片割れ chap.12 #10









______Y.side______






呪文をかけたんだ、自分に








気が狂わないように


夢を追いかけ続けられるように







強く


















二度と解けないように




















「……。チャンミナ?」


自室を出てリビングにざっと目を走らせてもチャンミンはいない。人の気配はあるような、ないような。よく分からない。潜んでる。しんとしてる。窓の外を眺めると、今日の日本は平和な青空が広がっている。


「おい、どこだ?」


チャンミンの寝室を覗く前に誰もいない空間に向かって問い掛けると、キッチンから望み通りの声と姿が返ってきた。


「はい、ヒョン……」

「お。ちょっとおいで」


チャンミンはグレーのパーカーとスウェットの格好で、水を注いだグラスを持ったまま言い付け通りにやってくる。短い金色の髪の毛にぼわっと、寝癖をとばした幼い印象の目元に日に日に濃くなるくまが可哀想。人からしたらメイクスタッフでもない限り僅かな影だと感じるかもしれないけど、俺だからよく見える。


「また寝れなかったのか?」

「…さあ……自分でも。。寝てるのか寝てないのか分からなくて……」


その顔に手を近付けても何の抵抗もしなくて、スキンシップが苦手なチャンミンにしては珍しい。くまの刻まれた涙袋を人差し指でそっと押すと、柔らかなチャンミンの皮膚は負荷なく変形した。でも斜め下を見つめる眼球は反応しない。彩りのない光だけを吸収して単純に反射する、大きなガラス玉みたい。


「おい……しっかりしろよ。…どうした?」


俺の声だけがやけに室内で響く。
何か悩みがあるの?だったら相談してほしい。
俺はチャンミンが心配で呼びかけたのに、チャンミンは憐れむように黒目を持ち上げて俺に焦点を合わせた。
違うよ、ソウじゃないだろ。チャンミンが何を考えてるか見ただけで分かるから、先回りして答える。


「俺は大丈夫だよ。言ったろ?寝れないって言っても、これからの活動にワクワクして寝れないだけだし。微熱が続いてたり食欲ないのもそれと同じ原因なんだと思う。なんか、じっとしてられなくて。遠足の前の日の子供みたいだな、俺。笑」


ずっと昔から一緒に居たんだ。
チャンミンの気持ちは、見ただけで……


「ソウじゃなくて…ほんとに僕たち…何もなかったですっけ?」

「は?何が?」

「…………いいえ、…キモチワルイコトイッテスイマセン……ヒョンが楽しそうで、良かった……」

「……」


薄く微笑むチャンミンの気持ちが、分かるようで分からない。目の前に居るのに分からない。危険な。違和感。胸がざわつく。ソウじゃないと。音のない静寂が警鐘を鳴らす。


「なぁ……俺たち……」


でも、

























呪文をかけたんだ、自分に。











「……。そうだっ、午前中は久しぶりに俺たち二人だけでカムバックの相談しよう!マネヒョンも打ち合わせでいないし」


何もなかった。俺たちは今まで通りだ。


「僕は、、帰国する前にもう一回ジム行ってきます…」

「今日も?今日はもう昼過ぎに出発するんだから。帰ったらすぐ忙しくなってゆっくり話もできなくなるぞ」

「でも…」

「ワールドツアーのリハも始まるだろ?舞台監督から色々参考になりそうなライブDVD借りてるから一緒に観よう?良いところは取り入れたいし、チャンミナの意見も聞きたいし。な?」

「……はい」


いつも眠たいって、十分な睡眠が取れないと体調に不安を訴えるチャンミンだから。今はかなりテンションが下がってるはず。俺が上げてやらなきゃ。だって俺は事実絶好調だし。弟を純粋に守りたい。


「大丈夫だよ。大丈夫、チャンミナ。うまくいく。お前はすごく頑張ってるから。ヒョンが保証する。何かあっても必ず良くなる」


そう言いながらDVDプレイヤーを起動させてテレビをつけた。日本の爽やかで賑やかな朝の情報番組が始まってリビングは急に活気を取り戻した。振り返って何気なくチャンミンに聞く。


「悩みがあるなら言ってみな?」


すると大きな瞳はみるみる涙に濡れてきらり、それはとても綺麗な光彩を放ったけど。チャンミンがまるで俺をあやすように見当違いなことをまた言い出すから、そこで輝きは霞んでまた消えた。


「ヒョンも苦しまないで良かった……」


良かったって何だろう。
俺は何も苦しんでない。底なしのやる気に燃え上がっているっていうのに。よく分からない。
最近ずっとこうだ。チャンミンのことが分からなくなって、だから苦手意識が芽生えてしまってたんだ。
もっと分かり合わないと、俺たち。


「そんな風には感じてないけど、俺は…今、正直怖い。今回の活動は去年の再始動のブランドイメージをもう一度直球でアピールしていくしかないし、もしそれが抵評価されたらって考えると、、怖い…。でもその時は真摯に受け止めて、さらに練習してまた新しいアプローチの仕方を見つけなきゃって思ってる。俺に他のことを考えてる暇はない」

「あんたは本当…そればっかりだ。…でもだから。だから僕は……」


チャンミンがついに溢れてしまった涙を笑いながら流すから、急いで駆け寄って掬い取った。とてつもなく胸が締め付けられて。見てられなくて。


「……何?『だから僕は』……?」




今まさに、苦しくて。







「“今のユノヒョン”についていきます」

「…」


そんなこと言われたら、もう苦しいなんて言えない。なんで苦しいのかも、うまく説明できないのに。格好悪い。兄として。


「…おう!信じて。チャンミナと二人で名前だけだけど、それでも一応俺はリーダーだから」


これが正解。迷いを拭い去るように少し強引にチャンミンの手を引いてDVD観賞を勧める。


「TOHOSINKIをより輝かせようっ」

「ですよね」


反動のせいか。


グラスの水がボダッと、溢れた。





























______C.side______







これが













僕の罰か








「チャンミン。ユ…、ユノの様子……」

「……分かってます」

「…っ。あいつ絶対おかしいぞ…っ…危ない、アレは……」


金浦空港から帰る車の中で、マネヒョンは困り果ててた。でも何が困るっていうんだろう。


「記憶喪失、の一種、なのか…?」

「……知りませんよ。でも僕とのことは綺麗さっぱり抜けてるみたいでしたね……」

「とにかく、、ユノにはうまく言っておくから日本の宿舎は別にしよう。お前が辛いだろ!?次に来日するまで時間もあるから用意させておく…!」

「…。いえ、このままで。ユノヒョンがそうしろと言うなら僕はヒョンに従います。変に刺激してユノヒョンの夢の邪魔になることまで思い出すような変化をつけないで下さい。僕も活動に集中します。どうせ彼女もいませんし」


これが最良だ。全ての都合が良い。


「やっぱりお前……。はぁ、っ、、……しかし、、ユノも、いつまで経っても食べないし寝ないし……顔つきはどんどん悪くなってるし……、、でも…っ………お前達を…」

「元サヤに戻ろうなんて思ってません、安心して下さい。マネヒョン、大丈夫です。どんなコンディションでもユノヒョンは魅せてくれます。何があっても必ずステージに真摯に向き合います。それは僕も同じです。このまま突き進みます」


もうちょっと。

もうちょっと頑張れ、僕。


「っ、大丈夫なのか本当に…!?」

「ユノヒョン、疲れてそうだけど楽しそうですよ。ただ連絡を取って欲しい方々がいます。その方達に何気ないサポートをお願いして下さい。いいですか、あくまで然り気無くと念押しして。ユノヒョンは心配されるのを嫌がります。力を抜いてと言っても抜かない人です。いつも全力投球で夢追う姿が格好良くて、だから僕は男だけど恋しました」


矢継ぎ早に言えることを言い切る。



また、





過呼吸になりそう





「チャンミン、すまん…っ!!」

「謝って欲しいんじゃないんです。ユノヒョンが俺を信じてって言ってました。だから僕たち信じましょう、そういう事です」


呼吸が浅い。うまく息できない。ヤバい。
夕焼けの空はこんなにも清々しいのに。闇の気配。ぐんぐんと。視界が狭くなる。
足掻かなければ。今度こそ溺れ死ぬ。
死ぬ訳にはいかない。TOHOSINKIがある。


「、っ、僕もさらに頑張ります…!すいません、家帰る前にジム寄っていきたいです、、。体動かしたい…!」






































そこからどう到着して、しっかりウェアに着替えて運動してたのか。





「……ミン、おい!チャンミン!!」

「………ん…」

「何時間バイク乗るつもりだ?物凄い汗だぞ、せめて水は飲んで。俺が心配だから」


額に冷たくて気持ちいいキラキラしたものが当たってた。ペットボトルだった。透明な。青いキャップの。


「チャンミン、色々大変だったみたいだな?」

「…………シウォニ…ヒョン……」


ミネラルウォーターを差し出して傍らに立っているのはシウォニヒョンだった。笑顔で満ちた穏やかな、ユノヒョンによく似た優しさの灯るその慈愛で。


「でも大丈夫。俺が居るよ」

「シウォ…、っ、、、」




僕はもういっぱいいっぱいで。






一人ではもうとても立てなくて。







もう無理。







もう駄目。誰か居ないと、












「おいで、チャンミン」






誰か居ないと、
 

ユノヒョンと同じ夢をみれない。













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片割れ chap.12 #9









______C.side______






僕は今、





どこに立っているんだろう。










「チャンミン……ごめんなっ…、、」


マネヒョンがさっきから僕のために一頻り謝ってむせび泣いてくれてる。マネヒョンは何も悪くないのに。


「俺が……俺は本当……何も…っ、分かってやれなくて……チャンミンを一人で苦しめたな……、、」

「そんなこと、ないですよ…」

「…っ、お前って奴は本当に…っ、」


ユノを諦められない僕が悪いのに。
僕の想いがこんなにも周りの大切な人達を悩ませ怒らせ泣かせてしまう。きっと僕が未熟だから。


「……マネヒョンはいつも……」


僕たちのことでもう誰も苦しまないで。


人の痛みが分かる、大人に早くなりたい。


「僕たちのことを一番に考えてくれていて…僕たちのこともお互いのためだと思って尽力してくれたんですよね……こんな格好いいマネヒョン、滅多にいません。自慢のマネージャーです」


幻想は所詮幻想で、捨てなければいけない。
ユノとはもう戻れない。認めなければいけない。
果てしない闇の中だとしても。


「俺のことなんかに気を使うな!もっと自分を労って…っ、俺は結局何もしてやれない木偶の坊なんだから怨み言でも悪態でも…何でも吐き出せ!頼むから…!これ以上自分を追い詰めるなっ」


大丈夫。思い出さえあれば立ってられる。
立ってさえいれば夢をみれる。
ユノ“ヒョン”とTOHOSINKIを続けていける。

ただ闇のおかげで、


「木偶の坊なんて…。僕はマネヒョンを頼りにしてます。だから頼んだじゃないですか。僕の言動がおかしい時は今みたいに教えて下さい、助かりました。自分じゃもう分かんないんです、本当に」

「チャンミン…!」










逆さに立ってるのか
真横に立ってるのか
正常に立ってるのか、
どこにどう立ってるのか、分からないけれど。

















「何してんの…?」





「!ユノ…っ、」

「ユノヒョン……」


声のした扉を振り向くとユノヒョンがこちらを覗きこみながら中へ入ってくるところだった。迷いなく僕に近付いてくる。僕は距離感が掴めなくて後退り。それなのに構わず手を取られて動けない。


「チャンミナ、大丈夫か?体調悪いだろ?今日はもう食べに行かずにすぐ宿舎に帰ろう?」

「や、でも、鍋…」

「また明日にでも行けばいいだろ。マネヒョン、今日は帰ろう。支度頼む」


無遠慮に僕の顔へ触れてくる掌を避けようと横に向いても追ってくる。掴まれて引き戻された目の前に心配そうなユノヒョンの鋭い瞳。頬にユノヒョンの体温。手首にユノヒョンの力強さ。睫毛がユノヒョンの指先に当たってしなる。近い。感じる。ユノそのもの。恋しくて。


「っ、マネヒョン!」


恋しくて。


認めなければいけない。
もう終わったことなんだ。


「こっちの、日本の宿舎もユノヒョンと別々にしてもらえませんかっ」

 


血の涙が溢れても闇ならどうせ分からない。




「はあ…?なんで。そんな必要ないだろ」


苦虫を噛み潰したような顔のまま僕を見つめるマネヒョンより先に、ユノヒョンが少し怒って問い返してきた。いや、本気で苛立ったのを抑えて対応した。そんな感じ。そういうエネルギーの流れが僕には見えて、ますます怯みそうになるのを堪える。


「…、、必要あるでしょ。何がどうあれ僕たち付き合ってたんですよ。別れても同じ宿舎にいたら、お互いの情に流されてすぐヤっちゃいますって。そんな微妙な関係、ユノヒョンも嫌でしょう?」

「…………、は、あ…っ?」


ユノヒョンにそうならない自信があると言われても、僕は自信ない。そういう目で見ないと誓われても、僕は誓えない。ユノヒョンが正しい幸せへと向かう時、僕は絶対誘惑する。行かないでと縋りついてしまう。
身体だけでも繋ぎ直せないか。もう一度、もう一度。その内また求める。一瞬だけ。この時間だけ。一日だけ。時間までも。心までも。幸福までも。不甲斐ない僕はまた繋ぎ止めようとするから。全部水の泡になる。


「な…何言ってんの、お前……俺たち男同士だぞ…っ」

「、、、え…?」







初めは聞き間違えかなって、






思ったほど。




次に芝居かとも思った。


まともに見捉えたユノヒョンは目線を逸らして狼狽えながら、でもはっきり言った。捕らわれてた手も頬も顎もすでに自由になってる。


「ヤるなんてできるわけないだろ。それにチャンドリは大事なメンバーで弟なんだから、今までもこれからもそんな事絶対俺はしない」

「……は、」



思い出だけそっと。





二人の奥深い所で大事に





大事に持って……あれば立て…








「そもそも好きになったことも付き合ったこともないだろ?俺たちソッチじゃないんだから。ずっと本当の兄弟みたいに暮らしてきたのに、今さら心配する意味が分からない」

「…………」


闇は闇でも











白い闇だった





真っ白い、白紙の闇





二人の思い出はどこ?見えない。
ユノがいなければ僕もいない。
誰もいない空っぽの思い出。




「ユ……、…ユノ…?俺は、、そういう仕返しみたいなこと言う奴は好きじゃない…っ。お前らしくない、どうした…?なあ?」

「マネヒョンは黙ってて。チャンミナはモテるし年頃だし、韓国ではプライベートな時間を楽しみたいのは分かるけど。でも日本にいる時は目標に向かって無駄は省けよ。俺と別居するのは賛成できない。ヒョンは許可できない」



どうしよう














立てない






















______Y.side______






突然チャンミンが俺の見た夢そのままを言うから心臓が飛び出るくらいビックリした。俺がチャンミンを好きになってチャンミンがそれを許して……あんなとんでもない内容を俺はもしかしたら寝ぼけてる間にでも誰かに、もしくはチャンミン本人に喋ってしまったんだろうか。だから不安がってるのかもしれない。


ナンデモシテアゲタイ


この妙な感情は違う。現実じゃない。
俺がしっかりしなくちゃいけない。
日本でも別々に暮らすのは逆にチャンミンの不安を煽るだけだ。今のギクシャクした距離も解消されない。


「チャンミナ、宿舎に帰ろう」


そう思い直して、ぼおーっと焦点の合ってないチャンミンの肩を揺すりながらなるべく笑顔で話し掛けた。マネヒョンには聞こえないように。人前で堂々とは、やっぱり男同士だし照れくさい。


「お前がイヤならさ、やっぱりキスも止めよう?な?」

「……キ…?」

「『二人で前を向いて歩いていける方法』。済洲島で昔、二人で決めたろ?」


そういえば何年もしてない決意表明のような男同士のキス。何でだっけ。確か。。
もう決心はできたから必要ないってチャンミンに言われてからか。懐かしい。
そして俺と同じこと呟くチャンミンにホッとした。


「…ぁ……懐かしぃ………ところで最後のキスは…いつでしたっけ……」

「えーと、、、うーん、、忘れたっ!あははっ」

「覚えてない…です……?」

「あ!二人で初めてステージに立てた時?か?」

「……」

「もうわざわざあんな事しなくても、俺たちはしっかりした信頼関係があるんだから。これからもヒョンを信じて、ついてきて、チャンミナ」

「はい……」

「マネヒョンより俺に頼れ。絶対守るから」

「はい……」

「これからも一緒に住むよな?」

「はい……」

「良かった」

「はい……」


良かった。
チャンミンの素直さに自然と笑みが漏れた。






良かった。



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片割れ chap.12 #8









______Manager.side______









飛行機の中で問われた時から


まさかと思いながらも


限りなく確信に近い衝撃が走ってた



だから











決定的な涙だった












「チャンミンさん、スゴい!よくあそこで涙が出ましたね!」

「凄く良い演技だった。悲しいだけじゃない、鬼気迫る感じもあって。リップの撮影はこの一発撮りでオッケーじゃない?」


満場一致で撮影の終わりを決める称賛の明るい拍手の中。
チャンミンはまだ、笑ってた。


「なんか、自然に出てきたんです。歌詞に感情が入り過ぎて……結果早く終わりになったんで、ラッキーですねぇ~ぃ♪」


ぶはははは、といかにも男性的な発声で照れを隠すチャンミンに、もう一ミリの気配りも使わせたくないと思った。
聞かなければならないことがあったから。
聞いてやらなくちゃいけない。俺はチャンミンに、全部背負い込ませてしまってる。
きっと。


「チャンミン……」

「皆に褒められた。良かったです」


ボソッと独りごちて早々とスタジオを後にする背中を追いかける。横目で確認したユノはどこかぎこちなく捕まったスタッフと談笑してるけど、目は完全にチャンミンを追ってた。

ユノは勘づいただろうか。
……勘づいたよな。さすがに。

でもこれからのし掛かってくる事実を聞いたところで何もできない。できたら気付かない振りを続けたい。
そんな往生際の悪い俺がだめ押しの意地悪をチャンミンにぶつけた。


「チャンミン…お前涙出た時、咄嗟に右向いて隠したろ。右目の目頭から流れたのに、あれじゃ見えにくいだろ」

「、、つい…」


つい。咄嗟に。思わず。

不測の涙。
本物の雫。


「……せっかく迫真の演技だったのに。タイミングもベストだったろ?『どんなにただ君のことを愛したくても~』って歌詞の流れが変わる一番いいところだ。演出的にあそこは左を向いて涙を強調しないと」

「別にいいじゃないですか。オッケー出たし。拭いたかったのに我慢したくらいですよ」




本当の、心。




「…っ、チャンミン!」

「何ですか。。ちょっと、マネヒョン正直うるさいです。ディレクターさんからも涙を流すリクエストなんて元々なかったじゃないですか…」


今までごめんな。

俺が誤魔化したから。
そんな事あり得ないって高を括って。チャンミンは被害者なんだ助けなきゃ。ユノを正常に戻さなきゃってグループの保身のための偽善な正義感を振りかざして。チャンミンに事務所のことも世間の目もユノの気持ちも全部背負わせた。

心がすり減って爆発したんだろ?

歩幅を広げてさらに足取りを早めようとするチャンミンの腕を掴むのに一苦労した。そのまま予備に取ってもらっておいた第2控え室へ押し込んだ。何本か飲料水が机に用意されただけの、椅子もない小さなスペース。
本控え室はユノが帰ってくるかもしれない、今はチャンミンと2人きりになりたかった。

不貞腐れて俯く姿を改めて観察する。

あの可愛らしい気弱な少年が。
今や長くてすらりとした足、節度良い筋肉がついた腕、うちの事務所好みの理想的な顔。アイドルでも歌手でもモデルでも俳優でも、どのように出しても申し分ない。気が利いて思いやりがあって、でも自我は葛藤しながらも強く保って流されない。いつも正直に。異性への興味も隠さない。

そんな男らしい青年が同情なんかでユノに股を開く訳がない。そうだろ?



チャンミンはチャンミンのままで


「何ですか、本当に」

「演技で流した涙を拭う奴がいるか…!!お前今言ってること、…、おかしいぞ…っ、」

「ぇ、あ…嘘。すいません……そっか、、」


とても綺麗な気持ちで


「チャンミン……、話をしよう。聞かなきゃいけない事が、あったよな……?ごめんな、はっきり聞いてやらなくて」

「え、何です?」


そうだったんだな


「お前、彼女いるんだよな?」

「…ぁ………まあ…?、、」

「まあって何だ。イエスかノーしかないだろ。で、どんな子だ?…いや、そんなことは今いい」

「……」



いっぱい傷付けたよな?

チャンミンの心は、今日破壊した部屋のセットよりも壊れてる。


俺は決めつけてたから。
ユノが狂ってチャンミンが振り回されてるって。チャンミンが何も答えないことをいい事に。

見ない振りをしてたから。








「チャンミン、ユノのことが好きなのか?」








はっきり聞きもしなかった。
 





チャンミンの気持ちなんて






「………も、もぅ、嘘は懲り懲りなんで……終わったことですし。、正直言っちゃってもぃぃですか……っ」

「いいよ。何も変わらないし変えてやれないから。個人的に聞いてるだけだ」


蚊の鳴くような呟きの中に怒気が混じってる。
叫べない怒り。思慮深くて思考回路の複雑なお前はどれだけ抱えてた?こんな一言すらここまでこないと言えないなんて。

腹立つよな?

悲しいよな?

憎いよな?



本気だったなら












「はい、とても……」







何だろ、ごめんな。

チャンミンはただほっそり愛しさを抱くように綻んだだけなのに、







俺の方が「ごめんな」って、泣いてしまった。







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片割れ chap.12 #7







フィッティングで決まった深いワインレッドのスーツが自分でも似合うと思った。飛行機の中で数時間でもしっかり眠れたおかげで、今日は始めからシャープな顎のラインが現れてる。


「ユノさん、入りまーす!」

「よろしくお願いします」


スタジオにいるスタッフ全員と挨拶した後、本題のMV撮影のためディレクターから全体の大まかな流れを聞く。


「最初はこのセットの真ん中の椅子に二人座ってもらって部屋の中のシーン。次は合成用、最後は一人ずつリップ、の順で撮影していきますので」

「はい」


説明を聞きながら、目は無意識に出入口へ。
チャンミンを待ってる。
東京に着いてからマネヒョンにオーダーするチャンミンの内容が引っ掛かったから。





『無理かもしれないけど僕の言動がおかしい時はできる限り教えて下さい』

『チャンミン…っ、』


寄り掛かる背中を無言で力強くさするマネヒョンの腕まで震えていて、2人の歩く後ろ姿が危ういほど奇妙だったから。


『……チャンミナ?………具合でも悪くなったのか……?』


俺の声はちゃんと届いたんだろうか。
チャンミンが立ち止まってふいに俺の方へ振り向いたかと思うと、額に差し伸びてきた指先。露骨に歪む眉。


『熱も、まだ続いてるんですか?』


いつも聡明で真っ直ぐな瞳が揺れてる。


『……まあ。…かな……?』


俺はお前のこと聞いてるのに、お前は俺のことを聞いてくる。
なあ、ちゃんと聞こえてる?
まるで悪い時の俺みたい。
でもそんな調子外れの気遣いなのに胸がざわつく。無性にくすぐったい。ずっと労って欲しい、なんて。…思っちゃったりして。

柔く伸びるチャンミンの腕を手で抑え外したマネヒョンがもどかしいとさえ感じた。


『チャンミン』

『ぁ……。くそっ、…駄目だ……っ』


駄目なことなんて1つもないのにチャンミンはそう言った。すがるようにマネヒョンに謝る。


『すいません、勢いづいてしまって……』

『、つい?』

『…ふっ。……血迷った犬のように、、、』

『……そう、か。……そうか……』


俺に解けない暗号で会話する2人。寂しそうに自嘲するチャンミンも、その撫で肩をさらに掻き抱くマネヒョンも、俺から遠退くように早足で歩き出す。前へ。俺を置いて。体はすでに俺の数歩前へ。

何かに落ち込むチャンミンの役に立たない俺は、金魚のフンみたいにただ2人に付いて進むしかなかった。
チャンミンを支えるマネヒョンと、マネヒョンに頼りきってるチャンミン。


(俺がTOHOSINKIなのに……)


チャンミンの助けにならない。
それが酷く落ち着かない。





「チャンミンさん、入りまーす!」

「宜しくお願いしますっ、宜しくお願いしますっ♪」


右手を戸口に掛けて軽快に現れたチャンミンは、さっきとはうって変わって溌剌としてた。
俺の着てるものと同じ色、でも少し違うデザインのスーツに袖を通した佇まいで、大人びていて格好いい。


「チャンミナ。こっち」

「はいはい」

「先に部屋のシーン撮るって」

「なるほど」


至って普通のチャンミン。
じゃあさっきのチャンミンは?なんで、どうして。どうにも理解できない。でも元気になったらそれでいいのか。
身体の異変とは反比例に冴えた脳は必然的にディレクターの言葉へ集中が戻ってゆく。


「セットは二人にハケてもらった後、シャンデリアを落としたり棚や花瓶や窓もだんだん壊していって。最終的に部屋の中が滅茶苦茶に荒廃した画(え)を撮ります。この歌の主人公の心情を表現するような感じで」 


洗練された品のある、でも居心地の良さそうな洋室のセットを壊したくないと感じて言葉が漏れる。


「あー…、、ちょっと残念、かな。勿体ないね。こんなに綺麗な部屋なのに……」

「はい、歌詞の内容が叶わない恋の叫びなので。片想いじゃなく、お互い好意があるようなのにその二人では幸せにならない。溺れて愛し合いたいのに、本当は現実を分かってる。そんなどうにもならない気持ちが葛藤する激しさを、家具を破壊することで表現しようかなと」

「切ない歌ですね」

「そう。この部屋のセットが、心の中そのものなんですよ」

「…本当に切ないなぁ。なあ?チャンミナ?」


俺はやっぱりチャンミンに受け皿を求めてまたチャンミンの方を見た。歌詞と音符の並んだプリントを眺める痛そうにしかめた顔が、「切ないですね……」と鸚鵡返しを寄越した。


「…」


俺はそのチャンミンの姿こそ、『切ない』。
そんな気がして。
何とかしてやりたい。
そう思うのに今まで距離をとってたせいか、うまい言葉が思い浮かばない。


「っ、…なあ?本当に切ないよなあ?」

「…ねー、切ないですよね」

「いや~本っ当にこれ切ないわあ!」 

「ですよねえ。切ないですよね~」

「切ないなあ、うん。切ない!」

「確かに切ないですよねえっ!」


『セツナイ』を繰り返すことしかできなくて。声のボリュームと周りの笑い声しか上げられなくて。
でも何とかしてやりたい。目障りだと思ってたチャンミンにいざ元気がなくなると、今度は気になって仕方ない。
頼られたい、チャンミンに。
俺が。


「チャンミナ、やっぱり今日ラーメン食べに行こうか?」



ナンデモシテアゲタイ



「何でですかー!?せっかく鍋のお店調べてもらってるのにっ」

「……あ、そうなの?」

「そうっすよ。早く今日の撮影終わらせて食べに行きましょう♪」

「あ、うん」

「ああ~早く終わりたい!」


でもチャンミンのテンションはあっという間に戻ってきた。ちょっと高すぎてこっちがたじろぐくらい。待ち時間も笑い過ぎて椅子から転げ落ちたり、少し諭せば愛嬌を見せてきたり。


「……はは、何だよ。全然大丈夫じゃん」


肩透かしを食らった。


撮影は順調に進んでモニターチェックも滞りなくオッケーが出る。


「チャンミンさん、すごく感情が籠ってる感じですねっ」


女性スタッフがミネラルウォーターを持って来てくれて、俺が見てたモニター越しのチャンミンを褒めてくれた。MV撮影はこのチャンミンのリップの撮影で終了。予定より早めに終わって次のスケジュールまで時間が余りそう。


「でも私は実はユノさんの大ファンなんですっ♪」

「あはーはーっ♪ありがとうございます。チャンミンは本当、凄いんですよ。やる時はやる、格好いいんですよ」

「まあ確かに格好いいし女性より綺麗ですよね。明るい髪の色もすごく似合うし。高飛車な所もクールで、まあ好きな人は好きですよね」

「?チャンミンは明るいですよ?」

「えー、…でもチャンミンさんってたまに嫌味っていうか、大げさな言い方しません?オレ頑張った!とか、スジュが羨ましいとかすぐ言っちゃうし。ユノさん大変だろうなって見てるこっちがハラハラする時けっこうありますよ?」

「……」


人から見れば短所だと思われるところも、


「…チャンミナが自分で頑張ったって言う時は、本当に本気で楽しみながら全力で取り組んで納得した時ですよ。他のグループもTOHOSINKIとは別の良いところがたくさんあります。それを素直に認めて出してるだけなんです、チャンミナは。良いことですよ、これは」


それがチャンミンのスタイルだしって思える。


「ぁ…、そうですか……」


直して欲しいところとか、全くない。


「そうですよ。それに全然高飛車なんかじゃないですよ。ボクの両親に、ボクをたててくれながらとても礼儀正しく挨拶してくれますし。嘘も絶対つかない、つけない男です」


だからこそ、なかったことにした記憶が……

俺の心は11月のまま……

止まって……


「…すいません、てっきり仲違いでチャンミンさんが勝手に宿舎を出られたのかと思っ…」

「え?」

「ぃえ…っ、、」


荒立った問い返しになってしまったかもしれない。それでも怯えた彼女はとてもか細い毒を吐く。


「ぃや、あの………韓国の宿舎、チャンミンさんって出て行かれたんですよね…?日本でも噂になってるから、てっきり……。ぇ、じゃあ、あの、何で……?」


チャンミンが宿舎を出ていったのは、チャンミンに大切な彼女ができたから。もっと彼女といる時間を作りたかったから、だけど。。


「……いや、」


カチンときた。


「日本では一緒に住んでますし!」

「「「「ぇ……!?」」」」


周囲の低空などよめきにはっとして。いつの間に注目されてたのかと焦って辺りを見回した。


「チャンミン君、すごいね……」

「うん、スゴい……」


でもそうじゃなかった。


「え、チャンミナ…??」


皆が釘付けに凝視する先は俺じゃなく、小さなモニターの中のセツナゲな麗人。リップシンクを奏でながら。


「チャンミンさん、右目から涙流してる……」
















チャンミンが綺麗に泣いてた。





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片割れ chap.12 #6







______C.side______





結局一睡もできなかった。
「目を瞑って深呼吸するだけでも睡眠効果がある」なんていつかに得た豆知識を布団の中で実行してみたけど、寝られないとやはり瞼の重みを感じる。空港で待ち合わせたユノヒョンの前でも欠伸が止まらない。


「ふあぁ~あ…」

「……」

「……」

「……」


だからと言って。
ユノヒョンから何か声を掛けられるわけでもなく、搭乗時間になるまでの僅かな時をロビーで過ごしながら、向かい合わせに座るヒョンを観察した。
スマホをいじって別段いつもと変わらない雰囲気が逆に、昨日のデートの行方を知りたくなる。


「ああ、…眠いです。ヒョン」

「んー?頑張れ、大丈夫だよ」


話の続かない会話を続けようとするのは疲れる。知りたい内容もいい事はない。
でも聞いた方がいい。
普通の弟になるためには避けて通れない。


「っ、…ユノヒョンはっ?眠くない?昨日はアラと食べに行って…どうでした……?」


自分の気持ちが表れるように、声の大きさもテンションも尻すぼみになってしまって恥ずかしい。


「まあ普通。一緒に店出て帰って。いつも通り寝ずにしたけど眠いってことはないな」

「え…何。どういうこと……」


だけどユノヒョンの情事を匂わせる回答に、殊勝な面持ちが剥げ落ちた。


「やりたいことなんて沢山あるだろ?思い付くと止まらなくて」


一瞬にして


「、、、」


頭を鈍器で殴られたような衝撃に痺れて声がついていかない。意味深な言葉を簿かして要点だけを処理したい。理解したら最後。吐きそうで。
すでに胃はひくつき出した。


「……ユノヒョン。。ア、ラと…」

「うん?」


ユノヒョンがいつか誰かと、すぐにでもアラと付き合うことになったと言われても。
笑って弟として祝福しようと、羨ましがってさえ見せようと思ってたのに。
ちゃんと身構えてたのに。


「僕聞いてませんけど。え、っ、いつから?」


まさかとっくにアラと付き合ってたなんて考えてもみなかった。それどころか男女の営みをさらりと報告されて具体的なアホ自慢もされて。

こんな復讐劇ってある?
予想を超えた状況に笑顔が貼り直せない。


「大丈夫。最近朝までずっとそんな感じだし」 

「、はっ。別に朝まで何してようとどうでもいいんですけど」

「そうかよ……。じゃあ、話しかけんなよ」

「質問くらい答えろよ。ねえ、いつからなの」


問い詰め口調が加速する。また喧嘩になりそう。次こそ僕はこんな公衆の面前で張り倒されるんだろうか。
でもユノヒョンはもはや僕なんて眼中にない、そんなつまらなそうな態度で。


「日にちなんて覚えてないわ」

「…っ、」


幸せを願う。なんて綺麗事並べながら


「教えてくれたっていいじゃないですか…!」


本当は、過信してた







お互い想い続けてさえいれば





いつかまた


ジェットコースターみたいな展開と

ドラマチックな感動が僕たちを待っていて






ユノと戻れる日が来るんじゃないかって






「はあ…、、お前のマンション行った後くらいからっ」
 


でも夢物語の裏側は




「……う…嘘でしょ……」



こんなにも脆くて呆気ない


ヒョンは簡単にアッチへ戻った




「何で、ぇ……っ、」



僕たちはあんなに完璧だったのに



「なんでって。俺、朝にスッキリしたって言ったろ。それから寝なくてもなんか調子いいのが続いてて。だから夜はずっとカムバックの事とかコンサートの事とかの構想してる」

「……え?」

「え?」


目の前の怪訝な顔をしたユノヒョンと、きっと同じ顔を僕もしてる。ちぐはぐが一周回って同じ喜劇を興してる。
そこでようやく、


「……本当に、睡眠時間をとってないって話ですか…?」

「……今その話題だろ…?」


自分の早とちりに気付いた。


「ちなみに昨日、……アラとはどこで別れたんです?」

「だからあ、言ったじゃんっ。一緒に店出た後だって。結局後から合流した仲間もけっこういて皆で一斉解散した」

「……。そんな言い方してなかったっすよっ。……全然、してなかった…」

「?そうだっけ?」


僕の脱力感が伝わったのか、攻撃体制を解いてぽわんと隙だらけになった虎が首で傾げて盛大に笑う。


「おいっ。なんで俺たちこんなに噛み合ってないんだよ!?」

「… 。はっ。それはあんたがねぇ…っ」


怒鳴り散らすために息を深く吸い込んで、次にはもう、


「、」


どうしようもなく抱きつきたい衝動を抑えるために、大きな息を吐く。
ユノヒョンをまともに見れなくて、俯いて右手で両目を覆った。


「……気持ちは分かるけど…ちゃんと寝なきゃ、後が辛いですよ…。ご飯は?もう食欲は戻りました?」



この人から離れることない僕の傲慢さを

誰か僕ごと消してくれない?


TOHOSINKIのチャンミンの部分だけ残して



「あー…、まあ。うん、大丈夫……」

「ご飯もなるべく食べて、栄養あるもの摂取して…。ね?」

「、おう……」


音だけの世界で聴くヒョンの声は明らかにまだ食欲がないと拒んでる。


「食べれなくてもいいんで、東京に行ったら何か気持ちだけでも食べたいものありません?」

「うーん、、、ら、ラーメンかな…」

「それは駄目だ。栄養ねえよ」

「ええーっ。チャンミナひどいぞっ」


この甘やかしてくれる感じ


「ぶっ、ふふふふふふっ」



大好きだ



「チャンミナだって好きだろ?」


その声も以前の、柔らかに深く、透き通るように貫いてくる大好きな音程で。毎日会ってるはずのに久しぶりに聞けた気がして、やっぱり僕は顔が上げれないまま。


「じゃあ鍋とかどうです?シメにラーメン入れて食べれるやつとか」

「お、それいいな」


その瞬間をひっそりと噛み締めた。




その後、機内で隣の座席へ座ったユノヒョンは宣言とは裏腹に、離陸する前に爆睡へと落ちていった。
本当に不思議な人。


「あれ、ユノもう寝たのか。早いな」

「ですよねぇ…」


もう片方の隣からかけられるマネヒョンの話を上の空に飛ばしながら、僕は考えてる。


「今日MV撮る曲は年明けの発売予定だから。それであと来年の会報向けにミッショ…  

「なるほど…」






どこまで干渉していいんだろう。


どこまでがメンバーで

どこまでが家族で

どこまでが男同士の境界線なんだろう



もう分からなくなってしまってる。





「……マネヒョン」

「何だ」


例えばこれは?


「……ヒョンが、、東京で鍋食べるって…」

「おっ、食べたいって?ユノが言ったのか?いいな!よし。夏バテしてた分、スタミナある鍋に」

「いやできるだけ栄養摂れるやつにして下さいよ。後シメに麺入れて食べれるもので」

「う~ん、、店探しとかいとなぁ。日本のスタッフに聞いてみようか」

「お願いします。……すいません、僕変ですか?」

「え?」


分からないんだ


「ヒョンの健康を心配するのって変ですか?」

「……?変?何でだ?」

「正直に言って下さい。世間ではこういうの、ちょっとおかしいとか、いきすぎてる感覚なんですか?」

「チャンミン……?」


分からないんだ


「カメラ回ってる時は大丈夫ですかね?ユノヒョンと会話しても。もしかして変ですか?」

「……」

「夢で逢いたいって願うのは弟としての気持ちに許容されますよね?、、あれ……」

「……」
 

正しい答えが分からない


「ステージでいつも格好いいって、ヒョンのこと感じるのは僕だけじゃないですよね?これは?……僕おかしいですか?」

「………お…まぇ……、、」


正解が欲しいのにマネヒョンは1つも教えてくれなかった。まるで答えなんてない答えを聞かれてるように着陸までただ困りきってた。


分からないんだ


「……ユノヒョン、起きて。着きましたよ」

「ん…んん?うぅーーーーん、、」


声を掛けるのは、アリですか?
手に手で触れるは?
目と目を合わすのは?


マニュアルを入手することができれば、僕は確実に暗記する自信があるのに。



正しさの周波数が合わない















______Y.side______






チャンミンの起こしてくれる声がして、投げ出してた手の甲に体温を感じて。大河に流されるような安らぎに導かれながら瞼を開くと、俺が捜してたその通りの瞳が飛び込んできた。


「…」

「着きましたって」


だけどすぐ反らされてしまったから、そこにはもう残像しかない。まるで蜃気楼のように朧気で。心許ない。
俺も逃げるように窓へ目をやって長い滑走路を眺めた。

触れて確かめたい気持ちを隠したのは、その目の持ち主がチャンミンだったから。

きっとあれだ、飛行機に乗る前チャンミンと話した時。何だか懐かしい空気に包まれて、それが俺を夢か現実か錯乱させたんだ。


「……チャンミナ、ありがとう」


振り返って礼を伝えたチャンミンは、コクンと一度だけ頷いてマネヒョンと今日の予定を確認し出した。それに比べて、馬鹿みたいな夢の続きを現実にまで持ち込もうとしてる自分が情けない。


だってあれは夢で、夢の中の出来事で、
在るわけない。

男なのにおかしい。オカシイ。おかしいから。
アルワケナイ。


呪文に呪文を唱え重ねれば現実をきちんと呼び出せるから。
うん、大丈夫。
なのにさっきから続く余韻にまだ酔ってるせいなのか、あんなに避けてたチャンミンと話したくなった。
何かもっと、もっともう少し話したくて。


「はぁ~。久しぶりによく寝たわあ」

「……」

「チャンミナ」

「……。あ、はい?」

「久しぶりに熟睡できた、俺」

「あー、一人言かと思いました……」

「なんかチャンミナの横に座って落ち着いたら、物凄い眠気に襲われた」

「ふーん」

「すごくない?何か。少しも眠いって感じなかったのに」

「はあ」


これっぽっちの興味もなさそうな声音と安っぽい相槌に悲しくなるのは、何の意味もない。まだ半分夢の中。寝ぼけてるだけ。


「チャンミナは?昨日何してた?」

「ヒョン、降りよう」


立ち上げってマネヒョンの後へ続くチャンミンが正しい。俺の胸が痛むのは、俺がただ寝ぼけてるから。







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