「今日はもう、泊まっちゃったらどうです?」
純粋に。もっと一緒に居たくて。
「……いやいやいや。それはちょっと、」
「え、何で?明日も一緒の現場じゃないですか」
ユノの肩は掴めなかったけど、靴を履こうとしてる所をすり抜けてユノのシューズを片付けるように玄関の端に寄せた。ユノへ振り返ると、さっきのヒョンらしい格好良さは鳴りを裾ませ戸惑うように目線を落としてる。心なしか肩も落ちて、怒られて気まずそうな犬みたい。
「マネヒョンに連絡したら大丈夫でしょ?」
「…あー、まあ…」
なんか、、怪しい…。
ムカッと小さな火が点った。
「……これからどこか行くの?」
「いや、何もない何もない…」
「…じゃあいいじゃないですか。連絡してよ」
「……」
「……」
決して良くはない沈黙の後、ユノが諦めたようにひとつ溜め息をついてスマホを出した。操作してメールを作る宛先を不躾に覗いて確認すると、ちゃんとマネヒョンの連絡先が表示されていて僕の危惧したものじゃない。まあ許してやるかと思う。
……そもそも許してやるって何だ?
人に携帯見られること自体不快だし、僕はそうなる。案の定ユノも眉をしかめた。
「何だよ」
「別に」
「……」
「……」
不穏な、空気。
ユノが苛立ち始めて、それに当てられて僕も苛立ちがまたむくむくと沸き上がる。
「はぁ、やっぱ帰る。なんか腹立ってきた」
「はあ?今メール送ったでしょうが」
「もう一回送り直せばいいだろ」
「あんたそうやっていっつも忘れるじゃん。明日大変なことになるよ」
「お前が送れって言ったんだろうが。じゃあお前が送り直せよ」
睨み目で僕を威圧してそのままシューズを履こうとするユノに更なる怒りが込み上げてきて、このまま黙って帰すかとシューズを取れないように裸足で蹴り飛ばした。玄関ドアがガコンと音をたてる。
それを見て物凄い鬼の形相になったユノに、右肩を小突かれた。さすが事務所中に恐れられてるユノ、凄みがある。昔は僕も恐かった。今ではもはや懐かしい。
何年この虎と一緒に居ると?
「てめえ、ふざけんなよ…」
「ふざけてんのそっちでしょうが。僕たちの送迎に何人動いてくれてると思ってんの。連絡入れたんなら大人しく泊まれよ」
「そんなん分かっとるわ!!!」
詰め寄られて全羅道の方言を叫ばれるから煩くて仕方ない。体は廊下の端に追い込まれて、ユノの右腕で退路を絶たれたところを左腕が僕の顔の真横を掠めて壁に殴りかかってた。防音性の高いマンションだけど隣に迷惑かかる心配とか考えないわけ?本当に呆れる。
「ちょっとあんたねぇ、いい加減にしてよ。部屋壊れたらどうするんだ!馬鹿力」
「はあ!!?」
「いちいち大声でうるせーんだよ!黙れユノ」
「…………」
もう、これ以上ないってくらいの
逆鱗に触れたんだと思う。
完全に目が座ったユノにハプキドー技で腕を捻られて床に倒されて痛い。うつ伏せにされた状態であまり力は入らない。とにかく空いてる方の腕でユノの脛(すね)を殴りまくった。
「痛い!!!馬鹿ユノ!!!」
「うるせー!チャンミナが黙れ!!!」
僕たちは、限界を越えてた。
あんなにうまくいってたのに、
あんなに繋がっていたのに。
他人の目に揺れて、意見に揺れて、世間体に怯えて、死にそうになって、それでも好きで。信じて。それでもやっぱり罠に落ちて。捨てられるのが恐くて。自分からユノを切り離して。そしたらユノも楽になるだろうって。
それでもそれでも!
ユノが他の人の所へ行くが嫌で。惑わせて。くそ真面目に色んな事を考えて、悩んで、頑張って、やることは全力でやって、相手を想い合って、それでもどうしても、自分は苦しくて。でもユノが心配で。いや心配よりも一緒に居たくて。その自分の気持ちは押し込めて。
そしてまた他人の目に揺れて、意見に揺れていくんだろう。
本当に嫌になる。やってられない。
「痛っ、暴れるなよ」
そう言われて大人しくなる方がどうかしてる。
僕の背中に股がって腰を落としてくるユノに捕まりたくない。締められてる腕の圧が無くなったところでなんとか抜いて匍匐前進(ほふくぜんしん)で逃れようとすると、汗が床にバラバラと飛び散った。
「逃げるな」
「知るかっ!!」
早くしないとユノに今度こそ激痛の走る技を決められそう。バタバタ手足を動かして掴まれないように抵抗したのに、予想外の腰を掴んできたユノの手が僕のハーフパンツと下着を膝裏まで下げた。突然涼しくなる下半身。
唖然。
「……。はあ?」
首を回して振り仰ぐと、僕に膝立ちで股がったままカチャカチャとベルトを外してるユノが居た。
「何してんのあんた」
「……」
僕の問いかけを無視して、ただ自分の股関を見つめながらユノはジッパーを降ろしてジーパンと下着からすでにぱんぱんに勃起したモノを取り出した。
この大喧嘩のどこに興奮材料があったのか。
ヤバい、マジの変態だ。
「変態か!!?」
急いで起き上がろうとすると、ぐっと腕の重心をうまい具合に使って肩を潰してくる。僕はまた床に戻される。そして痩せてもユノはやっぱり馬鹿力。
「変態変態変態っ、パボヤ!」
尻の割れ目に沿うようにユノの巨大な熱いモノを擦り付けられて、さすがに冷や汗が垂れそうになった。
「っ、無理無理無理無理!やだやだやだっ。ユノ、無理だって!」
久しぶりだし。ローションないし。いや寝室に前の残りがあるけど、ここ廊下!!硬い床も痛い!冷たい、硬い!
「お前さぁ、ちょっとは俺のことも考えろよ」
頭が煮えくり返りそうなほどユノのことを考えてきた。考えて考えて、そろそろ血管がぶち切れるはず。
「考えてるよっ!」
「考えてねーだろうが!!」
でもどうしたってユノのモノはすぐに僕には受け入れられない。男だから濡れない。去年ユノに無理やり突っ込んだ時のことがふいに浮かんでゾッとした。ユノ自身は硬度を増すばかり。
「ぃや、ほ…本当に、無理…っ」
ベッドに行きたい。ここでは絶対無理。
何でこんなことユノはするのか。
ユノは無理やりなんて一度もなかった。
「だったら泊まれとか言うなよ!俺はまだ全っ然チャンミナにこうなっちゃうから…帰らせて……、耐えられんわ…っ、、…っ、」
あ、そういうこと。
「、、」
ヤバ……
すごく、可愛い。。
他の人はどう思うか知らないけど、そんなのどうでもいい。僕の後頭部に唇を埋めて、フウフウ欲情を我慢してるユノがとてつもなく可愛い。
男だから分かる。めちゃくちゃつらいはず。
性欲と愛は違うって言うけれど、ノーマルだったユノが男の僕に欲情してくれる。ノーマルだった僕はそんなユノに反応する。それを僕は愛しいと感じる。
愛も性も、謎めいている。
「ぁ、同情とか…もういらないから。マネヒョンにも襲うなよって釘刺されて来たし、、」
「……めっちゃ押し倒されて襲われてますけど、僕」
「うん、ごめん……なさい、」
ゆっくりユノが上体を起こしたところで、いつの間にか床に投げ出されていたユノのスマホが鳴った。
「お……マネヒョン…」
「そう…」
「もしもし?」
『あ、ユノ?メールみた』
電話口から小さなマネヒョンの声が聞こえて、ユノはそっちに気を取られて動かなくなった。僕は起き上がって目の前のユノの身体を眺める。
股立ちってけっこう疲れるのにユノは気にもしてなさそう。でもやっぱり足の太さが無くなってる。
電話に集中するユノ。勃ち上がったモノもそのまま出しててマヌケな格好。そしてきっと無意識に僕の頭を撫でる手。
どれもこれもがユノらしくて好きだと思えて、でも離さなきゃいけない、らしい。この世界では。
「……」
ユノと僕ってどうなるんだろう
答えはまったく見つからない
でも今夜だけでも休戦しませんか?
そういうの
僕たちは聖人じゃない。
「あー、うん…うん……分かってるって。で、やっぱり今日なんだけど、」
宿舎に帰る旨を喋り始めようとするユノにそんなことを胸の内で語りかけながら、僕は四つん這いになってユノをフェラした。
片割れ chap.11
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