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片割れ chap.12 #13











僕はまだ、

 

  




人の形を保っているだろうか









一日スケジュールを終える度、確かめずにはいられない。明日も立たなければ。TOHOSINKIでいられない。


「お疲れ様、チャンミン君。着いたよ、明日は八時に迎えに来るから」


眼球だけ動かして車の前方を見ると、運転席に座るアシスタントマネージャーさんが目頭を揉んで、眼球疲労を少しでもと和らげてる。サイドボードの液晶には〈3:21〉の時刻が浮かんでる。


「狎鴎亭に別宅があるなんて羨ましいなぁ。広津区のマンションにもこの前引っ越したばかりなのに」


厳密には違うけど『ここはチャンミンの好きに使っていい』って言われたし。現にスペアキーも持たせてもらってるから誰も不振に思わない。広津区のマンションはスジュや誰かしら芸能人のペンにとっては周知されてる建物で、一人で静かに落ち着ける誰にも知られない場所を他にも用意しておきたいと言ったら、マネヒョンは即答で了解してくれた。まるで僕に負い目でもあるように。


「シウォンさんの紹介なら賃料も安くしてもらってるの?隣の、向かいのマンションの棟はチェ財閥の本家なんだよね?はぁ~、毎日見ても豪華だなぁ…!」


シウォニヒョンがご家族と住んでいる、インテリアの改装工事を終えたばかりの建物は確かに恐ろしいほど豪奢な造り。韓国で最も高級な繁華街地区に。桁が違う。
僕が今後どれほど稼いでもあそこに気軽には住めないだろう。もちろんこの、スペアキーを貰っている方のマンション、シウォニヒョンのものだった部屋も。


「…改装工事の期間中だけ住むためにこっちのマンション買われたそうなんで、今は特に必要ないんですって」


声が出た。まだ人間らしい部分が残ってて一安心。
でもそれなら、尚更早く崩れたい。ただ一人では戻ってこれなくなるから。シウォニヒョンが命綱。


「それだけで!?一棟まるごと!?」

「じゃあ明日も宜しくお願いします」


いつの間にか活気を取り戻したアシスタントマネージャーさんを尻目に車を降りる。深夜組のコンシェルジュさんに軽く会釈すると深いお辞儀が返ってくる。そのまま何基かある、粋なデザインが施されたエレベーターの一つへ。目的階で降りてすぐ目の前の重厚な扉を解錠。ここの鍵はほぼ毎日使ってる。


シウォニヒョンにジムで助けてもらった日から、


「……あれ。まだ帰ってきてない……?」











僕はシウォニヒョンのものになった。









「僕の方が遅いと思ったのに……」


暗い空間に吸い込まれるように靴を脱いで上がれば、歩行は飲んでもないのに千鳥足。今日一日分の燃料は尽きた。わざと壁に当たりながら進む肩の痛みが心地いい。
笑って、はしゃいで、何も迷いのない振りをして夢に向かって。その度に傷を負っていったずたぼろの感情に似ていく気がして。

長い廊下とだだっ広いリビングを抜けて奥の寝室へ入ると、キングサイズのベッドに行き着く手前で足がもつれて倒れた。もう今日は動けない。崩壊した。人じゃない。もう。ユノヒョンに忘れられた僕は、人間の形を形成できない。


「チャンミン、おまたせ」


闇の中からほんのり声がして、天井を仰いだかと思ったら横抱きに宙へ抱え上げられた。


「ここもいいけどベッドの方が気持ちいいかもしれないぞ?試しにベッドに寝てみよう?」


僕を軽々、余裕たっぷりにお姫様抱っこした腕を伸ばして羽毛布団に優しく預けてくれる。この最高に顔の整ったジェントルマンに、僕は毎晩救われている。


「それにチャンミンはもう俺のものなんだから。心も身体も大切にしてくれなくちゃ。約束したろ?」

「……そうでした…」

「勝手に傷いちゃいけない。誰にも触らせちゃいけない。俺が許可しない」

「……」


シウォニヒョンに所有されている。


「俺のところにいて、他へは行くな。どんな時でも呼んでくれれば必ず、俺が誰よりも一番に駆けつけるから。裏切りは許さないよ、チャンミン」

「はぃ……」


一人で立てなくても。シウォニヒョンが支えてくれる。どろどろになった液状の自分がまた形を持ってゆく。

真剣に僕の顔を見つめてたシウォニヒョンがゆるっと優しく微笑んだ。


「着替え、出すよ。今日はもう寝る?」

「…ちょっと、飲みたい、かも……」

「俺もチャンミンと飲みたくて、少しいいワイン持って帰ってきたんだ♪着替えたらリビングにおいで」


目の前にニンジンをぶら下げられて、着替えてリビングに行くくらいまでの力ならまだ残ってるかもしれない、と現金な自分がぽこっと起きる。後を追って寝室を出た時には、シウォニヒョンも着替えてワイングラスを用意してくれている所だった。窓の外は朝が近付いていた。
そこでようやく、人間らしい心も取り戻す。


「シウォニヒョンも忙しいんでしょ…?今まで仕事?」

「うん。今ドラマの撮影でなかなかね」

「すいません……」

「なんで謝るの。あっ、俺のドラマなんて観る気さらさらない?トップスター役だから、格好良く写ってるんだぞ?演技も最近上手くなったって評価されてるのに…。涙」

「ぃ、違います違いますっ。もちろん観ます!けど、、ご迷惑かけて、すいません……」

「付き合ってるのに迷惑も何もないよ。俺はチャンミンの彼氏なんだから」


さらっと言う。さすがにドキッとする。


「むしろもっとワガママ見せて欲しい。今すぐ会いたいとか、連れて行けとか、話聴けとか、これ買ってとか。チャンミンになら何言われても可愛いと思うな♪」

「っ、いやいや…、そんな、」

「おいで」


ごく自然に。当たり前のように超高級ブランドのソファーにエスコートされて、僕の手の中にグラスを。グラスの中にロマネ・コンティを。


「ロマ……」


その銘柄に、シウォニヒョンの本気を見た。



「比較的若いけど、当たり年だよ」






どこまでも見守り続けてくれる友やじっと慰めてくれる家族、自分に好意を持ってくれてそうな女の子はこんな僕にさえいたけれど、






その頃僕が渇望したのは


圧倒的な恋愛表現だった





思い出の空洞を埋めるためにはそれ以外なかった。心も身体も、朝、TOHOSINKIのチャンミンとして奮い立てれば誰のものになっても良かった。


「愛してるよ、チャンミン」


男でも構わない


「今すぐじゃなくて。ゆっくりチャンミンと、理想的な愛の形で結ばれたらいいな、とは思ってる。できれば、ね?」

「……そんな事言って。何もしないのに愛の形なんて分かりますかね?僕を抱くなら今がチャンスですよ……」


グラス越しのフランス最高級ワインは複雑なルビー色。時間と歴史が絡み合い、香りがふうわり僕に手招きする。見てるだけで涎が出そう。


「分かるよ、精神が通じ合えば。それに会う度、…朝まで抱いてるだろ…?」


声を潜めてまたシウォニヒョンが色気めいた言い方でわざわざ耳元に囁くから、僕はやっぱりおかしくて笑ってしまう。


「だからっ…ふふっ、その言い方っ。あれはただ本当にぎゅーっとしてくれてるだけじゃないですか。笑」


今の僕は、シウォニヒョンによって形成されている。
毎夜燃料切れで無気力に液状化してしまう僕を、シウォニヒョンが夜、一晩中抱き締めて朝までに固めてくれる。抱き締められる力強さで自分の形が分かってすごく安心できる。だれどそれだけで、キスも扱きもフェラもセックスも要求されない。

シウォニヒョンに押されて流れるまま付き合うことになったけど、『プラトニックこそチャンミンに求める究極の愛だよ』と説いて、僕を拍子抜けさせた。


「俺はクリスチャンだし、残念だけど俺の通ってる教会では同性同士の性行為を認めてないんだ。ユノもクリスチャンだから、てっきり二人はプラトニックな関係だと思ってたんだけど、もしかしてユノとは……そういう関係だったのか…?」

「、、、」


しまったと、思った。
完全に墓穴を掘った。

こちらはてっきり知られてると思ってた。から。訝しげな表情のシウォニヒョンに何と言えば適切か。今まで潤ってた喉が一瞬に干上がって、冷や汗が浮き出す。

どうしよう。誤魔化さないとユノヒョンが。
彼の大事な信仰から迫害を受ける。きっとシウォニヒョンからも軽蔑される。
どうしよう。まずい。でも絶対嫌だ。どうしよう。


「どう?少しはいい演技、するだろ?」

「…………ぇ、、、」


シウォニヒョンが突然ニコッと笑った。何で笑ってるのか全然理解できなくて、さらに微動だにできない。ただ僕は懇願するしかない。


「ユ…ノヒョンは、、違うんです。僕がまだ若いから、あのぉ…っ、何て言うか…ちょっと、興味があって……。だからユノヒョンは何も悪くないですよ」

「……お前達って、本当に…同じこと言うんだな。笑」

「シウォニヒョン、違うんです…!本当に…っ」

「ごめん、ごめん。そうじゃなくて。感心しただけ。笑」

「……は、…?」

「それよりチャンミン、ごめん。さっきのは…俺が悪ふざけし過ぎた……頼むから怯えないで。ああ言えば恥ずかしがるかなと思って、お前の照れた顔が見たくて、つい。あぁ、申し訳ない…、」

「、…?、、、」


何が何だか分からない。
でも、注がれたグラスを持ったまま硬直してる僕をすぐさまシウォニヒョンが文字通り抱き締めてくれて、ホッとした。伝わってくる体温。力強さ。微かなシウォニヒョンの香水の香り。呼吸が楽になる。


「…嫌がることしないって約束したのに、この調子だと返す時ボコボコにされそうだな…。くくくっ。笑」

「……すいません、何のことを言ってるのか。。さっきから全く分かりませんよ……」

「チャンミンは何も心配しないで。……行為は、俺は求めないけど、非難もしない。それも愛に近付く一つの方法だよ」


シウォニヒョンは少しして体を離すと、僕の肩を抱いたまま隣に座り直した。そこは今までユノヒョンの場所だったのに。ふと思えば、ただ虚しい。だから止めた。


「ロマネ・コンティ、飲んでみていい…?」

「もちろん。チャンミンのためのワインだよ」

「…、…、んー…!……凄い……!感動的だ…!」


豊潤な香りが咥内に充満する。美味しいというよりは、時間を飲む、という贅沢。


「俺は、独占欲は強いけど。損はさせないから。とにかくチャンミンには俺のところから離れないで欲しい。そうしないことには精神的な繋がりなんて、期待さえできないだろ?」

「こんな素晴らしいものまで飲ませてもらって…当たり前でしょう。僕はシウォニヒョンのもの」

「嬉しいよ、チャンミン」


シウォニヒョンだけ見てればいい。

夜崩れて、朝立てればそれでいい。










一日が終わるまでは、人間でいられる









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片割れ chap.12 #12










______Shim Jae Won.side______







ユノとチャンミンがソウルに戻ってきてすぐ、広州と一山にあるセットでリパッケージアルバムの新しいMVの撮影に入った。


「宜しくお願いしまーす」

「お、チャンミン待ってた。おいでおいで」

「ジェウォニヒョン。今日ちょっと開始時間、押してますね?」


先に現場のセットへ現れたのは、黄色の、弾けるほど明るい近未来風ジャケットを着たチャンミン。にこにこ、調子は良さそう。


「そうなんだよね。まだライティングの修正に手間取ってるみたいで。でも調度いいじゃん、今の内にステップの確認しよう。ナッピータブスの今回の振付はとにかくステップが多いから」

「あ~う~…お願いしますっ。本当に大変です」


ハイブリッドエレクトロニックと名付けられたナンバーに乗せて、今回の振り付けは世界的なキャリアを持つ二人組の有名振り付け師チーム、ナッピータブスにオーダーした。ナポレオンとタビタは、BoAの主演したハリウッド映画の際に、ダンサー役で友情出演したユノの振付を担当した時にユノと知り合った。それにBoAの今年のカムバック曲のカップルダンスも担当、そこでも相手役の一人にユノが選ばれ親交を深めてた。

そのおかげもあり、練習室での新曲の習得は終始、親しさと厳しさのバランスがいい塩梅で保たれてたと思う。


「あとイントロ部分ね。ユノと合わせで踊るとこ、見せ場だからしっかり」

「はい」


ただ圧倒的に時間が足りない。毎日何らかのバラエティーや音楽番組、フェスティバルに出演しながらコンサートリハーサル、打ち合わせ、取材、アルバム購入者サイン会の巡業。息つく暇もない。
こんな待ち時間の隙間さえありがたい。

ビートに合わせるよう口酸っぱく注意しながらカウントを取ってチャンミンのステップを確認していると、突然僕たちの間を割って入るように人影が横切った。

ユノだ。

青のエナメルジャケットを羽織ったユノは、足下に集中してたチャンミンの腕に盛大にぶつかったけど、そのまま謝りもせずにダンサー達の輪に入って行った。途端に「しゃっ!ファイティン!」と周りを鼓舞させ、笑いを取ってる。


「…」

「…」


衝撃に足を止めてしまったチャンミンと見あわせた。普通の人間だっていい気分はしないだろう。だけど。
喧嘩でもしてるのか?なんて気軽にもう聞けない。二人の過去の関係を知ってしまっているから。

僕は躊躇した、言葉を。
助け船を出してくれたのは、


「ユノヒョンって、いっつもああですよねえ~。前に人とか障害物があってもぶつかっちゃうし気にしない。ホント笑えますよね。笑」


チャンミンだった。


「ぁ…ああ、そうだよね…」


僕がなんとかそう返すと、チャンミンはヒヒヒ、と歯茎を見せて笑った。


「チャ……」



 

その姿に、胸を鷲掴み。






「…。えらい!えらいえらい!チャンミンえらい!」

「ん?ぶ、ふひゃひゃひゃひゃ♪」


格好良くスタイリングし終えてるから、無性に頭を撫でてやりたい気持ちを抑えて。代わりに両手を誘ってハイタッチをバンバン、バンバン交わした。なんで褒められてるのか分からないチャンミンは、ただただ子供の遊びを楽しむようにはしゃいだ。


「さあ!チャンミンも気合い入った?続き、やるよっ」

「ネ~♪」


精一杯の強がりって分かったよ



でもチャンミンは本物のプロだった。プライベートを持ち込まない、ユノと共に一番に周りを気使って行動する主役達。
腫れ物扱いしそうになったのは、僕。

今はそんな事、心配してる場合じゃないよね


「ちょっと音出せる!?音ちょうだい!イントロからでいい!」


大きな声で音響スタッフに頼んだ。数秒待っていると後ろから明るいチャンミンの呼び声。振り向けば期待通りの愛くるしい笑顔。


「ジェウォニヒョン」

「ん?」

「『基本に忠実に』、ですよね?」


言われた事は忘れない。努力を欠かさない。
めちゃくちゃ格好いい僕の弟。


「……僕が認める。いや、いつも認めてるけど。やっぱりお前は努力の天才だよ」

「、、ふっ♪」


ふるふる顔を横に振って照れながらまた笑うから。
やっぱり僕は撫で繰り回したい衝動を抑えなきゃいけなかった。


「それはユノヒョンですよぉ~」

「ユノはあれだ。情熱の天才☆」

「あっはっはっはっは!さ、お願いしまーす」

「よし」


音のスタンバイができたところで噂をすればユノ。燃えるような真剣な目付きで、ぞろぞろダンサー達を引き連れ近付いてきた。


「ジェウォニヒョン!ちょっと。今皆で話してたんだけど、やっぱり一番の部分の振りでさ、変更って…」

「待て待て待て、頭がこんがらがりそう!今チャンミンとイントロ部分確認するからちょっと待って」

「じゃあイントロからそのまま流してくれる?変えた方がいいと思ったステップ踏んでみるから。どうせならセットの上に立ってやってみれない?照明の当たり具合も確認できるし」

「お。そうだね!カメラワークもチェックして…ホン監督に聞いてみよう」


僕は僕のできる事を精一杯やる。
世話しない日常に埋もれてつい忘れてしまいそうな自分の信念を、チャンミンが優しく掘り起こしてくれる。ユノが強く引っ張り上げてくれる。

二人の側に居るだけで自分の、もしかして生まれる前から持ってたんじゃないかと思う、どこか懐かしい、内に秘められた純粋な力を信じてみたくなる。


「オッケーだって。二人共、立ち位置に。動きを合わせてみよう」

「おし」「皆行きましょう」


二人は二人で良かったんだって、
その力が訴えかける。
男とかメンバーとか、そういうの。関係ない。



関係なかったんだよね、二人には





「…できれば……、」


もう過ぎたことかもしれないけど……


「うん?」「はい?」

「……。いや、やってもらう。ユノ、チャンミン、今日も格好良く魅せてね!」


ユノはビシッとブイサイン。
チャンミンは笑って朗らかに。


「ふふふっ、イエース♪」






できれば応援したかった











お前達、二人のこと























______HyoJe.side______






僕はユノから直接教えてもらったけど、他のダンサー達だって、この時期になる頃には皆気付いてた。
繰り返される撮影の中、どこも明る過ぎるほど明るい、笑いの絶えない現場だったけど。


「あはは!ヤバい、面白いっ!笑」

「ぎゃははっ」


夏に事務所内で広がった、二人が付き合ってたっていうジョークはおそらく本当だったんだろうってことに。
皆にもちろん問われた僕は素直に言うしかなかった。だってTOHOSINKIのダンサーなら絶対分かる。ずっと二人と練習してきてるんだから、踊る肉体で感じ取れる。
空気、感じ、間(ま)、タイミング。

あるいは、気持ち、とか。





「はい、じゃあ一旦ハケて。モニタリングして下さい」


確認モニターは、ユノが無意識に画面を占領するからチャンミンは後ろからひっそり覗いてばかり。途中から完全に別々の画面で見るようになった。二人が目を合わせることもない。まるでユノはユノ、チャンミンをチャンミン、別々の場所で撮影してるみたい。


「オッケー♪じゃあ、今日のダンスのシーンは終わりで。次はリップのシーンいくよ、衣装チェンジお願いしまーす」


それでも映像監督から満足げなサインが出るのは、もうコミュニケーション云々の問題じゃない。長年培ってきたお互いの呼吸とか、それぞれ本来の性質。そういうものの感覚的で稀有な合致の成せる技、としか。言い様がないと思う。


「はあ、はぁ、はあ、、、ちょっと疲れた…」

「ユノ~しっかりしろ~っ」

「はは…、はぁ、…大丈夫。カメラが回れば、パワーが、自然と出てくるから」


セットに寝転んでしまうユノなんて珍しい。隣に一緒になって寝転ぶと、頭上ではチャンミンがユノをチラッと見て通り過ぎてくところだった。心配してる、一瞬の気。


「……」


本当にチャンミンは、
ユノのこと好きじゃなかったの?



僕はそれを、未だに信じられないでいる。



「……」

「あ~、この歌ホントにいい曲♪格好いい」

「ん、パフォーマンスも強烈だしね。僕も好きっ」

「歌詞にも惹かれる。未来のために、今の問題とかそういうのあっても、乗り越えていこうってメッセージ性がいいし。너와 만들 유토피아로 넘쳐(君と創造するユートピアで溢れて)!It’s the future, 미랠 바꿀 우린(未来を変える 僕達は) humano-ids♪♪…ふぅ、、、」

「ユノ……」


ユノは目を閉じたまま深呼吸とも溜め息ともとれるものを吐いて動かなくなった。僕が呼ぶ声にも反応しない。まさか気でも失ったかと、妙な不安が急に押し寄せる。


「ユ、、」


はっきり言ってチャンミンと別れてからのユノの頑張りは異常だ。ストッパーが外れてる。ぎらついて、生き急いでる感じ。ダンスする時、特に感じる。それは他のダンサーも同意見だった。


「おい!ユノ!!」
 
「え、あ、俺か」

「へ??」

「なんか最近、俺の名前じゃないみたいに聞こえる。なんでかな。笑」

「?どういうこと?」

「わかんなーい♪分かんない分かんない~♪♪」

「…。何、その歌。笑」

「『分かんない』の歌♪」


突拍子もなくて危なっかしいけど、変わらず抜群の愛嬌で皆を楽しませてくれる。雰囲気を盛り上げようとしてくれる。お互い気まずいだろうに。
ユノもチャンミンも、バックを支えるスタッフ達のために現場でしんどさや辛さは見せない。二人の心意気にどうにか応えたくて、休憩中、僕達ダンサーは本物のバカになったみたいに騒いでる。

   
「あはは!ははは、こらっ、僕が分かんないよ!笑」

「ヒョジェニヒョン、大丈夫ですか?立てます?」


喋ってなかなか起きない僕たちのところへ、チャンミンが戻ってきてくれた。僕の方に手を貸してユノは見ないチャンミン。


「ごめんごめん、立てる。ふざけてた。笑」

「さーてとっ。俺、着替えよー」


自分で難なく起き上がって、まるで見えてないかのようにチャンミンの横をすり抜けるユノ。そのまま控え室へ消えてしまった。

お互い見てしまうからこそ、見ない振りなんじゃない?


「…。チャンミン、さっきジェウォンとハイタッチしてたね!僕ともやろうよ!」

「はーい♪やりまっしょ♪」


バンバン、パンパン、バンバン!やんちゃな笑顔のチャンミンと叩きあっていくだけで楽しい気分になってくる。なんだか意欲が沸いてくる。

ユノにとってもチャンミンって、
きっとこういう存在だったと思うんだ。


「ヒョジェ~?行ぃくぞぉ~」

「、あはは!ユノとチャンミンが先に着替えなきゃ。お前達が早く戻らないと。笑」


今度はユノが戻ってきてくれた。
この二人は相対的なのに、行き着く源にはちゃんと同一の温かさを持ってる。不思議。


「長身の二人に挟まれたら肩身狭いなあ。僕の身長がバレないように持ち上げて運んでくれよ~っ。笑」

「あはーはーっ!」「ムーリーデスヨー。僕は疲れてます!笑」


自分の恋人はチャンミンなんだって、事務所に認められたいと言っていたユノ。胸を張りたいと漏らしてた。
ユノの心は決まってた。

真っ直ぐで純真で、故に危うい。
そんなのチャンミンが一番に分かってるはずなんだ。


「…また皆でご飯食べに行きたいな……」


なぜ?どうして?
本当に同情だったの?
本当にユノの一人相撲だったの?


肌に感じる感情は全く違う。
それとも僕の感覚が、単に錆び付いただけか。


「あー、そうだな。でも今日は皆疲れてるだろうし。それに母さんが上京してきてて、暫く家に居るみたいだから。ちょっと難しいかなぁ、俺も早く家に帰りたくて」

「へえ!遠くからわざわざ?それは帰ってあげないとね。じゃあ、チャンミン。僕と二人で行…く、か……」




なぜ?チャンミン



なぜ今も、そうやってユノを見つめるの?




「僕もちょっと…。早く帰って寝たいです、ヒョジェニヒョンごめんなさい」


そんなセリフ言いながら全然僕の方なんて見ない。
どこも見てない。

一直線にユノだけを見て。見守っている。


「お母様、お元気ですか?」

「おう」


二人の会話は簡素で。



ユノは鼻を擦って、大きくひとつだけ自慢した。
その仕草があまりに幼くて。
肩肘張らない光州のユノに久しぶりに会えて。
胸がいっぱい。熱くなる。

とにかく可愛くて仕方なかった。
まるで心の澄んだ、純粋な少年。


「やっぱご飯が美味いんよ。懐かしいしのぉ、母さんが作ったものじゃけよう食べれるんよ。さすがじゃねって今日も言おうて」

「そう。良かったですね」


チャンミンは微かに、柔らかく。
大きな瞳を緩めて、突如美しく。



とても綺麗。
一寸も穢(けが)れてない。











まるで聖母マリア様みたい






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片割れ chap.12 #11










______K.side______






朝起きてスマホをタップしてみても、要らない通知ばかりに溜め息が漏れた。今日は俺だけ午後からの予定で、すでに皆出かけたであろう孤独な宿舎ゆえ独り言も堂々と言える。


「はぁ…。、あー!そう言えばチャンミニの話ばっか聞いてて俺のギリシャ旅行自慢するの忘れてたぁ…!めっちゃ!楽しかったのに!写真もめちゃくちゃ撮って!あーっ!!」


毎日。多い時は二、三回電話をかけてきてたチャンミニの連絡が十月に入ってぷっつり途絶えた。もう一週間チャンミニの声を聞いてない。6集のカムバに入って本格的に忙しくなっただけかもしれないと思うと、カトクも何となく憚(はばか)られた。それじゃあと直接、部屋へ行ってもチャンミニは留守ばかり。どこへ逃避行してるんだか。


「元気なら、いいんだけどさ…絶対ヘコんだままだろ、あいつ……」


心配な気持ちはもちろんある。
でも俺がなんだか寂しい。

あれだけ相談を聞いてやってたのにとか、それから何か進展はあったのかちょっとくらい教えてくれてもいいのにとか、恩着せがましい事もそりゃ少しは思うけど、単純にチャンミニと話したい。恋愛感情ではないけれどチャンミニのことが好きで堪らないのは俺の素直な気持ちだから。


「あー…、ははっ、撮った撮った♪ウケる。笑」


寝たままスマホのギャラリーを開いて、これまでチャンミニと撮った画像をスクロールして楽しんだ。
一緒にアイスクリーム屋で撮った写真、楽屋でふざけて撮った写真、L.A.のナッツベリーファームとディズニーランドで撮った集合写真。ふらっと皆で食べに行った事務所近くの焼き肉屋の写真。ホテルの部屋で窓枠にトランプを並べるなんて下らないことやって爆笑してるチャンミニ。酔って赤ら顔でふやけてるチャンミニ。ぶれてチャンミニの足や手、頭だけ写りこんだ写真なんかもある。色んな思い出が甦る。
色んなチャンミニを見てきた。


「……何とかできないかな…」


忘れられないのは、俺が昔交通事故で生死をさ迷う大怪我を負った時。俺の元へ駆けつけて体全体で回復を祈ってくれたチャンミニの姿。

『僕は側に居ることしかできないけどそうしたい。半年前、ユノヒョンが異物を飲んで入院した時もこうして駄々をこねた』と自虐的に笑いながら。

ただ側に居てくれた。

韓国と日本の行き来と、文字通り寝る間もない多忙なスケジュールの中、どうやって時間を作って会いに来てくれてたんだろう。ありがとうの、言葉じゃ伝えきれないほど。
チャンミニに感謝してる。

大好きだから。一生の友だと確信してるから。チャンミニが苦しい時は側に居てあげたい。悪友の俺が何とかしてあげたい。

 
「俺が悪者になってもいいから…何か、何かないか……」


世間にバレたらマズイ。チャンミニの言う通り、二人が本気で愛し合ってることがパパラッチされたら事務所ごと相当マズイことになると思う。必ず糾弾される。きっと蔑みを受ける。そんなチャンミニとユノヒョンの愛はやっぱり間違ってるのかもしれない。



でも間違ってるからって、愛には正解もないんだぜ?





「お、、」


物思いに耽っていると、一枚の画像に目が止まった。けっこう前の写真。TOHOSINKIが再始動してすぐ辺り、同じ局でチャンミニとばったり会って、その時冗談で撮ったもの。人通りの激しい楽屋前の廊下で突然、チャンミニからポーズを提案してきた。
 

『僕らがこんなに仲いいってこと、見せつけてやろうよ』

『あはははっ!いいよ。って誰にだよ。笑』

『…。皆にっ。笑』


そう言ってチャンミニは俺の肩を抱いて頬にキスしようとするポーズでキメて、シャッターを切らせた。ただのおふざけだし、まさかその後、チャンミニとユノヒョンが付き合うなんて考えてもいなかったから。  

…でも、今思えば、あの時……、


「……。ぁあああ~、カラムかっ!だからかっ!!」


新人グループのTHE BOSSもTOHOSINKIと同時期にカムバックして、よく歌番組で競演してた。そのメンバーのカラムは熱狂的なユノペンで、きっとTOHOSINKIの楽屋にも来たはず。チャンミニはどう思った?


「…そうだよ……そうだ…カラムの動画見せた時だって固まってた……」


居心地悪くて、廊下に飛び出したか。


「だっはっはっはっはっ!そうだ!絶対そうだろ!?当て付けじゃんっ。てか俺、ダシにされただけじゃん!あいつめ!笑」


何?俺とふざけてた姿がユノヒョンの耳に入ればいいとでも思った?ユノヒョンの反応を伺おうとした?だとしたら本当に正真正銘の天の邪鬼。素直じゃない。


「素直じゃないな、チャンミニ…」


だけれども。




とてつもない熱量に当てられる。



あのハンサムな顔面で、冷静な脳の裏に隠された、

嫉妬。やけくそ。捨て鉢。情念。
執着。独占欲。
嘘を吐いてまで突き放した激情。



どれもこれも焼け焦げそう






チャンミニの愛は綺麗じゃないけど、間違いじゃない。





「人間臭くて…なあ?そうだよ……」




ユノヒョンも聞き分け良く身を引くんじゃなくて、嫉妬したらいいんだ。腹立てて怒って、醜い感情でチャンミニにぶち当たればいい。勘違いだっていいから。そうやって戦い合うように火花を散らして、また正解のない愛を二人で模索したらいい。

起爆剤を投下。さあ、どうなる?二人。


「……。わ…悪者どころか殺されるかもしれない…っ。けど俺。ははっ。涙」


お節介を承知でチャンミニに電話をかけた。ダメ元で聞く気のなかった耳がチャンミニの声を拾ったせいで、妙にテンションが上がる。久しぶりの親友の声。


『キュヒョナ?』

「、おっ。アンニョー!チャンミナア!お前最近どこにいるんだよ、全然部屋にいないだろっ」

『ぁ……ま…今日は、釜山…』

「あー、映画祭?俺も3日前に出席したわ」

『そう。あと6集のサイン会』

「ふーん、お疲れ。ユノヒョンも?」

『もちろん』

「そっか。ところで今から懐かしぃ~い俺たちの写真、公式Twitterに上げるからさ、後で見ろよ」

『おお~、いつの?』

「秘密ー♪さっきスマホ見てて発掘したっ。そうだな…チャンミンペンに怒られるやつ♪まあせいぜい、お前もユノヒョンに問い詰められて怒られろ。笑」


離れてしまってつべこべ言える筋合いがない今より。この、想いが熟しそうな熱っぽい関係の時の失態の方が効果を期待できるような気がした。

とにかくもう一度、話し合え。ユノヒョンと。


『……』

「チャンミニ?」

『もうそんな事ないよ』

「あるって。絶対ある」

『覚えてないんだから』

「…。ん?何が?」

『うまくいったんだ、全部』

「は?」

『キュヒョナありがとう。僕ももう大丈夫だから』

「嘘つけ」

『最近ちょっと忙しいから…また落ち着いたら一緒に飲もう、楽しく』

「…」

『じゃあそろそろ支度しないといけないから切るよ。良い一日を、キュヒョナ』


いつもは『サランへ』と友情を伝えてくれるチャンミニが、『良い一日を』なんて格好つけた言い方してきた。えらく紳士的なその表現を使う人物を俺はよく知ってるはずなのに、すぐには思い出せない。


「俺くらいには全部言えよ。お前の男だよ、俺は」


チャンミニの事はすべて知ってる。この前の雑誌のインタビューにだってそう豪語した。自信がある。

チャンミニは苦しんでる。


『だから…大丈夫だって。本当。ありがとね、じゃ』

「……」


俺の応答を待たず通話を切るチャンミニはやはり普段のチャンミニじゃなかった。どこか後ろめたい影を伸ばして逃げた親友は、“俺の男”じゃなかった。


「寂しい……寂しいよ、チャンミニ…」


寂しくて、腹が立つ。


悲しくて、寂しい。




「俺のチャンミニどこだよ…」


『あんな昔の写真、アげるなんて!鬼だキュヒョナは!』なんて怒りながら、密かにユノヒョンの反応を期待してるチャンミニの弾んだ声音の電話があることに望みを賭けてTwitterを起動させた。だけど投稿し終わってもチャンミニからのレスポンスはなかった。何も。

リツイートと“いいね”の数だけ急速に増え続けながら、チャンミニの声は返ってこなかった。




















______C.side______







「チャンミナ、さっきスタイリストからキュヒョンのTwitter?って言うのか?見せてもらったんだけど」

「え…っ、」


夜。ウェスティン朝鮮ホテルの控え室でディオールのタキシードを纏いながらユノヒョンが静かに切り出した。僕が切り出さない限りそんな情報も知らないだろうと高を括っていたから、正直飛び上がるほどビックリして無意識に息を潜めた。

恐怖と同時に、期待。全く出所が分からないこの感情が表現し難い。ただはっきり分かったのは、夜会用の濃いメイクを施された端正なユノヒョンの不機嫌そうな面持ち。それが冷たさをもろに放っている。


「チャンミナと二人で写ってるやつ。二年前のってコメント書いてあったけど、お前もう見た?」

「ぁ、いや、と、…はい。まあ…」

「チャンミナが許可したの?」

「ゃ、後で確認してって言われて…それで見て…」


僕は動揺し、期待してる。何かを。

目線をしっかり合わせてくるユノヒョンに。


「キュヒョンと仲いいのは分かってるから、やるなとは言わないけど。ああいう写真は露出するべきじゃない。スジュは番組でもステージでも盛り上げるためにメンバー同士でキスくらいするけど、うちはそういうカラーじゃないんだから」


でもあんまり期待外れで、期待してしまった分ごっそり心がえぐられる。虚しさが猛烈に胸を走り回る。実体のないものの暴走に、不確かが否めなくて気持ち悪い。


「やっぱりTOHOSINKIとしてのブランドはきちんと守らないと。この間キュヒョンとコラボしたSMTの演出もさ、~~、~~、」


聴けば聴くほど罰に晒されてしまうから、脳が拒否反応を起こしてユノヒョンの話す内容が入ってこない。がらんどうな胸の真ん中が苦しい。

でもこのまま進んでいくことを。
選択をしたのは、僕。
ユノヒョンのせいじゃない。


「キュヒョンにも言っとけ、やり過ぎだって。冗談でもコンセプトの邪魔になる。今大事な時期だろ。やるなら非公開で、内輪でふざけろよ」


最後にそう言い終えて、カフスを着けるか着けないかの話題に変えた今夜のユノヒョンはとんでもなくキマっていて、不健康に痩せ細った体躯にも関わらず上質なタキシードを着こなす。前髪を上げたセットのせいではっきり見せる鋭い輪郭さえ洗練された印象を与えてる。


「行くぞ」

「はい」


それ以降、パーティー会場での観賞タイムでも歓談タイムでも会話らしい会話はしてくれなかった。

ユノヒョンは確かに怒っていた。けれどそれは、僕の怯え期待した怒りじゃなかった。『TOHOSINKIとして相応しくない姿を大衆にお見せしてしまった』、そういう、リーダーとしての純粋な憤慨だった。


ゴールドのシャンパングラスを片手に僕はただ、愛想良く業界人と語らうユノヒョンの背中を眺めるしかない。積極的でオープンなユノヒョンは次々と人を惹き寄せ、華やかに穏やかに笑う。僕へ振り向きもしない。

ユノヒョンも誰も苦しめないこの道が、




すごく寂しい。







すごく寂しくて、苦しい。










「…っ、」


僕は弱くなってしまった。
これしきのことが言い返せないんだから。
これしきのことで涙ぐんでしまうんだから。

やっとお開きになると一目散に着替えを済ませた。会場を後にして、宿泊先のホテルに着くと速攻で与えられた自分のスイートルームに逃げ込んだ。
ベランダから一望できる暗い海雲台をほぼ睨み付けながら電話をかける。するとすぐに出てくれる誠実な男。に、一匙分の気持ちを救われる。


『チャンミン?仕事終わった?』

「終、わりました…」

『お疲れ様♪今日も一日、よく頑張ったな?』

「…ぷっ。見えないくせに…。笑」

『見えるよ、心の目で。それに今夜は釜山だろ?会えないから、今日ずっとチャンミンのことお祈りしてた』

「……」


癒される。誤魔化せないほど。
ベランダに出ると、すぐそこで歌う海岸の波音がさらに僕を落ち着かせた。

心地好い闇の海と、ユノヒョンによく似た男の優しさ。


「会えないですかぁ?シウォニヒョンなら飛行機チャーターすれば、すぐ来れる距離でしょ。笑」

『……うん、そうだな。やっぱり今日も会いたいな。今から俺、そっち行くよ』

「は!?え、ウソっ、ウソ!すいません冗談です!」

『今から飛行機はさすがに無理だけど、車でうまく行けば3時間…4時間で行けるはず。じゃあ、ちょっと待ってて。着いたら電話する』

「寝てます!すいません、僕寝たいし!本当にっ、冗談だから、あの…っ、」


ユノヒョンによく似た情熱的なシウォニヒョンなら、本当に来てしまうかもと、今更ながら焦る。


『じゃあ、明日また夜会える?』

「……はい」


しっとりとした、柔らかい声と、


『また抱くからな…お前のこと…』

「、っちょ、だから、その言い方っ。笑」


大人の色気で笑わせてくれる。照れるけど笑える。
そんな芸当できるのはシウォニヒョンくらいだと思う。


『早く帰っておいで。今日電話くれてありがとう、嬉しかった。明日も待ってるから』

「……はい。お休みなさい…」

『お休み、チャンミン。良い夢を』

「良い夢を」


シウォニヒョンの紳士的な挨拶が格好良くて、わざとじゃなくて、自然と真似してしまう。


ユノヒョンに軽蔑された今日の僕はもう捨てた。
持ってても辛いだけだから。





早く来い、明日。







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片割れ chap.12 #10









______Y.side______






呪文をかけたんだ、自分に








気が狂わないように


夢を追いかけ続けられるように







強く


















二度と解けないように




















「……。チャンミナ?」


自室を出てリビングにざっと目を走らせてもチャンミンはいない。人の気配はあるような、ないような。よく分からない。潜んでる。しんとしてる。窓の外を眺めると、今日の日本は平和な青空が広がっている。


「おい、どこだ?」


チャンミンの寝室を覗く前に誰もいない空間に向かって問い掛けると、キッチンから望み通りの声と姿が返ってきた。


「はい、ヒョン……」

「お。ちょっとおいで」


チャンミンはグレーのパーカーとスウェットの格好で、水を注いだグラスを持ったまま言い付け通りにやってくる。短い金色の髪の毛にぼわっと、寝癖をとばした幼い印象の目元に日に日に濃くなるくまが可哀想。人からしたらメイクスタッフでもない限り僅かな影だと感じるかもしれないけど、俺だからよく見える。


「また寝れなかったのか?」

「…さあ……自分でも。。寝てるのか寝てないのか分からなくて……」


その顔に手を近付けても何の抵抗もしなくて、スキンシップが苦手なチャンミンにしては珍しい。くまの刻まれた涙袋を人差し指でそっと押すと、柔らかなチャンミンの皮膚は負荷なく変形した。でも斜め下を見つめる眼球は反応しない。彩りのない光だけを吸収して単純に反射する、大きなガラス玉みたい。


「おい……しっかりしろよ。…どうした?」


俺の声だけがやけに室内で響く。
何か悩みがあるの?だったら相談してほしい。
俺はチャンミンが心配で呼びかけたのに、チャンミンは憐れむように黒目を持ち上げて俺に焦点を合わせた。
違うよ、ソウじゃないだろ。チャンミンが何を考えてるか見ただけで分かるから、先回りして答える。


「俺は大丈夫だよ。言ったろ?寝れないって言っても、これからの活動にワクワクして寝れないだけだし。微熱が続いてたり食欲ないのもそれと同じ原因なんだと思う。なんか、じっとしてられなくて。遠足の前の日の子供みたいだな、俺。笑」


ずっと昔から一緒に居たんだ。
チャンミンの気持ちは、見ただけで……


「ソウじゃなくて…ほんとに僕たち…何もなかったですっけ?」

「は?何が?」

「…………いいえ、…キモチワルイコトイッテスイマセン……ヒョンが楽しそうで、良かった……」

「……」


薄く微笑むチャンミンの気持ちが、分かるようで分からない。目の前に居るのに分からない。危険な。違和感。胸がざわつく。ソウじゃないと。音のない静寂が警鐘を鳴らす。


「なぁ……俺たち……」


でも、

























呪文をかけたんだ、自分に。











「……。そうだっ、午前中は久しぶりに俺たち二人だけでカムバックの相談しよう!マネヒョンも打ち合わせでいないし」


何もなかった。俺たちは今まで通りだ。


「僕は、、帰国する前にもう一回ジム行ってきます…」

「今日も?今日はもう昼過ぎに出発するんだから。帰ったらすぐ忙しくなってゆっくり話もできなくなるぞ」

「でも…」

「ワールドツアーのリハも始まるだろ?舞台監督から色々参考になりそうなライブDVD借りてるから一緒に観よう?良いところは取り入れたいし、チャンミナの意見も聞きたいし。な?」

「……はい」


いつも眠たいって、十分な睡眠が取れないと体調に不安を訴えるチャンミンだから。今はかなりテンションが下がってるはず。俺が上げてやらなきゃ。だって俺は事実絶好調だし。弟を純粋に守りたい。


「大丈夫だよ。大丈夫、チャンミナ。うまくいく。お前はすごく頑張ってるから。ヒョンが保証する。何かあっても必ず良くなる」


そう言いながらDVDプレイヤーを起動させてテレビをつけた。日本の爽やかで賑やかな朝の情報番組が始まってリビングは急に活気を取り戻した。振り返って何気なくチャンミンに聞く。


「悩みがあるなら言ってみな?」


すると大きな瞳はみるみる涙に濡れてきらり、それはとても綺麗な光彩を放ったけど。チャンミンがまるで俺をあやすように見当違いなことをまた言い出すから、そこで輝きは霞んでまた消えた。


「ヒョンも苦しまないで良かった……」


良かったって何だろう。
俺は何も苦しんでない。底なしのやる気に燃え上がっているっていうのに。よく分からない。
最近ずっとこうだ。チャンミンのことが分からなくなって、だから苦手意識が芽生えてしまってたんだ。
もっと分かり合わないと、俺たち。


「そんな風には感じてないけど、俺は…今、正直怖い。今回の活動は去年の再始動のブランドイメージをもう一度直球でアピールしていくしかないし、もしそれが抵評価されたらって考えると、、怖い…。でもその時は真摯に受け止めて、さらに練習してまた新しいアプローチの仕方を見つけなきゃって思ってる。俺に他のことを考えてる暇はない」

「あんたは本当…そればっかりだ。…でもだから。だから僕は……」


チャンミンがついに溢れてしまった涙を笑いながら流すから、急いで駆け寄って掬い取った。とてつもなく胸が締め付けられて。見てられなくて。


「……何?『だから僕は』……?」




今まさに、苦しくて。







「“今のユノヒョン”についていきます」

「…」


そんなこと言われたら、もう苦しいなんて言えない。なんで苦しいのかも、うまく説明できないのに。格好悪い。兄として。


「…おう!信じて。チャンミナと二人で名前だけだけど、それでも一応俺はリーダーだから」


これが正解。迷いを拭い去るように少し強引にチャンミンの手を引いてDVD観賞を勧める。


「TOHOSINKIをより輝かせようっ」

「ですよね」


反動のせいか。


グラスの水がボダッと、溢れた。





























______C.side______







これが













僕の罰か








「チャンミン。ユ…、ユノの様子……」

「……分かってます」

「…っ。あいつ絶対おかしいぞ…っ…危ない、アレは……」


金浦空港から帰る車の中で、マネヒョンは困り果ててた。でも何が困るっていうんだろう。


「記憶喪失、の一種、なのか…?」

「……知りませんよ。でも僕とのことは綺麗さっぱり抜けてるみたいでしたね……」

「とにかく、、ユノにはうまく言っておくから日本の宿舎は別にしよう。お前が辛いだろ!?次に来日するまで時間もあるから用意させておく…!」

「…。いえ、このままで。ユノヒョンがそうしろと言うなら僕はヒョンに従います。変に刺激してユノヒョンの夢の邪魔になることまで思い出すような変化をつけないで下さい。僕も活動に集中します。どうせ彼女もいませんし」


これが最良だ。全ての都合が良い。


「やっぱりお前……。はぁ、っ、、……しかし、、ユノも、いつまで経っても食べないし寝ないし……顔つきはどんどん悪くなってるし……、、でも…っ………お前達を…」

「元サヤに戻ろうなんて思ってません、安心して下さい。マネヒョン、大丈夫です。どんなコンディションでもユノヒョンは魅せてくれます。何があっても必ずステージに真摯に向き合います。それは僕も同じです。このまま突き進みます」


もうちょっと。

もうちょっと頑張れ、僕。


「っ、大丈夫なのか本当に…!?」

「ユノヒョン、疲れてそうだけど楽しそうですよ。ただ連絡を取って欲しい方々がいます。その方達に何気ないサポートをお願いして下さい。いいですか、あくまで然り気無くと念押しして。ユノヒョンは心配されるのを嫌がります。力を抜いてと言っても抜かない人です。いつも全力投球で夢追う姿が格好良くて、だから僕は男だけど恋しました」


矢継ぎ早に言えることを言い切る。



また、





過呼吸になりそう





「チャンミン、すまん…っ!!」

「謝って欲しいんじゃないんです。ユノヒョンが俺を信じてって言ってました。だから僕たち信じましょう、そういう事です」


呼吸が浅い。うまく息できない。ヤバい。
夕焼けの空はこんなにも清々しいのに。闇の気配。ぐんぐんと。視界が狭くなる。
足掻かなければ。今度こそ溺れ死ぬ。
死ぬ訳にはいかない。TOHOSINKIがある。


「、っ、僕もさらに頑張ります…!すいません、家帰る前にジム寄っていきたいです、、。体動かしたい…!」






































そこからどう到着して、しっかりウェアに着替えて運動してたのか。





「……ミン、おい!チャンミン!!」

「………ん…」

「何時間バイク乗るつもりだ?物凄い汗だぞ、せめて水は飲んで。俺が心配だから」


額に冷たくて気持ちいいキラキラしたものが当たってた。ペットボトルだった。透明な。青いキャップの。


「チャンミン、色々大変だったみたいだな?」

「…………シウォニ…ヒョン……」


ミネラルウォーターを差し出して傍らに立っているのはシウォニヒョンだった。笑顔で満ちた穏やかな、ユノヒョンによく似た優しさの灯るその慈愛で。


「でも大丈夫。俺が居るよ」

「シウォ…、っ、、、」




僕はもういっぱいいっぱいで。






一人ではもうとても立てなくて。







もう無理。







もう駄目。誰か居ないと、












「おいで、チャンミン」






誰か居ないと、
 

ユノヒョンと同じ夢をみれない。













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片割れ chap.12 #9









______C.side______






僕は今、





どこに立っているんだろう。










「チャンミン……ごめんなっ…、、」


マネヒョンがさっきから僕のために一頻り謝ってむせび泣いてくれてる。マネヒョンは何も悪くないのに。


「俺が……俺は本当……何も…っ、分かってやれなくて……チャンミンを一人で苦しめたな……、、」

「そんなこと、ないですよ…」

「…っ、お前って奴は本当に…っ、」


ユノを諦められない僕が悪いのに。
僕の想いがこんなにも周りの大切な人達を悩ませ怒らせ泣かせてしまう。きっと僕が未熟だから。


「……マネヒョンはいつも……」


僕たちのことでもう誰も苦しまないで。


人の痛みが分かる、大人に早くなりたい。


「僕たちのことを一番に考えてくれていて…僕たちのこともお互いのためだと思って尽力してくれたんですよね……こんな格好いいマネヒョン、滅多にいません。自慢のマネージャーです」


幻想は所詮幻想で、捨てなければいけない。
ユノとはもう戻れない。認めなければいけない。
果てしない闇の中だとしても。


「俺のことなんかに気を使うな!もっと自分を労って…っ、俺は結局何もしてやれない木偶の坊なんだから怨み言でも悪態でも…何でも吐き出せ!頼むから…!これ以上自分を追い詰めるなっ」


大丈夫。思い出さえあれば立ってられる。
立ってさえいれば夢をみれる。
ユノ“ヒョン”とTOHOSINKIを続けていける。

ただ闇のおかげで、


「木偶の坊なんて…。僕はマネヒョンを頼りにしてます。だから頼んだじゃないですか。僕の言動がおかしい時は今みたいに教えて下さい、助かりました。自分じゃもう分かんないんです、本当に」

「チャンミン…!」










逆さに立ってるのか
真横に立ってるのか
正常に立ってるのか、
どこにどう立ってるのか、分からないけれど。

















「何してんの…?」





「!ユノ…っ、」

「ユノヒョン……」


声のした扉を振り向くとユノヒョンがこちらを覗きこみながら中へ入ってくるところだった。迷いなく僕に近付いてくる。僕は距離感が掴めなくて後退り。それなのに構わず手を取られて動けない。


「チャンミナ、大丈夫か?体調悪いだろ?今日はもう食べに行かずにすぐ宿舎に帰ろう?」

「や、でも、鍋…」

「また明日にでも行けばいいだろ。マネヒョン、今日は帰ろう。支度頼む」


無遠慮に僕の顔へ触れてくる掌を避けようと横に向いても追ってくる。掴まれて引き戻された目の前に心配そうなユノヒョンの鋭い瞳。頬にユノヒョンの体温。手首にユノヒョンの力強さ。睫毛がユノヒョンの指先に当たってしなる。近い。感じる。ユノそのもの。恋しくて。


「っ、マネヒョン!」


恋しくて。


認めなければいけない。
もう終わったことなんだ。


「こっちの、日本の宿舎もユノヒョンと別々にしてもらえませんかっ」

 


血の涙が溢れても闇ならどうせ分からない。




「はあ…?なんで。そんな必要ないだろ」


苦虫を噛み潰したような顔のまま僕を見つめるマネヒョンより先に、ユノヒョンが少し怒って問い返してきた。いや、本気で苛立ったのを抑えて対応した。そんな感じ。そういうエネルギーの流れが僕には見えて、ますます怯みそうになるのを堪える。


「…、、必要あるでしょ。何がどうあれ僕たち付き合ってたんですよ。別れても同じ宿舎にいたら、お互いの情に流されてすぐヤっちゃいますって。そんな微妙な関係、ユノヒョンも嫌でしょう?」

「…………、は、あ…っ?」


ユノヒョンにそうならない自信があると言われても、僕は自信ない。そういう目で見ないと誓われても、僕は誓えない。ユノヒョンが正しい幸せへと向かう時、僕は絶対誘惑する。行かないでと縋りついてしまう。
身体だけでも繋ぎ直せないか。もう一度、もう一度。その内また求める。一瞬だけ。この時間だけ。一日だけ。時間までも。心までも。幸福までも。不甲斐ない僕はまた繋ぎ止めようとするから。全部水の泡になる。


「な…何言ってんの、お前……俺たち男同士だぞ…っ」

「、、、え…?」







初めは聞き間違えかなって、






思ったほど。




次に芝居かとも思った。


まともに見捉えたユノヒョンは目線を逸らして狼狽えながら、でもはっきり言った。捕らわれてた手も頬も顎もすでに自由になってる。


「ヤるなんてできるわけないだろ。それにチャンドリは大事なメンバーで弟なんだから、今までもこれからもそんな事絶対俺はしない」

「……は、」



思い出だけそっと。





二人の奥深い所で大事に





大事に持って……あれば立て…








「そもそも好きになったことも付き合ったこともないだろ?俺たちソッチじゃないんだから。ずっと本当の兄弟みたいに暮らしてきたのに、今さら心配する意味が分からない」

「…………」


闇は闇でも











白い闇だった





真っ白い、白紙の闇





二人の思い出はどこ?見えない。
ユノがいなければ僕もいない。
誰もいない空っぽの思い出。




「ユ……、…ユノ…?俺は、、そういう仕返しみたいなこと言う奴は好きじゃない…っ。お前らしくない、どうした…?なあ?」

「マネヒョンは黙ってて。チャンミナはモテるし年頃だし、韓国ではプライベートな時間を楽しみたいのは分かるけど。でも日本にいる時は目標に向かって無駄は省けよ。俺と別居するのは賛成できない。ヒョンは許可できない」



どうしよう














立てない






















______Y.side______






突然チャンミンが俺の見た夢そのままを言うから心臓が飛び出るくらいビックリした。俺がチャンミンを好きになってチャンミンがそれを許して……あんなとんでもない内容を俺はもしかしたら寝ぼけてる間にでも誰かに、もしくはチャンミン本人に喋ってしまったんだろうか。だから不安がってるのかもしれない。


ナンデモシテアゲタイ


この妙な感情は違う。現実じゃない。
俺がしっかりしなくちゃいけない。
日本でも別々に暮らすのは逆にチャンミンの不安を煽るだけだ。今のギクシャクした距離も解消されない。


「チャンミナ、宿舎に帰ろう」


そう思い直して、ぼおーっと焦点の合ってないチャンミンの肩を揺すりながらなるべく笑顔で話し掛けた。マネヒョンには聞こえないように。人前で堂々とは、やっぱり男同士だし照れくさい。


「お前がイヤならさ、やっぱりキスも止めよう?な?」

「……キ…?」

「『二人で前を向いて歩いていける方法』。済洲島で昔、二人で決めたろ?」


そういえば何年もしてない決意表明のような男同士のキス。何でだっけ。確か。。
もう決心はできたから必要ないってチャンミンに言われてからか。懐かしい。
そして俺と同じこと呟くチャンミンにホッとした。


「…ぁ……懐かしぃ………ところで最後のキスは…いつでしたっけ……」

「えーと、、、うーん、、忘れたっ!あははっ」

「覚えてない…です……?」

「あ!二人で初めてステージに立てた時?か?」

「……」

「もうわざわざあんな事しなくても、俺たちはしっかりした信頼関係があるんだから。これからもヒョンを信じて、ついてきて、チャンミナ」

「はい……」

「マネヒョンより俺に頼れ。絶対守るから」

「はい……」

「これからも一緒に住むよな?」

「はい……」

「良かった」

「はい……」


良かった。
チャンミンの素直さに自然と笑みが漏れた。






良かった。



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