片割れ chap.10 #28








______Hana.side______201X年






「ハナせんせーいっ!」
「ハナ先生、今日もお話よんでっ」
「おひるねのジカンになっちゃう。早く早く!」


軽やかな子ども達の声が、今日もころころ足元にじゃれてくる。


「いいよぉ♪今日は何がいいかな??」


木漏れ日の射す、真夏の昼下がり。蝉の鳴き声と暑い陽気に負けない、生命の集合体のような素直な心の持ち主たち。


「あたし、シンデレラがいい!」
「えー、オレそんな女っぽいのヤだ」
「猫がりょこうするお話ききたい」
「ぼく何でもいい…」


それでも一人一人が違う性格を持ち、違う考えを持ち、違う魂を一つずつ胸に持っている。


「あ、じゃあまたハナ先生が考えたお話!」
「それがいいっ♪」
「ハナ先生、お話考えてよ」

「あははっ。また先生のお話でいいの?」

「「「「うんっ!」」」」


保育園のお昼寝タイムの前の少し空いた時間、子ども達に本の読み聞かせをする。
皆の要望の本が揉めた時たまたま作った創作の話がうけて、それから子ども達は揉める度私の話を請うようになった。


「う~ん、じゃあ今日はどうしよかなぁ…」


子ども達から教室の外へと目線を移し、炎天下の園庭をぼんやり眺める。陽炎(かげろう)が揺らめく向こうの先に、自分の信念を見た。


「そうね、、」






ちょうどこの時期だった


あの地獄の季節は






「……みんな、サランって…分かる?」


「分かるかも。うちのパパがいつもママにサランヘって言ってる」
「好きってことだよね、大好きってこと?」
「サラン♪サラン♪」


「そう♪じゃあ人が昔、どんなカタチをしてたか知ってる?」


「赤ちゃん!」
「すっごいちっちゃかった!」
「僕しってるよ!?サルだった!」
「虫みたいなかたちっ」


「じゃあもっともっと!昔の昔はどうだったと思う?人もゾウも恐竜もクジラも、海も山も土もみんな一緒に暮らしてて、その上で神様達が見守ってくれながら生きていた頃のお話」


「「えーー!」」
「そんなに昔はわかんかいっ」


「ふふっ、あくまでも先生の作った物語だからね?昔は人ってね、……二人で一つにくっついていたの」


「「えーーーー」」
「「すごぉい!」」


園児を二人、背中合わせにしてそれを見せた。疑ったり感心したり想像がつかなかったり、皆それぞれの反応を見せてくれる。
この寓話を、無垢な魂はどう受け取るんだろう?


「…だから人間は、今の人間よりもっともっと色んなことができたの。前も後ろも見えたし、どちらにも歩けたし。誰かとお話をしながらもう片方で絵本だって読めたのよ」


「何でもできるんだ…」


「そうよ?片方が面白いことを考えたらもう片方がまた一つ面白いことを考えて。片方が悪いことを考えてしまったら、もう片方が良いことを考えて叱って。いつも一つに暮らしてたの」


「たのしそう♪」
「そっちの方がいいじゃん!」
「むてきってこと?」
「あたしピアノひきながらテレビみたいっ」


「うん、何でもできるからね。すごいの。でもするとね、何でもできる神様達が嫌な気持ちになっちゃったの」


「なんで?どうして?」
「悲しいことがあったの?」


「ううん、何も。何も悪いことはしてない。だけど…人があまりにも何でもできてしまうから、いつか抜かされるんじゃないかって神様達が怖がっちゃったの。一番は俺たちなのにって。だから神様達はこうやって……」


くっつけた園児の二人を離して……。
なんだかもうそれだけであの時のことが蘇ってしまう。


「…真ん中で切り裂いて人間を二人にして……今の私たちの体にしたんだって…」


「ええ?痛いよぉぉ~」
「ひどい…」
「ハナ先生、そんな悲しいおはなし嫌だ」
「あー、まじイタそうっ」
「ひどくない?だってめいわくなことしてないんでしょ?」


「……だよね。しかもね、二人に分かれた後、嵐を起こして波でさらって、どの二人が元々くっついてたか分からなくしちゃったの」


「「「「えぇ………」」」」


「…!」


思わず感傷的になってしまって、園児の暗い顔でやっと我に返った。


「いやいや、でもね!そこから、『じゃあ旅をして、もう片方だった自分の人間を見つけよう!』ってみんな立ち上がって探しだしたの」


咳払いをして、本題に入る。


「さて、ではここで問題♪旅に出た人たちは、どうやってその自分の片方を見つけたでしょうか??」

 
「うーん…、、」
「えー」
「かお!」


「顔は頭が後ろでくっついてたからお互い見たことないの」


「あ、そっか…」
「じゃあ声!」
「せ、いかく???」


「おっ、声も性格もあるかもしれない。でもまだ方法があるわよ?」


「え、なに?」
「えー、えー?」
「なんだ…?」


「……それはね、」


私という小さな存在にできることは少ない。

でもできることはやろうと、伝えたいことは伝え続けようと決めたの。








いつか



あの二人が認められる世界を








「…出会った人達の中の一人が、特別に好きだと想う気持ち。それが自分の片方を探す、ヒントになったの」


「きもちでさがせたの?」
「あたしいっぱい好きなこいる!!」
「すきなこが僕のかたっぽなの?」
「すきかぁー…、ふふふっ」


「そうよ、サランで探せるの。だから人を好きになる気持ちをみんな大切にしてね。そのこが……自分と同じ男の子や女の子でも…、何があっても必ず大切に……。だって本当に自分の片方と出会えたら、色んなことができるムテキになれるんだからねっ♪」


「おーたしかに…!」
「あたし男の子も女の子もみんなだいすきだよっ」
「ムテキ、カッコいい!」
「サランってすごいんだね」


「うん…。よしっ、じゃあお昼寝の時間だよ、みんな。電気消すよう♪」


「ハナ先生はもうムテキになったの?」
「ハナ先生の片方はどこ?」


「……いやそれが…、まだ見つからなくて…、、先生は探し中なのっ。先生はまだ探検中です!」


「「「あはははは!!ハナ先生、ファイティン!」」」


「あ、ありがとう…。。でも……」



言ってもいいかな…



「…無敵の二人を、先生の目で見たことはあるのよ?……凄いんだから、本当…。その二人はね………て、あら、、」


今までずっと閉まってた名前を、無邪気な子ども達にならどうか聞いて欲しい。
そう思って切り出そうとしたのに、私の園児たちはすでにあちこちバラけてさっさと大好きな小さい布団へ入っていってしまった。





「……もう。ふふっ、まあいっか」

「そのふたりは、本当にくっついてたの?」

「え」


背後の純潔な声に振り向いて見ると、クラスの男の子が一人。一人だけ立って、無垢な瞳で見上げてきた。大きな二重の栗色の、


「……チャ、…」

「ハナ先生が見た二人は、どんなかたちをしてたの?」

「……」


片方のあの人の瞳にぴったり似てる男の子。


「……私の作った、お話だから…」

「でも先生は見たんでしょ?」

「……まだ誰も信じてくれないの……、」


「何を見たの?」



「…………私が……見たのはね、まあるい…」








今でも覚えてる


神々の怒りをも買うほど















恐ろしいまでに美しい







発光













「…っ、……本当に一つの…っ、完璧な生物だったの…っ、、」



















蘇る熱い何かが、涙へ還って


あの日と同じくまた落ちた。






































______Assistant(Hana).side______地獄の季節










「……な、…んですか…っ、、これ……っ」


発する声が、震える。


「いいから…ちょっと酷すぎて他の奴らには頼めないんだ……。とりあえずユノが日本から帰って来るまでに割れ物だけは全部処理しろ。あと綿とか羽とかは…入れられるだけゴミ袋に納めて。新調する家具はカタログから適当に選んで業者に注文しといてくれ、後でユノがキャッシュで払うって言ってるから領収書はいら…」

「マ、スター……」

「……うん」

「…………ユノさんとチャンミンさんに、、」



血痕なき白い惨殺現場

そんな表現がしっくり似合う



「…っ、何したんですか…!!?」




世にも悲しい宿舎の成り果てだった。




「っ、人聞き悪いこと言うな」


竜の爪で抉ったような、何段もの切り傷が波を成している。カバーの下から飛び出して死んだ、白い羽根と白いクッションスポンジ。



「じゃあ何で部屋がこんな事になってるんですか!!」


マスターに意見する私は間違ってる。責めるべきは彼じゃない。
きっと私はクビになる。




「おかしいじゃないですか!!!」


 


でもね、私はもう



世界の真理に触れられたから





思うがままに動くの





「……別れさせたんですか…!!そうなんですか!!?」


マスターに一歩詰め寄ると散蓄するフェザーの羽根らが朧気に舞い上がった。スリッパの下でジャリリと、陶器製の欠片が砕ける。
マスターが溜め息混じりに話し始めた。


「俺は、その場にいなかったから分からない……。ユノとチャンミンが代表の所へ直談判しに行って……でも実のところ入れ揚げてたのはユノだけでチャンミンはそうでもなかったんだ。良かったよ本当…」

「……そんな訳…っ、ないじゃないですか…っ…!何ですか良かったって……、あんな…二人をっ…引き裂いて……っ、っ」


許せないと思った。
自分のことでもないのに。

なぜ皆見えないんだろう
あの二人の一体感

握り締める拳の内に爪がめり込んで、でも全然痛くなんかない。
目には見えないところが、ただ痛い。


「この前から何言ってんだ?お前。男同士でメンバーなんだぞ!?気持ち悪いだろ」

「だからって何が悪いんですか!?好き合って何が悪いんですか!?利益が下がるとかペンが減るとか…だったら事務所総出で守ってあげればいいじゃないですか!!」


もどかしくて

苦しい


「馬鹿かお前は、現実見ろ!ユノがおかしくなってチャンミンは断り切れなかっただけだ!元は二人共ノーマルで正常な人間なんだよ、間違った方向を正すのは善意だ。……どうしたんだ、本当。しっかりしろよ、全然お前らしくない。普段のお前ならきちんと指示に従って、プライベートもちゃんと現実的に考えてるだろ?」

「ご心配には及びません、教師の彼とはお別れさせて頂きました」

「…。はあ?」

「あんな美しい二人を見たら…、もう利己的な恋愛なんて阿呆臭くてできませんよ」

「……馬鹿だな。もういい、黙って部屋片付けろ」





美しいものを美しいと言って



何が悪いの?





「掃除はやります。ただ辞職と引き換えに口答えはさせて頂きます。マスターの言う通り、私はどうも自分の考えを主張したい、まだ人間らしい人間でいれたみたいです」

「……そうか、受理するよ。冷静さがなければこの仕事はできない。少ないが退職金はできるだけ気持ちを入れる。二人のことは絶対口外するな、念書を書いてくれ」

「分かりました。でも退職金は放棄はします。口外も必ず致しません。ですから聴いて下さい、」



パンドラの匣を開けてしまった。こんなことになってしまって、二人に申し訳なく思う。



でも伝えたい。



きっと二人なら、大丈夫




だって匣の中には一つだけ残った。






常識や利益や悪意に麻痺した
この世界に残ったモノ













それは、希望











「どうか二人に、自由を」





私という小さな存在にできることは少ない。
私が動いたところで何も変わりはしない。


















でも認めます
















私はユノさんとチャンミンさんのことを



認めます














貴方たちの愛は正しい






chap.10終わりです。読んで頂いて本当にありがとうございました。次はコメントのお返事をアップさせて頂いて(やっと…涙)、晩夏からまた始めます。
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片割れ chap.10 #27








______Y.side______






宿舎にもチャンミンのマンションにも帰りたくなかった。宿舎は家具が様変わってるしチャンミンのマンションには男が来るかもしれない。
それに否が応にもチャンミンと目を合わせなきゃいけないから。運転してれば瞳を見なくて済む。


「どこに行くんですか?」


行くあてはない。
ただ車を滑らせて。

どこか遠くへ


「……ガソリン入れてないんで。どこかで入れないと」


チャンミンの言葉でガソリンメーターを見ると、FよりEに近い針が俺に『止めとけ』って警告する。
残念。ふと海を見たいと思ったのに…。


「…いや、……無くなるまで…走ればいいか……」

「え」


明日を投げ出すわけにはいかない。俺達にはペンや家族やマネヒョンやスタッフや後輩や仲間、待ってくれてる人達が沢山いる。

市内の賑やかな大通りが過ぎて、車の通りもほとんど無い所まで来ると後方の安全確認をしてぐるっとUターンした。
そしてまた来た道を戻る。


「道、間違えたんです?」

「……」


間違えた訳じゃなくて、どこにも向かってないだけ。またUターンできる場所を見つけたらそこで曲がって同じ道をぐるぐる進もう。

まるで俺たちみたいでお似合いだろ

数十メートル先までは見えるけど数キロ先は見えない。見慣れた景色は闇に沈んで突き抜けても同じ道。
どこへ行っても同じこと。
何をしようと同じこと。


「ぁ……」


そんな道のりと思いを巡らせていると、チャンミンの手に握られたスマホが震動音を車内に響かせた。それに反応して小さく漏れた優し気な声が気に入らない。


「貸せ」

「ぇ…」


返事を聞かず奪い取ったスマホを何も確認しないで後部座席に投げ捨てた。激怒して降りろ、くらい言われるかと思ったのにチャンミンは探すことも拾うこともせず、諦めたようにシートへ身を埋めてそっぽを向いた。
俺たちはずっと、本当はこのように別々の方向へ向いてたなんだな…。



分からなかった、一寸の疑いもなかった



「……何するんですか、信じられない…」

「そうか」


俺はお前が信じられないよ。
彼女がいることも、遊びまくってることも。俺はチャンミンにとって仕方なく話と身体を合わせてた単なるセフレだったってことも。
それでもこいつの目は綺麗で美しいってことも。


「僕が電話出ないと…たぶんずっと鳴り続けますよ」

「鳴らせとけよ。どうでもいい」


チャンミンの言う通り、そう間隔を空けず何度も何度も後ろから感じる震動音はひどくチャンミンを求めていて、


「……」


もしかしたら俺と同じような奴なのかもしれないと思うと胸が締め付けられた。


こっちを向いて欲しくて

必死で

チャンミンのことを想う数多の男や女達


「…っ、ああ!!…クソっ!!……面倒くさ…っ、」


こんな感情いらない。
全部無くなればいい。

煩い。煩い。


「くそっ!!!」

「…、…」


フロントガラスに一喝してもチャンミンはびくっと一度肩を震わせただけ。そっぽを向いたまま。
何も響かない。

それでもまたココから、

チャンミンが俺だけを見てくれる可能性はないかと密かに探してる俺が一番面倒くさい。


在るわけないのに


「ユノヒョン…」

 
メーカーは限りなくエンプティに近付いている。
しばらくすると警告サインとアラート音が鳴り出した。緊迫感を強調する通知音が車内を染め上げる。


「……ヒョン、ガソリン…」

「入れなくていい」

「車止まっちゃうじゃないですか……」

「止まればいい」


ガソリンが無くなるまで。
空っぽに干からびて、Eになるまで。
自動的に止まってしまうまで。


チャンミンを想う気持ちがEになるまで






走り続けた。

















______C.side______







すぐにユノが、

スマホで会話してた内容を聞いてた事と電話の相手を勘違いしてることに気付いた。さっきの素っ気ない態度とは正反対の、高ぶり捲し立てるユノを見て、







考えた。






「俺も諦めつかないから…!、、頼む。。彼女さん、大事にしてあげて……」






僕がふしだらに写れば写るほど、


ユノは僕を嫌悪して
忘れられないんじゃないかって




この人は純粋だから






「……ユノ、ヒョンなら…誰でも好きになってくれるでしょう?僕のことなんて、…すぐ忘れるでしょ……?」

「毎日顔合わせてて忘れる訳ないだろ!!!それよりさっきの奴と縁切れ、早く」

「……」





愛してくれなくていい
僕はユノの夢には敵わない
遅かれ早かれ別れを宣告される

嫌われても憎まれても
でもとにかくユノにサヨナラされたくない 

忘れないで
他へ行かないで


ユノの翼をへし折って、
ここに留まってくれたらいい




「……嫌です。これからその人のとこ行くんですから…っ、、」


イェソニヒョンに、

感謝すらした。


キュヒョン達の電話がなかったら、今こうしてユノが僕の車に乗り込んでくることはまずなかった。後ですぐバレる子供騙しだけど。
巧みに言葉を選んで、嘘はつかないように。

嘘は切なくなるばかりだから


「行かせない」


がちゃがちゃ発進の準備を始めるユノの姿が
、こんなこと思ってしまっていいのか分からないけど、、、嬉しい…。

思わず笑みが漏れて、慌てて無感情を装った。


「行かせないって、どうするつもりですか?」






ユノ




僕、嬉しい






「車出すぞ」

「……ユノヒョンも、約束あったんじゃないですか?」

「もういい。お前のこと、放っとけない」





嬉しい



ユノはまだここに居てくれる






溜め息をつくユノでも睨みを効かすユノでも、僕のことしか見えないユノなら何でも嬉しい。



目的地はどこだろう?

宿舎か僕のマンションか。
説教なんて色気ないのは嫌だ。
むしろユノの激情の波に乗って押し倒されたい。
それなら尚良い。肉体を繋げればさらにユノは離れていかない気がする。


「……」


でもそんな事しないか…
だってユノだもん…

一瞬過った期待は泡のように消えて、予想通り車はどちらにも向かわず流れていく。


「……ガソリン入れてないんで。どこかで入れないと」


遠くへ行くなら給油しなければならない。
でもユノは必要ないって言う。

残念。ふと海が見たいと思ったのに。

僕たちは何も喋らずただ前を見てた。密かに僕は一分一秒を噛みしめるように、ユノと居れることを感謝した。

本当にどこに行くんだろう?そんな思いを巡らせた途端、車は大きく右折して元来た道へ。


「……道、間違えたんです……?」


ユノがやろうとしてる事が何となく分かって、聞いた返事が返って来ないことでそれは確信へ変わった。


僕たちはこの先、
合わさることもなければ離れることもできない。

共に生きれば皆が苦しむ。夢の足枷になる。
だけど僕たちは夢を共に歩んでいく。

ユノは僕を捨てられる。
僕はユノを追い求め続ける。

行ったり来たりを繰り返す、
この車のようなものなんだ。

でも物語には必ず終わりがある。
ユノは二人の物語を終わらせようとしてる。


「……」


嫌だな……
どうにかユノを引き留められないか

歪む顔を見られたくなくて頭をサイドガラスへ傾けた。サイドミラーに一部分映る僕は酷い顔してる。悪い顔してる。醜い僕の内面があからさまに浮かんでる。

異変に気付いたらしいキュヒョンからの着信に出ようか迷う。これに出たらこの旅はおしまい。
僕たちは終わる。


「貸せ」

「ぇ…」


それを持ち越すかのように僕のスマホをユノが放り投げて、ユノは段々また怒り出した。


「…っ、ああ!…クソっ!!……面倒くさ…っ、」 

「……」

「くそっ!!!」

「……っ、、」


ユノももしかしたら、僕と同じくらいの想いで、この逃れられない道のりに歯痒さを感じてくれてるのかなって思ったら。

無性に泣きたくなった。












だってこんなに、好きなのに









「ヒョン、ガソリン…っ、、…」

「入れなくていい」











愛してるのに











「車、止、まっちゃうじゃないですか……、」

「止まればいい」












なんでユノと僕じゃ駄目なの?












「警告音……うるさ……っ、」

「……そうだな」





誰か、僕たちのこと認めて


お願い……



認めてくれませんか?











これからもたくさん、頑張りますから



精一杯努力しますから











お願いします


誰か、お願い





お願いします




















誰に頼んでいるのか、誰にも届かない懇願を胸に叫び続けた。





片割れ chap.10
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片割れ chap.10 #26









この感情は煩い。

ドラムとシンバルとピアノとエレキギター、低音から高音まで行ったり来たり。
渦でも波でも何も、形成しない。
ぐちゃぐちゃに鳴り響いてる。


当たり散らした宿舎。数日後には新しい家具を適当に配置してもらえて。

うん、良かった。
また暴れ出さないように抑えなきゃ。

そんなこと考えた自分を鼻で笑った。
だって敵なんていない、自分のことだから自分が何もしなきゃ何も起こらないんだから。

キッチンにある物は処分した。新しく買わないようにと、マネヒョンにお願いした。お手伝いさんにも食事の用意は断った。
ご飯なら外へ行けば食べられるから。飲み物ならペットボトルからそのまま飲めばいいから。
これからは部屋のあらゆるドアをいくらでも閉め忘れたっていい。


チャンミンはもう居ないから







『ぁっ…!』


リビングのソファーから振り向いたキッチンにはチャンミンが居て、まな板と料理本を真剣に眺めてる。なんかちょっと可愛い。
そのままじっと見てると、みるみる悔しそうな顔が実った。
何か失敗したのかなって、でも俺全然気にしないんだけどな、辛過ぎなければって思ってると、こっちを見上げたチャンミンが口を真一文字にして睨んできた。


『……何笑ってるの…お?』

『…。は!?』

『めっちゃヘラヘラしてるけど、そんなに僕のミスが嬉しいんすか……?』

『え、うそうそ、ないない、違う違う!全然笑ってない!』

『ふふっ…いやでもごめんユノ、やっぱり今日ラーメンでもいい?野菜炒め作るつもりだったんだけど、コチュジャン切らしてたっ』

『いや、いいよなくて。てか今日はもうピザでも取ればいいって、チャンミナも疲れてるだろ』

『んー、でもまあ折角作る準備したし。いいです、このままラーメン作っちゃう』

『そうか?』

『うん』


ピザ大好きなのに。チャンミンはそんなに悩まず、また顔を下へ戻してすぱんと玉ねぎを切り出す。
インスタントラーメンの袋をべりりと開ける。


『……』


何てことないチャンミンのその姿に

身体の裏側からふうわり引っ掻かれる、

そんな言い様のない甘い痺れに身悶えた。
 

幸福って、目には見えない。
ある瞬間ふと発見できる感じ。
説明は難しい。他の人にとっては何でもない事の断片でしかないから。

やっと見つけた宝物をそのままずっと見ていたい気持ちと、俺の隣にすぐにでも来て欲しい気持ちとが同じ場所に存在して、何だろう…。
とにかくこっちを向いて、チャンミン。


『ああー~~~~っ♪』


喉を丸めて高らかにビブラートを効かせると、チャンミンはまたこっちを見てくれる。


『……明日のフェス、の発声練習?』

『そう。おおおおお~~~~~♪』


笑いを堪えるチャンミンの口元に嬉しくなって、ちょっと格好つけて腕の振りと一緒にまた低い声を流すとチャンミンはもうダメで。


『ぶっ!!!うふふふふふ、っ、そんな振りないじゃん…っ、くくくくくっ』

『明日これでやってみようかな、ミュージカル風に。チャンミィ~ナァ~~~~♪』

『ぶぅーっ!だっはっはっはっ!!パボだ!この人パボだ!』


倒れて笑いこむのか、ひーひー言いながらチャンミンの姿が消えていったから。
見えないチャンミンに、


『おい、やっぱ今日はもうのんびりしよう?ピザ頼むから一緒にDVD観よう』


隣においでよ、そう思うのに。


『そうだったそうだった、作んなきゃ』

『もういいじゃん、こっち来いよ』


浮上してきた人は目尻をエプロンで抑えて、綺麗なまんまる瞳が埋まるほど大笑いしてた。大きな厚い唇から白い歯と歯茎までずらっと見える。

太陽の光いっぱいの、ひまわり




『いやっ♪なんかもう、楽しくてっ!』


  































今でも信じられない。


本当に全部、嘘だったの……?








「……駄目だ……っ、、ちゃんと、受け入れないと……」


チャンミンにはチャンミンの人生があって。我慢させるより、俺に付き合ってくれた裏でも何でも、自分のしたい恋愛をしっかりしてくれてたならそれでいい。
女の子や男と出会って、色んな経験を積んで。それで可愛い彼女ができたんならヒョンとして応援する。

しなきゃ正義じゃない。


チャンミンのことを一番に考えて…
考えて……ちゃんとチャンミンの幸せを、


一番に……




自分の気持ちを圧し殺して必死で納得して、どうして何故、うなされる夜は続いて。
納得して納得して。
次の日会って隣に座るチャンミンの手を見ると、どんな人達に触れて嬉しくなったんだろうとか、この大きな瞳には俺の知らない輝きで見つめる相手がいるんだ…とか、そんなのばかり考えてしまう。
ひたすら目の前の仕事だけに集中してこなして横に居るチャンミンは仕事仲間と割り切って。女々しい想いを振り切って。

そしてまた納得する。すがってそれでも駄目だった、それが現実なんだって。





「ヒョンも来てくれないですか?今日は、荷物の整理が大変そうで…」

「悪い。俺今日約束あるから」


チャンミンは気まずくならないように今まで通り接してくれるのに、ごめん…。
もうつらいとか苦しいとかじゃなくて、痛くて仕方ないんだよ。


チャンミンを先に新しい住居へ帰らせて、十分時間を空けてから約束のレストランへ向かう。ミーティングルームを出たところで今夜約束した仲間達にスマホで連絡して、やっぱり今日はちょっと具合が悪いから…と口から溢れる台詞が歩く足とあべこべだ。


『ユノ大丈夫?今日はゆっくり休みなよ』

「あ、おう。。…悪い、また…日を改めて会おうな……」


心と身体はバラバラで、


「やっぱり、、…今からでも、チャンミナの手伝い……行こうかな……俺も車で来たし、行けるしな…」


他に相手がいるって散々自分に言い聞かせても、傍に居たくて。隣に居て欲しくて。


「…っ。すっ…げー格好悪い…っ、俺……」


チャンミンは俺を見ないのに。

惨めだ、面倒くさがられる、止めろって思うのに手の中のスマホはチャンミンのダイヤルナンバーを探し始める。頭はチャンミンのマンションへ行く道順を確認してる。
足は軽快に動いて、駐車場へすでに着いてしまった。


「へ……」


そこにはとっくに帰ったはずのチャンミンが何故かまだいて、


「うん、やる。いつでも相手になるよ」


誰かとスマホで通話してた。
俺のことなんて全く気付いてない。夜の空を見上げて柔らかに微笑んでる。


「……」


今までずっとここで電話してたの?その相手と。


「ふふっ、今日っすか?いいですよ、でもさすがに少しは寝かせて下さいよぉ」

「……チャ…、」


お前今日引っ越した荷物片付けるんだよな?
チャンミンの返事が妙に甘ったるい猫なで声に聞こえて、胸の黒い霧が一面に濃く出てくる。
ざわざわと。

鳴る。


「……」


何をヤルって言ってる?
少しは寝かせてって………何、それ……


「もちろん受けますって、楽しみにしてます♪」

「…………」






ナニ、ソレ






毎夜必死で押し込めてる性に淫らなチャンミンの現実や自分のおぞましい感情が芽吹いて、




「…っっ、」




車に乗り込もうとしているチャンミンの肩を勢いのまま突き飛ばした。
至極簡単に助手席まで倒れこんだチャンミンの隣に座り込んだけど収まらない。怒り。


「…、っつー…、、」


衝撃で痛がるチャンミンを上の空にぼんやりハンドルを見つめて考えた。


「……」


こいつは、マンネだけど、メンバーだけど、優しいけど。
本当はどうしようもないヤリチン野郎で、俺がいても彼女がいても男女構わず他の人間と快楽を共有できる頭がイカれた奴なんだ。


「何なの、お前…っ」


全然分からんわ、俺。
チャンミンの思考回路が理解できんし分かりとうもない。


「え……」


ゆっくり振り向いて俺を確認するチャンミンの瞳はただ、突然の暴力に怯えて見上げるだけ。
やっぱり俺たちは、繋がってない。


「お前今彼女いるんだよな?幸せなんだよな?今の誰だよ!!?遊んでる男だろ!?」

「え…っ、」


思わず声が張り上がって、チャンミンはさらに怯えてしまう。でも止まらない。


「…っ、大切にしろよ…!!!バレなきゃいいとか…考えずに……その子一人だけ、じゃ駄目なのか?好きなら、、ちゃんと……っ、」





俺ではできなかったことを


せめて、


見せて、






納得させて








解き放って、俺を









「俺も諦めつかないから…!、、頼む。。彼女さん、大事にしてあげて……」



どうして、何故…

どうしてなんだろう



「……ユノ、ヒョンなら…誰でも好きになってくれるでしょう?僕のことなんて、すぐ忘れるでしょ?」

「毎日顔合わせてて忘れる訳ないだろ!!!それよりさっきの奴と縁切れ、早く」



「…………嫌です。これからその人のとこ行くんですから」

「……」







最低






今まで出会った中で最悪の、人間



なのに、どうして






「…行かせない」


いつもそこに閉まってあるチャンミンのカバンを奪い取って見つけたキーを刺してエンジンをかけた。シートベルトを乱雑に引っ張りながら睨み見たチャンミンの目は、どうして……


「行かせないって、どうするつもりですか?」

「……」




なんでこんなに













綺麗なの?





「……車出すぞ」

「…ユノヒョンも約束あったんじゃないですか?」

「もういい。お前のこと、放っとけない」

「……」


ギアをPレンジからDレンジへ。
それ以上チャンミンを見ないように、ひたすら前を向いて。周りの景色と道路に気を配りながらチャンミンの車を発進させた。





きっと俺の目は腐ってしまった










チャンミンの目が


今も変わらず















この世界で最も美しく見えるんだから






片割れ chap.10
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片割れ chap.10 #25









隣にはユノ。
今日の作業が終わって、僕に背中を向け音楽監督さんと談笑してる。


「さて、と…」


ワールドツアーやアルバムの番宣に関する書類を片付けて、スマホでキュヒョンにこれからマンションへ向かう旨を連絡した。引っ越し初日で色々手伝ってくれる。


「チャンミン、今日自分の車か?」

「はい。マンションの駐車場へ置きたいんで自宅から乗ってきました」

「荷物はもう部屋の中に運んであるからな」

「…分かりました」


引っ越し準備はまるごとマネヒョンがやってくれた。一度くらい戻りたかったのにマネヒョンに断固として阻止されて、結局僕は宿舎に全く足を踏み入れず済んでしまった。
別れたと言っても簡単には信じてくれないのが現状か。


「……」


心配しなくても、本当に別れたのにね。


「……。ユノヒョン」

「んー?」


側に僕達を気にする人達がいなくなってから、スマホでゲームをしだすユノに話しかけた。


「…今までお世話になりました」

「うん。頑張れよ」

「ぇ、と…僕の荷物で、無くなって何か困る物なかったですか?」

「大丈夫。何かあれば買い足すから」

「あぁ、すいません……」

「台所用品は自分で買ってくれる?宿舎にあるのはお手伝いさんも使うから」

「あ、はい…マネヒョンにも言われました…」

「そう」

「……」


僕専用の食器や僕が買った料理器具だってあるのに。何故かそれはマネヒョンにも無視された。
でも強く言えない。


「……」


僕はユノにとって『裏切り者』なんだから。


「うまくいってんの?」

「え?」

「彼女さんと」

「…ああ…っ、まあ…」

「じゃあ、幸せなんだな」

「、、」


どこにも行けない僕だけど、


「あ、勘違いするなよ?別に怒ってるわけじゃなくて。俺のせいで今までチャンミナにはすごい負担かけさせたから。今は幸せでいてくれたら本当に嬉しいなって思って」


ユノや皆の前では、
『幸せ』な振りをしなきゃいけない。


「…はい。今すごいラブラブなんですっ。可愛くて仕方ないって言うか、何でもしてあげたくなります。ヒョン、本当にごめんなさい」

「いや謝るの、俺の方だから。チャンミナにとって最低なこと散々してたのに、俺。今まで本当にごめん。あと…ありがとう」


「……」











何これ……





猛烈に、切ない…………










胸の痛みに連動して皺の寄る眉間がつらい。
ユノの見つめる液晶画面のゲームが、
さっきから何も動かさずゲームオーバーを繰り返しててつらい。
自分の大嘘がつらい。
僕たちの幸福な時間が
「最低なこと」に成り下がっててつらい。

「ごめん」がつらい。
「ありがとう」がつらい。



完全に別れのエンドロールみたいな
この感じがつらい。





「……っ。…僕、そろそろ行こうかな、」

「おう。スジュの皆によろしく言っといてな?」


恋人としてのユノは、
これでサヨナラなのがつらい。


「…。あの、良かったら…、ヒョンも来てくれないですか…っ?今日は、荷物の整理が大変そうで…」

「悪い。俺今日約束あるから」

「あ……そ、ですか…じゃあ…」

「うん。お疲れ」








ユノが次の恋へ歩き出しそうで、つらい。








「お疲れ様です……」


事務所の廊下をぼんやりと進みながらユノの事しか考えられない。

ユノは今夜誰と約束したんだろう。
思い切って何気なく聞けば良かった。

男だろうか。女だろうか。
その人はユノを好きなんじゃないだろうか。
男も女も可能性がありそうで何だかとにかく嫌だ。

ユノが誰かと付き合いだしたら、僕は笑ってその話を聞いてられるだろうか。
ユノが結婚したら、僕はその式をぶち壊すことなく大人しく座っていられるだろうか。
ユノに子供ができたら、僕には不可能なその遺伝子の継承を疎むことなく慈しめるだろうか。



僕たちにできなかったことを

静かな地獄で祝福できるだろうか



「……どうしよ…っ、、」



どうすることもない。

ぐるぐるぐるぐる
ぐるぐる回って

僕は幸せな振りをしながらこの地獄で生きていかなければならない。

白旗を上げたからって、二度とユノと会わないわけにはいなかい。


「……行かなきゃ。キュヒョナ待ってる…」


車の前でやっと親友を思い出すと、計ったようにスマホが振動して通話ボタンを押す。


「はい?」

『チャンミニ?今日暑いけど鍋でもいいだろ?リョウクが作ってくれるって。マンション着いたらスジュの部屋来いよ』

「うん…ありがとう。そうする」

『えっと、、話は、いつでも聞くから。チャンミニが言いたい時に……それより皆、お前とゲームしたいって騒いでてさ、煩いからっ。皆、お前が同じマンションに越してきてくれて大喜び!』


キュヒョンにもスジュの皆にも、ユノとは別れたことしか伝えてない。ユノはユノで僕のあまりの非道さに、沈黙せざるを得ないのかもしれない。

とにかく周りの仲間が今、何があったのか知りたい気持ちを押さえて僕達のために気を使ってくれている。


「…うん、やる。いつでも相手になるよ」

『チャンミン??今夜は寝かせないからねー♪』


次はイェソニヒョンの声が聞こえてきて、昔から可愛がってくれたヒョンの変わらない優しさに自然と口が綻んだ。


「ふふっ、今日っすか?いいですよ、でもさすがに少しは寝かせて下さいよぉ」

『いいやっ、僕が勝つまでは絶対寝かせないっ。早くおいで、鍋食べたらすぐやろう!受けてたて!』

「もちろん受けますって、楽しみにしてます♪」


スマホを尻ポケットに収めて左ハンドルのアウディのドアを開いた。

荷ほどきは少しずつやればいいし、やる気も起きない…。

そんな事を思いながら運転席に乗り込む僕の身体は空っぽのように無防備で、


「!!!」


突然の左肩への衝撃をまともに食らって潔いほど助手席のドアノブまで吹っ飛んだ。


「…っ、いっー…っ」


何が起こったのか分からない。
右肩と腕の痛さに縮こまって、混乱してる頭にはバタンとドアが閉まる音だけが浮き上がった。
振り向くと、




「………ユ、、」




平然と僕を見下ろすユノが運転席に座ってた。







「何なの、お前」

「ぇ……」









現実のホミンホ様を満喫してきました!!!((ノ∀`)・゚・。
それでは2012年夏の「片割れ」へ戻りますー。( ´-`)
ちなみに「猛烈に切ない」は、「Rock with U」から頂戴しましたーっ。

片割れ chap.10
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片割れ chap.10 #24

(注意)BL表現ございます。18歳未満の方、ご注意下さい。










______C.side______








ユノは僕を





怨んでいるだろう








僕がユノにあんな状況であんな事をあんな態度で言われたら、きっともう何も考えられない。
激昂してユノを刺し殺すかもしれない。


「……、、」


でもユノは翌日きちんと遅れることなく打ち合わせに来た。目も合わないし合ってもすぐ逸らせるし指先一つ触れなければ名も呼ばれず、ただ「おい」と言って僕を呼んだけども。

その次の日からはいつも通りのユノに戻ってた。
スタッフさんとは笑って話す。日常会話は僕も極力混ぜてくれる。レコーディングもフェスやライブの打ち合わせもよく話し合って褒めたりしてくれる。

とにかくきちんと一日を過ごしてた。
だから僕もきちんと日々を過ごした。


「…んーーー、、、」


ぼやけた覚醒が身体の重さを主張する。瞼を開ければまた今日が始まる。

今日は引っ越しだ。
今夜帰る場所はこの自宅でも宿舎でもなく、キュヒョンの暮らすスジュの宿舎と同じマンション。


「……」


起きたくない。ユノに会いたくない。
シーツに身を包まれてこのまま、深い眠りに沈んでいたい。


「…~ん、ぉ兄ちゃ~ん」




それでも今日は来る。
朝は来る。




「お兄ちゃ~ん!十時よお~!」

「……。やばっ!!」


もう事務所へ向かう時間。ベッドから飛び出してリビングに向かう間に朝食とシャワーの優先順位を考えるけどどちらも時間を取るのは難しい。


「母さんごめん!もう行くから!今まで色々ありがとう、父さん達にも宜しく言っておいて!」

「あらー?まだ九時だったわ♪お母さん、間違えちゃったわ♪」

「…え!?」


シム家の永遠の少女がとぼけて笑う。


「まあ起きれて良かったじゃない♪ゆっくりシャワーでも浴びてらっしゃい♪その間に朝食用意しておくから♪」


そう言えば、宿舎生活を始める前、中学校へ通う僕を母さんはいつもこんな風に起こしてくれてた。その頃は十五分とかの時差だったけど、学生の朝の十五分は肝が冷えるほど貴重。


「…ははっ。また騙されたぁ~」

「お兄ちゃんは昔から変わらないわねー♪」

「……入ってくる」


変わらないのはユノだ。

純粋でひたむきで情熱的で信じたものを信じ抜く。いつもストレートで直球で、でも辛い感情や体調の悪さは表に決して出さない。


「…あつ……」


今浴びてるような熱いシャワーは苦手で、アイスチョコは毎日買って飲んでる。


「ユノ……」


でも何より甘いのは、ユノ本人。

ある日ふと夜中に起きた時、隣に眠るユノの寝顔を見た。
前は口をぽかんと開けて寝てたのに、僕がからかいまくってるといつの間にか閉じて眠るようになってた。
意識のない時間でも僕の言った事を気にしてくれてるのかなって嬉しくなるのに、天の邪鬼な僕がまたユノにイタズラする。

ユノの口に二本指を突っ込むと唇は簡単に開かれる。楽しくなってそのままユノの舌を挟んだり白い歯をなぞったりしてると寝惚けたユノの舌は僕の指を追いかけて舐めてくれる。そうするともう腰が疼いて堪らなくなって、指を入れたままスウェットとパンツを脱ぎ捨てユノの顔に股がったところでユノが薄く目を開けた。


『舐めて…』


夜中なのに。無理矢理起こしてすぐなのに。
指を抜いて既に勃起した僕のモノを下に向けてユノの唇に当てると、猫みたいにふにゃんと目が弧を描いて抵抗なく僕を咥え込んでくれる。


それを思い出して、浴びるシャワーの中で手を自身に絡めてみると、オナニーなんて久しぶりで何だかユノにされてるように感じる。


「ぁ…っ、っん、」


僕の性欲は全てユノが受け止めてくれたから。


僕をとろとろに甘やかすユノは小さな口を全力で締めて吸ってくるから気持ち良くて思わず腰が引けてしまう。なのにユノの手が尻を掴んでさらに咥内の奥へ押し込めるから痺れて触られてもないのに乳首が立つ。


「ぅ、ん、っ、ぃい…っ…」

『んっ…チャン、』


止まらなくてユノの髪に両手を差し入れて、もっとねだってもユノは底なしに僕へ甘い。


『ユ、、はぁ…っ、…音たてて。じゅぼじゅぼって…』

『……じゅ、ちゅ、ジュ…、…、…、』


言葉以上の昂りをくれる。


「ぅ、っ、ユノ、ぉ…、っ、」


それと同時に後ろの蕾を揉んでまた別の快感を与えてくれるから、ユノの顔の上で開いている太股はがくがく震え出してどうしようもない。


『……シていい?』

『ふ…っ、ん…』


自分からユノに股がる位置を下半身にずらして下着を脱がせて、ユノは上体を起こしてゴムを着けながらローションを用意して。

淫らな、誰も知らない、僕たちだけの時間。


「ユノ、ユノもぅ…っ」


そこまできてもユノはなかなか挿いってこない。
興奮した溜め息を吐きながら僕の上のTシャツをゆっくり脱がせてまず抱き締めてくれる。少し離れて優しくキスしてくれる。またきつく抱き締めてくれて、キスは深い口付けに変わっていく。


「ぁ、…っ、ん」


肩や背中や腕や腹、鎖骨や尻、頬をなぞりながら、左手は僕の限界なモノを扱いて、右手は胸の突起を弄って、後ろを少しずつ具合をみるように指で解されるからもう堪らない。
頭を振って髪を自分で引っ張らないとイってしまう。


『もう、っ…』

『…っ、』


待ちわびたユノは少し強引で。腰を掴んで奥まで一気に沈め込まれる。でも性急さに身体も心も震える。
もう我慢できないって気持ちが伝わる。


『…くっ、ぁああっ、…ぁ、あ…っ』

『悪い…っ、、』

『大、丈夫…、』



「ぃ、れて…っ」



『横向いて寝て』

『んっ』


今度は覆い被さってきたユノに片足を取られて、対角線上の肩に掛けられると思いっきり腰を使って一番深いところから一番浅いところまでユノの太い肉棒がナカを這いずり回す。


『チャンミナ、我慢汁出てきた…』 

『ぁ、ぅ、ごめ……』

『なんで?嬉しいって』


「挿れて、欲しい…っ、、」


どれだけ扱いてもユノは居なくて、後ろに挿れたいものもなくて、でもユノでイくしかない。

だって僕はユノに創られてる。


『もっと感じれる…?手ぇ貸して。触ってみな……』


「はぁ、ユ…っ挿れて…っ」


居ないけど。


『挿いってるのつらい?』


頭を横にぶんぶん振る。
もっとして欲しいから。


「気持ちいい…、ぅ、っ、、」

『チャンミン』


もっと呼んで欲しい。その声で。


『チャンミン、好き。可愛い』


別に可愛くないけど。
ユノに言われると照れてしまう。
何とか可愛く見えるようにならないかと試行錯誤する。
そしてそれは、僕の仕草の癖になった。


『キスしよ…』


僕もすごくしたい。

舌を絡めモノを掴まれ痛いほど一番奥でぐりぐり掻き交ぜられるとユノに捕われてる感じがして、その苦しさがすごく好きだった。


ユノが狂暴なほど激しく突き上げながらまるで壊れものでも触れるように。
そっと僕の、息が上がって乾いた唇を舌で舐めてくれるから訳が分からなくなる。


「ユノ、ユノ、、」


『はぁ、、…っ、チャンミンヤバい……すごい…挿いってるな…っ、』


「ぅんっ!!、、」


最高に高まる。


「、はあ、はあ、、っ……イけた…、、」


どくどく出てくる精液がそのままお湯にさらわれ流れて行く様を見ながらどっと安心して溜め息をついた。

オナニーも久しぶりならユノの挿入なしでイくのも久しぶりで、最後はナカでイく感覚を何回も味わったまま終わっていたから自分の身体が今どうなってるのか正直分からなかった。


「……あれスゴかったな、」


『イく』というより、『堕ちる』という感覚。
ジェットコースターの一番上から真っ逆さまに落ちる時の浮遊感。恐怖に近い快楽もユノに導かれて真っ逆さまに堕ちて行った。


「……」


たぶん、


「女の子は……もう無理だろうな……」


綺麗で可愛らしい大好きな女性達。
観賞して愛でる熱帯魚のような存在。それ以上は求められても僕は快感を追求できない。


「もうソッチじゃないし……」


かと言ってユノ以外の男になんて欲情しないししたくもない。そんなの考えただけでゲロ吐ける。


「……どこにも行けないな……」


ユノ以外はいらなかったから
ユノ以外は捨てた



僕はこれからどこへ行けばいいんだろう








「はーい。出来てるわよー♪」

「ありがとう…」


これからまたしばらく食べられない母さんの朝食を咀嚼しながら、こんな朝でも美味しいと思える「お袋の味」に感謝する。


「お兄ちゃん、今日から一人暮らし。頑張ってね♪」

「……うん。同じマンションにキュヒョナも居るし、楽しみ…」


向かいに座ってにこにこ僕を見つめてくれる母さんはやっぱり穢れなき少女だ。母さんの純粋な励ましに声のトーンはどうしても下がっていく。


「ユノ君は宿舎に一人で残るの?」

「さあ、そうなんじゃないかな…」

「寂しくないのかしら?ずっとお兄ちゃんと一緒だったのに」

「……そんな、、もう大人なんだから大丈夫だよ…僕もゆっくり一人の時間が欲しかったし…」


そうだ。ユノの純粋さは母さんにどこか似てる。純粋な人に僕はとことん弱い。


「そうなの?だってお兄ちゃん、ユノ君のこと大好きだったじゃない」

「……、」


一瞬息を飲んでしまったけど違う違う。これは「普通」の意味の好きだ。


「…、まあ…うん、好きだけど…」

「なんで宿舎出ちゃうの?」

「それは、だか…」

「ユノ君が心配じゃないの?」

「…ぃや、その…」

「ユノ君より大切な人がいるの?」

「……っ、」


そんな風に畳み掛けないで欲しい。
ユノより大切な人なんているわけない。

僕はもういっぱいいっぱいで、うっかり目頭が熱くなってしまって。これを流したら絶対まずい。変に思われる。
額を擦る振りをして左手で両目を見られないよう隠す。


「頭が痛いの?」

「別に…」

「チャンミン、人と話す時はちゃんと目を見て話なさい」

「……」


母さんの言うことは絶対。やっぱりユノっぽい。顔を上げて母さんを見ると変わらない柔らかな笑顔があった。


「お母さんに何か知って欲しいことはない?」

「……」


言えないよ。


「なんでこの前あんなに部屋で叫んでたの?」

「……仕事、で」

「そうだったの?てっきり失恋したのかと思っちゃったわ♪お母さん」

「…いや…っ…」

「そうだ♪じゃあお兄ちゃん恋人がいるのよね?近い内に紹介してね♪」

「…っ、、」



もうどこにも行けない
ユノしか居ない
でもユノはもう居ない
 


「……してくれないの?」

「…もう、その人は、、」

「何かお母さん達に分かって欲しい事はない?例えば…、そうねぇ~…♪」


  


だけど僕の全ては

生涯ユノのものでしょう、なんて

 



「お母さん達に海外旅行プレゼントしてでも、どうしても分かって欲しいこととか」


「…っ」
 









スヨン…!!!










「ごめんなさい…っ!」

「うん」





シム家の女性は最強。









「僕たぶん、……結婚は…、、…っ」





僕はそれだけしか言ってない。















母さんがどう解釈したのか




どう受け取ったのか























「誇るべき子供が泣き叫んでね、味方にならない親に私はなりたくない」










片割れ chap.10
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