に嬉しいんです♪」


にこにこ、ニコニコ。クルクル回りながら。長身のいい歳した美青年が。


馬鹿みたいに、純粋に。


「ヒョンが幸せだったら、それでいい」


自分に言い聞かせるように、ただ笑ってた。













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後悔なんてしない~ユノ編~ chap.1

(注意書)こちらは「後悔なんてしない」というお話のサイドストーリーになっております。宜しかったら、本編をお読みになってからユノ編をお楽しみ下さい♪














これはまだ、

俺がチャンミンに落ちる前の話。












「チョン課長。あんまりシム君、可愛がらない方がいいですよ。実は性格悪いって皆言ってるんですよ?」


チャンミンがSMTカンパニーに転職してきて1年経った頃。飲み会で初のチャンミンの昇進を祝って、俺から公開ベロチュウを授与(処刑…?)した(もちろん大盛り上がりだったらしい。酔ってあんまり覚えてないけど)後からだと思う、そんな噂が聞こえ出したのは。

始めに言ってきたのは経理部でも一段と頼りになる存在のハウン。茶髪のロングヘアをさらりと撫でて俺を覗きこんでくる大きな瞳と、細身の彼女によく似合うグレーのスーツが今日も印象的。


「へ?シム……あ、チャンミンのことか?って、えええ??」

「本当ですって!イケメンで三課にも昇進してチョン課長にも気に入られてるから天狗になってるって話ですよ。どうやら影で社員を小馬鹿にしては笑ってるみたいなんです」


信じられなくて。
だって俺がいつも見てるチャンミンはひたむきに勤勉に仕事と向き合ってとにかく真面目でその姿勢がいじらしいほど可愛くて。週末の暇な部下達を集めて楽しむバーベキューや映画観賞にも必ず参加してくれる。いつも集合時間より早く来て、皆の買い出しや下準備やタイムキーパーをしてくれる。何事にも手を抜けない不器用さも心をくすぐられる。
構ってやりたい、そんな風に思わせる可愛らしい男だ。


「ハウン、それ嘘だよ。あれじゃないか?少し前に結婚まで考えてた彼女と別れたって言ってたから、落ち込んだ姿が何か誤解されたんだろ」


俺の前では全くそんな姿見せなかったチャンミンだけど、ただ「こんな事になるとは思いませんでした…」って寂しそうに笑ってた。


「そんなの知らないですけど。チョン課長、本当に気を付けて下さいよ~?四課の課長席蹴って三課に上がったコですよ。もしかして一課長の席狙ってチョン課長に近付いてるんじゃないですか?」

「あはーはーっ!それはそれで燃えるなぁ♪いいじゃん。俺そういうハングリー精神のある奴、好きだよ。大歓迎♪」


課長職に上がれば給料も部下も格段に増えるのに、昇進時チャンミンはそれをしなかった。代わりに部の異動、四課から三課へ。それだけを申し入れてきた。
イレギュラーな要請だったけど別段珍しいことじゃない。だから俺は許可した。それ相応の働きをしてるとも判断したから。
もしかしたらチャンミンは、営業本部一課課長というポストを本気で目指してるのかもしれない。でも俺を抜こうとしてる社員はいくらでもいる。チャンミンに限ったことじゃない。


「もうっ、課長いい人過ぎるからっ。チョン課長に敵う人なんていないのに、シム君みたいにあざとくのしあがろうとする身の程知らずも実際いるんですから。私すごく心配してるんですよ?」

「心配してくれてありがとう。俺もチャンミンのことよく見とくから、大丈夫だよ。な?」


サラサラの小さな頭を撫でるとハウンは綻ぶように笑顔を見せてくれてその場は落ち着いた。

まあその時はあまり気にしてなかった。一時の流行り病のようなもので、同じ時を共に過ごせば嫌でも本来の人間性がお互い分かってくるから。
何より俺は始めからチャンミンが可愛くて仕方なかったし、事実いい奴だし仕事もできる。それは周りもすぐに認めざるを得なくなる。

そう思ってた。










「チョン課長、すまん…!あの、俺、シムの商談にこれから急遽後入りすることにしたから、申し訳ないけど社内にいる残りの三課の奴らを任せてもいいか?」


ある日、三課長のドンへとチャンミンがフロアのど真ん中にある俺のデスクの前で頭を下げてきた。見通しの良い俺の席はざっと沈黙の注目が集まる。


「お、良い勝負案件か?デカイやつか?いいよ、行ってこいよ♪チャンミン、ファイティン!」


意気揚々と送り出してやろうと思ったのに、二人は浮かない表情で頭を上げた。チャンミンなんてこの世の終わりみたいな顔で目線をさまよわせてる。
ドンへは罰が悪そうに話し出した。


「いや違うんだよ……。あんまり条件のいい案件じゃないしシム一人で行かせたいんだけど、提案資料をシムが紛失してさ。でも客を待たせる訳にはいかないし担当はシムだから。先にこいつだけ待ち合わせ場所に行かせて、俺が作り直して後から持って行ってやろうと思って」

「はあ?バックアップは?PC内に記録は?チャンミン」

「す、すいません…っ。何も……見当たらなくて……」

「……」

「本当に…すいません……」


唖然。
コピーした紙の束もパソコン内のメモリーも何もかも無くした人間なんて滅多にいない。
顧客の個人情報や会社の企業情報が流出する可能性だってある。でも今はそれを咎める時間はない。目前に迫る商談のことだけ正す。


「何やってんだお前、じゃあお前はこれから何しに行くの?不動産を売りに行くんだろ?お客様の貴重な時間をもらって大きな取引をするんだよな?ドンへ課長もフォローする前に部下の管理をしっかりしてくれよ。信用問題に関わるぞ」


青ざめて、でも下唇を思いっきり噛んで肩を震わせるチャンミン。静かな憤りが、ウェーブした前髪の隙間から垣間見える。


「すいません…!ドンへ課長には最後まで確認作業付き合って頂いてました。これは本当に僕の責任です…っ。申し訳ありませんでした!」


何かと闘うように、ひとつひとつ綺麗な顔のパーツを丁寧に全て歪ませて歯を食いしばって。悔しくてしょうがないって気持ちが溢れ出てて。


「……頼むぞ、チャンミン。俺はお前のこと期待してる。信じてるから」


心からそう思えた。
チャンミンは同じミスをするような奴じゃない。


「はい!」

「今日の商談、絶対契約取って帰ってこいよ。取れるまで帰って来るな」

「分かりましたっ。ユ…ユノヒョン!行って参ります!」

「はぁい、行ってらっしゃーい!」


背中をばしっと叩くと、ぐっと拳を作って勇みながら外出していくチャンミンを見送りながら、こういう失敗をバネに変えて頑張れよと心の中でエールを送った。


「ドンへ、チャンミンどうした?鞄まるごと無くしたのか?」

「いやいや、朝まではあったんだよ、全部。確認してた。なのに行く直前になって、いきなり資料関係のもの無くなったって言い出すからさ、俺も訳が分からなくて」

「ふーん……了解。ドンへ早く資料作り直して。俺はセキュリティ課に連絡してみる」

「すまんな、ユノ」

「いいよ。それよりチャンミンのことよく見といてやってくれる?仕事云々より社内の人間とうまくいってないのかもしれないから。なんか分かったら俺に報告して」

「了解」


それから闘い続けるチャンミンを、度々見かけるようになった。












お久しぶりです。久しぶり過ぎてごめんなさいっ。暫く「片割れ」と二足のワラジで進めていきます!
宜しかったらまた是非遊びに来て下さいっf(^_^)

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